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009 【気遣い】


 ついに俺は例の白いやつと対面することに。


 信じがたいことだが、雲の上に来ている。

 いつも見上げていたあの空の上にある、あの雲だ。


 今日は日本晴れ。

 とても青々とした空だが、遥か上空には雲があったんだな。


 まっしろな雲だったんだ……目を覆い始めたあの白いモヤは。

 いつもは地上から何気なく見ているから綿あめとでも思っていた。

 雲は確かガスなんだよな。

 軽いから浮いているのか、それとも無重力によるものか……それすら知らん。


 ヒュウウ。


 止まっていた風がそよぎ出す。

 足元に少しだけ足場のように雲の切れ端が残る。地上の風景が(あらわ)になった。

 それ以外は、サアァっと蜘蛛の子散らすように消えていった。


 やつが言ったとおり、眼下を見下ろす。

 さっきまで俺の居た場所が、豆粒のように小さく見えている。


 こんな高い所、登ったことがないよ。

 山よりも高い。流れる雲以外はなにも目に映らない。





 ◇




『落ち着きを取り戻したか? そのまま黙って聞くがいい──』




 やつは女神。

 そう名乗った。

 だけど未だに姿を見せないでいる。


 落ち着きを取り戻しただって? 精一杯、恐怖に抵抗しているだけだ。

 身体は固定されたように宙で安定していた。

 何かに縛られている感触は一切ないけど。


 もう俺には何もできやしない。

 説明を求めたことだし、聞いてやるさ。


 どこに視線を置けばいいのか?

 眼下を見ると背筋が凍りそうだから、前を見ていようか。

 ちょうど木の枝に腰掛けていた時の感じになった。


 すると、ぬうっと女神ってやつの半身が俺の顔に近づくのを感じた。



「うおっ! し、白い……。霊じゃないのか。あんたナニモンだよ」


『お前は頭が悪い方か? 説明を繰り返したくはないが。私は神の一族で、神々の住む世界からやって来た』


う~ん。確かにそれは聞いたな。──にしても、頭の良し悪しは関係ないだろ。

 驚愕してるんだよこっちは。

 そりゃあ良い方かと聞かれれば、悪い方だと即答できるぐらいだ。


 俺はやつを睨むでもなく、見た。そしてコクンと肯いた。



『私の世界は、人間が死んだ後に辿り着く天国のようなものだ。神や天国という世界観が嫌いなら、単なる「異世界」と思えばいい』


「嫌いとは言ってないけど。なんで急に優しくなったの?」


『や、優しくした覚えなどないっ!』



 うん? なぜか声がうわずったぞ。



「そうなのか、お、怒んなくてもいいじゃん」


『ただ下界を見渡せば、寺社仏閣が多い街並みだから。お前が好まぬイメージなら行きたがらない。そう考えただけだ、勘違いするな』



 咳ばらいをした後、すこし語気を強める。

 物言いは厳しい感じだけど。


 それを人は気遣いと言うのですよ、女神様。


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