085 【光る瞳】
事情は飲み込めた。
盤次郎は「そのことで嘆いていても始まらない」と。
そういって今後の対策を考えよう、と前向きに検討をする。
「それこそ弥彦さんに会うべきだし、師匠には打ち明けなければ。オレではお前のことを守ってやれないから。忍びのことは忍びに聞いてくれ」
「その人はどこに行けば会える?」
「ああそうか。それすらも覚えてないのか。それならカミセ街道はわかるか? 寺のお堂の脇に横たわる道だ。そこまで出れば、地面に繋ぎをとるシルシがある。小石や小枝でつくる目印だ」
「ああそれなら分かると思うよ」
「相手の目印があったら、それをどけて自分の目印を置く。そうすりゃここで待つという意味になり、次の日にでも落ち合うことができるから」
「自分の目印か……」
「駒次郎はなにか自分を象徴するものを決めていないのか?」
「いや、一応あるにはあるけど」
「なら、それを使えばいい。基本はそれを使い回せ、そして変えないことだ。印と自身は同一だと強調するのが信頼につながるというものだ」
そういう繋ぎの取り方は初体験だな。
自分のこだわりか。
弥彦のものはどんなものか尋ねた。
「師匠はどんな感じのシルシをおいてたの?」
「天から降る「雨」だったよ。この地に因んだものだと教わった」
「それって、ここらへんにはよく雨が降るってこと?」
盤次郎は「察しがいいな!」と頷いた。
雨の表現が難しそうだと漏らすと、「小枝を斜めに三本置くだけだ」。
なるほど。それが忍者弥彦の印。
字を表すのではなく。
イメージをデザインしてるわけか。
閃きを必要とするやつか。
得意ではないが。まあ何とかなるだろう。
「それなら帰りにカミセ街道に行ってみるよ。ところで──」
「うん?」
「バンさんと俺、最近どんな約束や話をしたっけ? 毎日会っていたらしいってお里親子から聞いたから」
「相当やばいな。一連の行方不明者の捜索に参加するのがオレの初任務だ。そこで認められたいから、お前に情報収集を頼んだ。お前の方から力になってくれると言われたときは涙が溢れたよ」
俺が調査をし、盤次郎に情報を渡す。
盤次郎が出世するためだけの立役者を自ら陰で努めていたか。
面白い役どころだ。
いいぞ、それでこそ忍びだ。
「それなら望む所だよ。あともう一つ、いいかな?」
「なんだ? なんでも聞いていってくれ」
「藤吉郎先生に聞いたんだが、バンさんと俺が似ているとか言ってた。そして何だか他所から流れ着いたようなことも」
「まあ……なんだ。事実だからな。お前たちにも伝えてあるのだが覚えてないんだな」
「うん、大切な想い出なのに。ごめんなさい」
「仕方ないだろ、思い出せないものは気にするな。オレはよそ者だ。ここよりずっと離れた遠くから来たんだ。お前が想像もできない程、遠い所からな」
なんだよそれ。
もったいつけた言い方だな。
まあ地名を聞いても分からないだろうという意味だろうな。
俺は幼い子供だからな。
駒次郎じゃない俺も、アンタが想像もつかない場所からやって来ましたけど。
片道切符だから帰れないけど、盤次郎の方は故郷があるだけましだな。
「遠くたって故郷があるならいつか帰れるから、いいじゃない」
「帰れる……か。ただで戻るつもりはない……」
「えっ? なんのこと…」
「いや、ほら。親父のことだよ。オレはな父親を捜してこの地へやって来たんだ。もう三年も経ったが何も情報が得られてないままだ」
へえ、そうなんだな。
「先生のところの寺子屋に探検がてら行ったとき、こんな集まりがあることを知ったんだ。ここに通わせてもらえて面子に加えてもらえたら、色んな情報が手に取るように分かるから、親父の情報もそのうち飛び込んでくるかもしれない。そう駒次郎にも打ち明けたらお前は惜しみなく協力してくれると言ってくれたんだぞ」
語る彼の瞳が潤んできらきらと光る。
それは真実の感謝の表れだろう。
マジか。
駒次郎、いい奴じゃねえか。
俺だって無期限の滞在が可能ならそうしてやるところだ。
手伝えることぐらいあるだろうと。
「バンさん。改めて協力することを願い出るよ。俺……バンさんの御庭番、一生懸命勤め上げるからね」
「ありがとう。駒次郎…」
彼は俺の手を取り、肩を抱き寄せると顔を見ながら軽く微笑むのだ。
お前だけが頼りだ恩に着る、と切実な想いをぶつけて来た。
そういう繋がりだったのだな、この二人は。
それならば師匠の弥彦も周知しているはずだな。
だから周りにいるのだろう。
そばで協力をしていれば役人たちの持つ情報が入手できる。
忍びにとっても有益であるよな。




