079 【再会】
料亭の仲居に部屋まで案内され、その際に仲居から手ぬぐいを一本拝借する。
それを頭からほっかむり、あごの下で結ぶ。
それはドジョウすくいをするひょっとこみたいな風貌だ。
顔を隠して身バレしないようにするのだ。
盤次郎は俺のこと……いや駒次郎のことを目に入れても痛くないぐらい大事にしていたということだったから。
べつに鉢合わせても嫌な顔はしないのかも知れないけど。
奉行のような高貴な者が居れば、粗相が出ないかを案じて長屋に返されるかも。
そう思っての行動なのだ。
ここまで来て、少なからずだが事情が垣間見えてきたんだ。
探偵ごっことは、なかなか面白そうな事情なので。
見つかって、子供だからとすんなり部屋から追い出されてはつまらない。
ちょうど旅芸人を余興で呼び入れていると聞き、そこに紛れ込んでいたわけだ。
寺子屋の生徒たちが正座をして、海鮮料理などが並べられたお座敷用の長机の前に、ヅラヅラと並んでいた。
人数にして十人ほどで、各人の隣に大人の男が座している。
恐らく他の寺子屋の教師なのだろうと思う。
一人ずつ自慢の生徒を連れてきたのだとすれば、盤次郎を含めて五人が生徒。
付き添いの教師は四人で、一人はこの会合を進行する司会役のようだ。
参加した寺子屋は全部で五組ということだ。
さらに上座には奉行と見られる風体の侍が、でんと腰を降ろしていた。
生徒たちの接待用なのか、旅芸人が座敷の下座に据えられていた。
利用している座敷の部屋は結構広く、ふすまを隔てて二部屋にも及ぶ。
その下座方向にあるもう一部屋に俺達は面を伏せて控えていた。
この一座には部屋に来る前に速やかに話を通して、仲間に加えてもらったのだ。
これからもてなす客の中に奉行に見初められた自分の家族がいると伝えたのだ。
藤吉郎の手紙も見せて信頼を得た。
陰からの応援なので誰にも内緒にしてもらった。
司会が催しの開始の音頭を取った。
「えー。只今より恒例の推理勉学会を始めたいと思う。まずは景気づけに…」
司会役がパンパンっと柏手を打つ。
皆の視線が一気にこちらへ向いた。
これは芸人に唄や舞いを要求するものだ。
出番が訪れた。
早速、三味線の音に合わせて唄が始まった。
会話がほとんどなかった。
座敷に呼ばれたら合図とともに芸を披露するのが旅芸人。
芸が一通り終わったら、すぐ部屋からの退出が頭をよぎる。
ピーヒャラと笛の音も鳴りだし、太鼓の音もあった。
民謡のような古めかしい曲調で地方の旅の唄のようだ。
退屈な内容の唄だが、見よう見まねで一緒に踊りを舞った。
だが、そのおかげで向こうの座敷部屋の様子をチラ見する事が出来た。
ここで、あまり目立つのはまずいのだが。
前に出過ぎず、隅っこで芸を真似る程度だ。
だが、このまま出し物が済めばサヨナラをしなければならない。
それこそが本当はまずい状況なのだ。
なんとか盤次郎の前に行き、俺を視認させねば。
そして再び部屋を訪れ、同席する運びに持ち込みたいのだ。
このままでは終わりが来てしまう、そう思ったら足が勝手にお膳の前に。
フィニッシュと言わんばかりに軽業を披露してやるのだ。
「そーれそーれ、そーれ! えいやあ!」
ツナセ街道でひ弱を演じた駒次郎に自慢げに見せたあの軽業を。
助走無しの後方倒立回転跳び。
バク転、バク宙を華麗に舞って見せた。
「ほう、なかなか見どころがあるではないか!」
そう舌鼓を打ったのは上座で、でんと構えていた奉行だった。
次いで、「あッ! 駒次郎」その声は囁くように小さかったが。
思わず声を漏らしたのが盤次郎なのだ。
青年の彼には一度会っている、確かにその面影はある。
真面目を絵に描いた様な男児だ。
やっと会えたな、盤次郎。




