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073 【交渉】


 俺の心はいつもより多めに叫んでいた。

 役人に向けて説明を求めた。

 だが声が出ていない以上、届きはしない。


 冷たい牢の床。

 ひとつしかない敷き藁の寝床には大柄の鬼平が横たわる。

 仰向けにされ首元に太い腕を掛けられ、天井を見つめていた。


 また死線が近づいているようで怖かった。


 縛られてここへ突き出された時からそういう運命ではないかと。

 一抹の不安はあった。

 放免するのが簡単なら、なぜ放免しないのだ。

 他の子が巻き添えを喰らうならそれを阻止するのが役人ではないか。


 役人は体のいい事を言っただけだった。


 そうなったらそうなったで処理が面倒くさいということだ。

 結局ババアたちの言いなりだったか。

 誇りなど持ち合わせて居ない様だ。



「どうした? そんな難しい顔をして」


「あ。放して…くれませんか?」


「つれねぇこと言うな、おめぇが誘ったんじゃねぇかよ」


「な、なんのこと?」



 マジで、怖いんですけど。

 震える心を隠しながら平然を装った。

 冷たく突き放すような物言いをした。


 機嫌を損ねたのか…。

 鬼平は俺の頭部を抱え込み、自分の胸の衣服の中に押し込もうとした。

 ぎょっとしながら…。

 俺は必死に両腕を相手の胸板に立てて、抵抗をする。


 何をさせたいのか知らんが断固拒否ってやる。

 まあ大体わかっているさ。

 変態的行為なのだと言う事は。


 こうなりゃ勇気を出して逆手に取るしかない。



「おじさん、俺…そっちの気はないので解放してください」


「なんだと? 儂を弄んだのか?」


「なんでそうなるの? おじさんの勘違いですよ。俺はただ暑かっただけ…」


「儂は、その気もない子を抱いちまったというのか……」



 鬼平はすっかり自分だけが舞い上がっていたことを恥じ入るように暗い声を漏らした。


 だが直後に俺の手を握って「すこし、ここをさすってくれ…」といい、力ずくで引っ張った。


 引っ張られた俺の手が行き着いたのは鬼平の股下あたりだ。

 何かごろっとした塊が掌に伝わった。

 俺も男だ。

 それが何か、それがどういう行動かは察しが付く。



「……もう気持ちを止められねぇ。もう少し付き合え、な?」


「そ、そんなことをしても空しくなるだけでしょ?」


「おまえ……これの意味が分かるのか?」


「……その…えっと」


「そうか。……やっぱり苦労して生きて来たんだな? 儂も幼い頃から強いられてきたから気持ちはわかるぞ…」



 えっ、やばい境遇の持ち主だ。

 親が居るのにそんなわけないだろと言いたい所だが。



「い、痛いよ。うえぇええーーん!」


「す、すまんっ! 泣かないでくれよ。なにも乱暴はしてないだろっ」



 ここは泣いて誤魔化す。


 鬼平は困り果てた顔をして取り(つくろ)う。

 今のは乱暴の内に入らないのか。


 俺の方は嘘泣きに決まっているが。

 つまり、そういう趣味の人か。

 

 ならば、この者を利用しない手はないな。

 べつに弄ぶわけではないが。

 味方に付けられそうな輩は死に物狂いでそうして置かねばいけないのだ。


 今回も死ぬ確率が下がっているわけではない。

 なんだか俺は大名行列のあるあるに近づいていく気がしてならない。


 子供にジョブチェンジしたからな。


 しかし、これは何と呼ぶべきなのか。

 男児ロリコン野郎でいいのか。



「ねぇ、おじさん。子供がすきなの?」


「あ…いや。ほんとはもう少し大きい奴が好みなんだが」


「そう。お小姓さんみたいなの?」


「あ、ああそうだ。けど……怖い目に遭わせた儂なんかもう…嫌いだよな」



 落ち込む鬼平に俺は首を横に振って否定した。

 それはそれで勇気の決断ではあったが。



「それならこうしようよ。俺が大きくなってからまた会えばいいじゃない?」


「えっ! 大きくなっても……また会ってくれるのか?」


「あと十年ぐらいしたら身体はずっと逞しくなっていると思うよ」


「逞しく?」


「俺さ、忍者みたいに強く成りたいんだ。だからウンと鍛えるつもりだ」


「それで、逃げない保証はあるのか?」


「おじさんも役人でしょ? 見張っていればイイよ。このままだとお奉行様に報告することになるけど、大丈夫ですか?」



 報告の意味は理解し、首を横に振る。

 そして交渉内容に鬼平は納得を示し、頷いた。



「儂も鍛えて置く。十年後にこの奉行所の牢の詰所に来てくれ」


「今は、ここから逃がしてくれるよね?」


「なんとか目を瞑ってやれるが、約束は果たしてくれよな」



 彼は念を押す。

 俺は真剣な眼差しを向ける。



「あと、大名はどんなことを要求しているのか分かりますか?」



 彼は静かに頷いた。


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