最初の犠牲
ピリンキの街では新たなダンジョンの誕生が知らされ、冒険者の間では瞬く間に話題が広がった。そして、冒険者の資格を得たばかりのパーティがそこに挑もうとしていた。
「よっし、行くぞ!俺たちが最初に攻略してやるんだ!」
「ここはEランクのダンジョンだし焦らなければ最深部までは辿り着けそうね。」
「洞窟型か〜、松明の用意はしてるよね?」
三人の駆け出しの冒険者は経験こそ浅いが冒険者ギルドの指導のおかげで多少の心得はある。暗闇が予想されるダンジョンにおいて明かりは最重要と言ってもいい。それぞれが予備の松明まで準備しておりその点について抜かりは無く、仮設された受付に足を向けた。
「おはようございます!俺たち三人で入場の許可を貰いに来ました!」
「かしこまりました。では入場される三名はこちらの水晶に触れてください。」
ダンジョンがここまで浸透したのは死人が出ないからだ。ダンジョン内で致命傷を受ければ確かに行動不能に陥るが、その体は光の粒子に変わり入口に送還される。
そのためには受付に設置された水晶に触れて登録をする必要があった。それだけでなく、これに触れればその者の視界を水晶越しに共有できるという訳だ。
「はい、三名の登録が完了しました。それでは気をつけて行ってらっしゃい。」
受付の者に見送られ新たなダンジョンに足を踏み入れる。中に入るとすぐに暗闇で視界が悪くなり、先頭を進む一人が松明に火をつけた。
「前は私が警戒する。後ろは頼んだよ〜。」
このダンジョンには初めて挑むためそれぞれ緊張感を持って挑んでいた。短剣を身に付けた軽装の少女が先頭を進み、鉈と弓を携えた狩人のような見た目の少女を真ん中に、最後尾は長剣を腰に下げた少年が進む。
最初は何も問題は無かった。遭遇する魔物はベビースライムばかりで冒険者たちの相手にはならなかったからだ。そのせいだろう。いつもの調子で話しながら見つけた階段を降り、進んだ先の部屋で見たことの無い朱色のベビースライムに出会ったが、誰も警戒はしていなかった。
「あんな色のスライムは初めて見たな。」
「どうせ他と変わらないわよ。さっさと退治して先に進みましょ。」
真ん中の少女が弓に矢を番えて狙いを定めようとしたその時、ベビースライムの体が薄ら光る。
「っ!まずい!避けて!」
先頭を進む少女が警告の声を上げるが既に遅かった。ベビースライムは弓を構える少女に向けてファイアーボールを放ち、油断していた少女は避けることができず、その顔に直撃した。
「いやあああああ!!!熱い!!熱い!!助けて!!」
格下と決めつけたスライムに矢を放つつもりが、無様に泣き叫びながら顔に受けた炎を消すために自らの顔を手で叩き、覆い、床を転げ回ることしかできなかった。
「俺があいつを斬る!その間に治療を頼む!」
「わかった!」
腰の長剣は既に抜かれその手に握られている。再び魔法を放たれる前に斬ってしまおうと走り出した。仲間が傷つき、悲痛な叫びを聞いたせいで冷静さを欠いていた少年は、渾身の力で叩き切ろうと剣を大上段に構えた。
「うおおおお!!!!……は?」
勢いのまま振り下ろそうとした剣はベビースライムに届くことは無かった。彼の行動は剣を握る自身の手に強烈な痺れを残すだけに留まっていた。
不意に剣の行方を探すため上を見上げると、天井には氷柱のように伸びた鍾乳石が洞窟の闇に隠されており、大きく振るった剣はその一つにぶつかっていた。既に彼の立つ位置は松明の光が充分に及ぶ範囲から出てしまっていたのである。
「ははっ……嘘だろ……」
その事実に呆けていると視界の下に朱色の光が灯った。光の元に目を向けた瞬間、彼の世界は炎で埋め尽くされた。
「ぎゃああああ!!!」
治療が済む前にもう一人の仲間も倒れ、残された少女は既に戦意を失っていた。実際に死ぬ事は無くともその恐怖はその身に刻まれる。
一刻も早く地上に戻るために立ち上がり、来た道を引き返そうとしたが、振り向いた先にはいつの間にか朱色のベビースライムが二匹いた。
「こんなの……私たちじゃ無理だよ……」
その目には涙が溢れ、頬を伝おうしている。しかしそれが流れ落ちることはなく、二つの炎に包まれた少女は、先に倒れた二人と共に光の粒子に変わりその涙は行き場をなくし蒸発した。
今回個人的に結構好きな回なんだけどみんなはどうだろ?
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narenohate35




