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すり替えられた王女


私が18年ほど生きてきて、最も顔立ちが整った男と出会った。

彼はイアン・ヴォクレール。辺境の銀狼伯という裏社会の番人。

イアンは今にも首を切り割きそうな目で、私を見つめる。


「ジャンヌ・バルトリ。この婚姻で、己が罪人ではない証明をしてみろ」


こうして始まった私の結婚生活。

今思えば、ここから幸せになるなんて誰が予想できただろうか。





ジャンヌ・バルトリは、バルトリ王国の王族の一人となるはずだった。

しかし戦争が激化し、赤子のジャンヌは王の命によって乳母ヨイネと共に逃亡。

ヨイネの故郷である中立国トポリスの孤児院に預けられた。


「ジャンヌ様、貴女は由緒正しき王の血筋。ブローチを決して手放してはなりませんよ」


ヨイネは逃亡中に負った怪我によって、数日後に亡くなった。

孤児院の長であるミゲルは、ジャンヌを隠すために他の子供たちと同じように育てた。


「木を隠すなら森の中、子供を隠すならば子供の中です」


こうしてジャンヌは、何も知らずに庶民の子供たちと同じように育てられた。

だからジャンヌ自身は、自分が王族であることを全く知らなかったのである。


そして7年後、戦争は終わりを告げた。

バルトリ王国は多数の国々の手を借りて、勝利を収めた。

しかしジャンヌの両親と兄弟は戦争に巻き込まれて死亡。

唯一の家族は、ジャンヌの祖母で女王のアンヌだけとなった。


「孫のジャンヌを今すぐに探しなさい」


女王アンナはジャンヌを見つけた者に、宝物殿の三分の一を授けると言った。

バルトリ王国は鉱物が豊富な大地で、特に金と宝石は世界一とされている。

そんな国の宝物殿の三分の一を貰えるチャンスに、各国はジャンヌ探しに躍起になった。


その話はトポリスにも届き、一人の少女の耳に入る。

ジャンヌと同じ孤児院にいたルイーザという少女である。

聡明な彼女は、それがジャンヌの事であることに気が付いた。

他の子供たちと違う雰囲気、院長ミゲルの態度、そしてバルトリ王国の国旗と同じ深紅石のブローチ。ルイーザは、ミゲルに告白した。


「ねぇ、院長。ジャンヌってお姫様なの?」

「どうしてそう思ったんだい?」


彼女は思ったことを全て告白した。


「そうか。でも違うよ」


ミゲルは嘘をついた。

もしルイーザが口を滑らせたりすれば問題になる。

この程度なら神も許してくれるだろうと、ルイーザに嘘をついた。

しかし……


「神に誓って本当なの?」

「それは……」


ルイーザの目は真実を知りたい子供の純真無垢な目に見つめられ、信心深いミゲルは仕方なく告白した。ジャンヌが8歳の誕生日になった時に真実を話し、城へ連絡するという計画を立てていること、しかも財宝は断るつもりだと言う。


「ルイーザ、このことは皆に黙ってくれるね?」

「えぇ、勿論」

「神に誓えるかい?」

「勿論よ!」


無神論者のルイーザは、ジャンヌの事を誰にも秘密にした。

大金を貰えるチャンスを他人に話すほど馬鹿じゃない。

ルイーザは、自分がジャンヌを見つけたことにする計画を考えていた。


だが、鏡を見て考え直した。

ルイーザは、ジャンヌと同じ赤混じりの金髪と同じ青い色と同じ背丈同じ歳、そして同じ魔法の系統である。


そして彼女は、ある計画を考えて実行した。

ルイーザは、その日からジャンヌと共に行動した。出来る限りジャンヌになろうと、言動や服装、髪型、好きな物、全て同じようにしたのだ。化粧も上手くなり、やがてミゲルでさえ見分けがつかないようになった。

区別するのはブローチを持っているかどうかだった。


そして、運命の日。

ルイーザは、ジャンヌに花を取りに森へと呼び出した。乳母の墓にお供え花だと言えば、ジャンヌは付いていくことを知っていたからだ。ルイーザは、周りに人が居ないことを確認したところでジャンヌのブローチを引きちぎった。


「ルイーザ、私のブローチ返して!」

「いいじゃない。ちょっとぐらい」

「ダメよ。そのブローチは、大事なものなの!!」


もみくちゃになりながら、ジャンヌは必死にブローチを取り戻そうとする。

だが、ルイーザによって崖際に誘導させられていることに気が付かなかった。

滑り落ちかけてジャンヌは、ようやく自分の状況に気が付く。

振り向くとルイーザは、笑っていた。


「じゃあね、ルイーザ」


ルイーザは、ジャンヌを躊躇なく突き落とした。

大人でも死ぬ崖なのだから、子供のジャンヌは生きていまい。

彼女はジャンヌとして、ブローチを付けて孤児院に戻っていった。

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