083 【疑問符】
俺がそう訊ね返すと盤次郎の顔つきが曇った。
「お前…さっき勢いつけて軽業をやり過ぎたんじゃないか。頭大丈夫か?」
軽業の宙返りのせいで目が回っているのだろうと言うのか。
ならロレツ自体が回らなくならないか?
そんな遠まわしな言い方で意地悪しないでくれと彼の眼を見てむくれると。
「奉行の顔を見忘れたのか?」
問いかけの答えをくれると同時に、また同じ疑問符を投げかけて来た。
だからなのか。
俺も奉行の顔を知っていたんだな。
こりゃ、頻繁に奉行所にでも忍び込んでいるのかもしれない。
すかさず頭を抱えてとぼけることにした。
「あ、頭が…。そうなんだ、まだハッキリしてなくて。ごめん」
いけない。
やっぱりそっちか。
その可能性も脳内にはあった。
俺は誰の顔も見覚えがないからな。
目の前の奉行は替え玉か何かだったか。
仲居が教えてくれたことを鵜呑みにし過ぎていた。
料亭の者達もそこまでは把握できていなかったのだな。
「これは恒例の行事だ。奉行が不在なのに開催はできない。あれは代役だ。それと大名たちの一件はあまり広めるべきではないとの決定なのだ」
「うん。ではそのことを皆で知恵を絞って解決策をひねり出していく予定なの?」
「それが知恵を絞って謎解きをしているのは、大名の件ではないのだ」
「え……なんで? このままじゃ先生もバンさんもタダじゃ済まないのでは?」
大名の件をこの子らに委ねるわけは流石にないかと思い、それを率直に聞くと。
盤次郎は顔をさらに突き出していう。
「ここだけの話。駒次郎、お前だから打ち明けるが。この所、幼子が行方知れずになって捜査の網に一切掛からなくて役所が頭を抱えているのだ」
「迷子の捜索か。この町ってそんなに広いのか? 見つからないなら町を出たか、埋められたかのどちらかだよな」
「縁起でもないこと言うなよ、子供たちの親を見たら胸が詰まるぞ」
そりゃ死に物狂いで探し回るだろうし、夜中もおちおち眠れないだろうから。
会って話なんか聞かされた日にゃ、胸が詰まるどころか潰れる思いだろうな。
子供たち?
何人、行方知れずになってんだよ。
「大勢、居なくなったの?」
「ああ。役所の調査では西町の方でも三人いて、こっちは今月に入って5人目になる」
「今月は何人居なくなったの?」
今は真夏だから八月か。
「一人だ」
「居なくなった子らの名前ぐらいは判明してるんだよね?」
「まあな。親や家族の届け出があっての事件だからな」
「取りあえず。俺も気にかけて置きたいから、名を記してくれない?」
長机の上の筆記用具を指差していう。
盤次郎がその八人の子の名を紙に書いて「これだ頼むぞ」と手渡してくれた。
ごく普通にこの流れに至った、ということは。
俺は読み書きもできて、忍者のスキルも身に付けていることをこの男は日常的に知っているということになる。
俺達はいったい何者で、どういう関係なんだよ。
わざわざ聞くとまた頭が大丈夫かと聞かれそうで、うっとうしい。
いまはそれを問うタイミングではないと分かる。
ここは取りあえず、渡された行方不明者のリストに目を通しておくか。
「どれどれ。西町の、長松、正太、佐助。東町は、太きち、こうた、四郎、五郎太、佐助。……うん? 子らの歳は幾つだ?」
「まちまちだ。だいたい、六つから十だが、どちらにも同名の者がおるだろ、東は六歳だが西のは十四だ。それは幼子とは言わんので迷子かはわからんが、いずれも帰ってくる気配なしだ」
どこの世でも結構な迷子が出ているもんだな。
いわゆる神隠しってやつの話題かよ。
それにしても、佐助……?
サスケ……偶然だよな。そして別人だよな。
行方不明だから入れ替われなかった?
いやそんなぐらいじゃ不具合は起きない。
女神の言ったことが今さらだが気に掛かる。
女神ですら探し出せていないのだ。
関連しているのだとしたら、とても不可解だ。




