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 牢に放り込まれたときは理不尽な仕打ちに腸が煮えくり返っていたが。

 鬼平はともかくとしても。


 この藤吉郎の人間性に救われている。

 

 そして盤次郎も相変わらずの自己犠牲の星の元に生まれているようで安心した。

 その性格のおかげで藤吉郎と俺はこんな目に遭っているが。

 きっと俺でも子供を庇ったのだと思う。

 俺の場合は特殊な存在だから、人助けで命を落としても甲斐があるのだが。


 さて、これからどうすればいいのだ。


 

「先生、小夜子さんは知らせに来た生徒さんと番屋へ行くと言ってました」


「うむ。……状況をつかむために行ったのだな」


「俺が行ったときにはもう居ませんでしたけど」


「なに? まさか! 大名の屋敷へ行ったのか……」



 え? 

 娘はなんというクソ度胸の持ち主なのか。

 行ってどうするというのだ。



「ということは……ご実家は、お金持ちなのですか?」


「いいや。ご希望に沿えるほどの裕福ではない。金の工面ができているなら私が入牢を申し付けられてはいない」



 何だ。

 たいした財力もないのに行ってどうするんだよ。


 これじゃ先生もまるで人質だな。



「まあ、お奉行が先行しているから大事ないとは思うが」


「結局、ここでも大金が必要……」



 それを工面できなければどうなるのだ。

 ああ、それで奉行が交渉に行ったのか。

 それより…、



「先生はどうして同行されないのですか?」



 なぜ捕まっているんだ、この人?

 先生は逃げも隠れもしない人柄だし。

 牢に縛る理由なんかないだろう。



「大名の進行の邪魔をすれば大罪だ。投獄は見せしめなのだ。同行をさせてくれと頼んでみたが、これは個人的な問題ではなく、藩の大事でもあるゆえだ」



 やっぱり人質じゃないかよ。


 そういえば、藩の名で大体の地名が分かるのだった。

 わかった所で何の役にも立たないだろうけど。



「ここは何という藩なのですか?」



 藤吉郎がまじまじと俺を見た。

 なぜだ?

 変なことを聞いてしまったのか。

 まずい。

 それぐらい知っていなければおかしかったか。


 藤吉郎が一拍の間を開けて笑みをこぼして、



「ここは、京の町室藩だよ」


「マチムロ? え、京の都なの? 京だと伏見の淀藩が有名だけど…」


「駒次郎といったか。君は本当にあの長屋の出か? まるで他所から来たみたいな物言いだが」



 こ、この人。

 俺を試している?

 いまの間はそういう意味だったのか。



「ご、ごめんなさい! 勉強不足で間違っていたらごめんなさい」


「なにも謝ることはない。淀藩で間違いないからの」



 藤吉郎はクスクスと笑いながら前言を撤回した。


 はあ?


 町室は引っ掛けだったか。

 何がしたいのだ、遊んでいる場合か。

 そう思いながらも、あたふたしていると。



「試したりして悪かった。──盤次郎との出会いもよく似ておる。いったい何処から来たのか不思議な奴でな、あいつは」



 それ、どういう意味だよ。

 よその地方から来たってことなのか。

 なにが不思議なんだ。


 貧乏人がどこからやってこようと、それを武家が気に掛けるほうが不思議だよ。

 よそから来るぐらい江戸時代なら当たり前で、流れ者だらけだったはずだ。


 ここに長居は無用だな。

 鬼平に手短に済ませるように言われているし。



「俺はバンさんが心配だから、このままカミセ宿場のほうへ行こうと思いますが、大名の屋敷が道中にあるのなら寄って、お嬢さんに何かお伝えしましょうか?」



 藤吉郎も自分の娘が心配でない訳がないだろうし。

 伝言ぐらいは聞いといてあげるか。



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