071 【問答の末】
あまりに喚き散らしたものだから、猿ぐつわを嵌められた。
上半身も縄で縛られた状態だ。
「くそっ」不覚を取ってしまった。
背後から一気に掴みかかられた。何も気づかない振りをしていた婦人が一人いて。
どんなにキツイことを言おうが、人の親であり母親だと油断していた。
絵に描いたようなコソ泥のように情けない姿にされた。
そのまま問答無用で奉行所まで引きずられて来た。
お奉行が留守で、下っ端の役人も大名行列を足止めした件でざわついていた。
ここにはもっと人手があっても不思議じゃないのに。
人が出払っているようだった。
「さあ、前に出なさい! お役人さま、この者は例の件の首謀者の身内と見られる者で御座います」
「だから何だと言うのだ? こんな幼子の自由を奪って……なんということを」
「そのようなことを仰っている場合ですか? お奉行様の首も危のう御座いますのに…」
「何を申すのだ。首が危ういのは藤吉郎ではないか。お奉行が責めを負うなどあり得ない。滅多なことを申すものではない」
「ですがお相手はお大名で御座います。ご無礼があれば御家紋のお取り潰しもありますでしょう?」
「なっ……なんということを申すのだ! 口を慎まぬか!」
奉行所に居残っていた役人は2人いて、どちらも若かった。
若いといえど役人ぞ。
だが実際、婦人たちの物言いと形相に気圧されている。
人数では婦人方の方が多い。口々に奉行の行く末を案じる声明を出す。
「藤吉郎先生をお守りできないお奉行をわたくしどもが捨て置くはずもありません」
「それは、どういう意味だ?」
「こちらの奥様はご家老様の姪に当たるお方ですぞ。民の暮しをロクに立てられぬ者をいつまでも奉行に据え置くものですか!」
「そうザマす! 私たちは心を鬼にして糾弾しているのです。あなた方の詰めの甘さが最悪の事態を招いた際には責任苦れは許しません、そういうことザマす!」
「なんと! ご家老様の…。その奥方様のご子息も藤吉郎の所の塾通いですか?」
「うちの息子達は通っておりません。この者たちの嘆きに賛同したまでじゃ」
若い役人では婦人を武力で従わせるような行動に出ずらいようで。
それを見越した様に、役人を責め立てる。
それに権力の後ろ盾も持って居るようだ。
肝心の奉行や先輩役人たちが留守なのを良いことに。
責め放題だ。
「……仕方ありませんな。取りあえずその子はこちらで預かっておきます」
「お頼み申します。必ず囮に使い、張本人をおびき寄せるのですよ」
「それじゃダメザマす! お大名に直接引き渡して先生を放して頂くのです!」
「ああ、どうするかは役所が決めることだ! もう下がれ! 役所の命に従わねば謀反と見なしますぞ。そちらもただでは済みませんぞ。お下がりくだされ!」
もう一人の役人が強気で返し、婦人方も気持ちを納めることにしたようだ。
俺の身柄は、婦人方の強い糾弾姿勢により、奉行所預かりとなる。
立ち去る際に俺を疑った婦人が念を押す。
「お役人さま、幼子だからと甘やかしてはダメで御座いますよ。首謀者を逃がさない為にもしっかりと牢に閉じ込めて置いてください!」
なんて余計なことを言うんだ、このババア。
俺はその婦人を睨みつけた。
「そう案ずるでない。任せて置け。只今お奉行が話を伺いに出向いておられる。じきにケリがつくはずだ。吉報を待て」
役人に宥められて婦人方は奉行所を後にしていった。
そういうの、奉行の務めなんだろうか。
大名ともなれば高官でなくては取り合ってもくれないだろうけど。
逆に奉行で大丈夫か。
「んぐぐぐ……」
「これ、騒ぐ出ない。大人しくしておれ!」
たのむ俺の話を聞いてくれ!
後ろでに縛られてひざまずいている俺は何とか声を上げようとするが。
役人も頭を抱えて、取りあえず牢に入れて置けと言った。
まったく酷い扱いをするものだ。
児童虐待だ。
地位と財のなき者にはこうも風当たりが冷たいのか。
悔しいがとても見返してやる要素を持ち合わせていない。




