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「マテやマテや。コマさんや」
「なんですか?」
「お前さんのいう、綱隠れとは何かな? わしは聞いたことがないが」
はあ?
なんで、そーなるの。
「師匠は忍者の経験どれぐらいですか? つーか何歳ですか?」
「わしは見てわかる通り、四十五のおじさんだよ。忍びになったのはコマぐらいの歳だったから三十数年になるかの」
すでに三十年以上やってるなら、相当、広範囲の旅も経験したことだろうに。
「色々と経験されたことでしょうし、疑いたくないのですが。鉱山の脇道の山の中にあるらしいのです」
「はてさて、鉱山の奥に山はあったがの。忍びの集落などあれば噂に聞かぬはずがないしの。それは一体どこから掴んだ情報なのだ?」
あ、しまった。
情報源はサスケの任命書だった。
まあでも味方の忍者なのだし、弥彦さんは。
十六歳の駒次郎には信用して喋ってしまったが。
めちゃくちゃ裏目に出たけどな。
このまま黙り込んでしまう訳にはいかないよな。
水遁の話しで信憑性が出て、記憶を失くしたことをせっかく信じてもらえているのに。
「あの、情報の出所のまえに聞いてもいいですか?」
「ああ、いいとも」
「その綱隠れの里には、綱賀天内という長がおられる様なのですが、ご存知でしょうか?」
「ほーう、これは恐れ入ったわ! あの綱賀天内どのの名が出てこようとはのう」
お!
「ほんとっ!? 知ってるの!」
「わしもひとつ、コマに聞いてもよいか?」
「はい、どうぞ」
「耳の穴をかっぽじって良くきいてくれ」
「あ、ちょっと待ってください。今ほじりますんで」
耳をほじれだなんて、ほじほじほじほじ。ほじほじほじほじ。
これぐらいで、もういいかな。
「準備が整いました。あらためて、どうぞ」
「何を隠そう、綱賀天内とはわしの親父さまのことだがの、知らなんだか?」
「…………えっ。……えええ、今なんと仰いましたかっ!?」
「わしの父上だと言ったのだ。それも、もう他界されておるのだよ」
えええええええええ!!!
「なんで、なんで、なんで、そーなるの!」
「なんで、そうなると言われてもじゃな、死んだものは死んだから仕方なかろう。そのように足元からぴょんぴょんと飛び跳ねて何を興奮しておるのだ」
「ご、ごめんなさい。つい驚くほど耳を疑ってしまって。でもそれじゃあ。師匠の忍者の里はどこなのですか?」
「疑うことのない様に耳を通せと言ったのに。で、わしか? そうじゃの、わしらは流れ者だ。よそから移ってきたのだ。元は甲賀者だったがとっくに抜けたのだ」
抜け忍か?
「それじゃ、追い忍に討たれたとかですか? 辛いお話なら聞きませんけど」
「コマはほんとにやさしいの。まあそういうことだがの。……ところで、親父さまの情報源はどこからなのだ? 話してみてはくれんかの」
やっぱりそこ気にするよね。
しかし、任命書がこの時間軸にないからな。
あるかもしれないけど探しようがないし。
まぁ話すだけ話してみるか。
「じつはですね。ツナセ街道を歩いていた時に入手した忍者の書簡があったのです。そこに書いてあったのです」
興味深い、といった顔で頷き、次の言葉を待っているようだ。
「殺されかけたときに、紛失してしまって今は手元にないのですが。師匠、紙と筆をお持ちでしょうか?」
ちょいとマテ、といって荷物から取り出してくれた。
こちらも少しだけ時間をもらって後ろを向かせてもらった。
お願いだ!
うまく反応してくれ。
「……(女神エンジン! 紙に文字を書くから文字の変換を頼む)」
俺が見てきたあの場面を調べたのだ。
任命書の内容を見た、あの場面だ。
俺が一度でも垣間見たものなら調べて出せるわけだから、記憶にエンジンだ。
いっそ調達を頼みたい。
だが今師匠に渡された紙に書くのだ。
読む方は親切に変換してくれたのだ。
書く方もぜひやってくれ!
俺の脳内に埋め込まれていて、女神エンジンは身体の一部なのだから俺の神経に働きかけて昔の文字をなんなく書かせてくれ、ということを即興で試みたのだ。
ピピピピ!
ヨロシイ…デショウ……受理シマシタ。
昭和時代文字と江戸時代文字を鍛錬中枢神経にインプットいたシマシタ。
おお、ありがたい!
これで完成だ。
「師匠、お時間を取らせました。こちらをご覧ください」
弥彦師匠に例のサスケの任命書を見てもらった。




