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007 【忍者とUFO】


「ぽかぽか草どこなの?」なにを口走っているんだ、俺は。なんの記憶だ?


 涙目になっているのは分かるんだ。

 みっともなく鼻水も垂らしているだろう。

 味気のなくなった割りばしを噛みしめながら。

 背筋がゾクゾクとして、凍り付いていくようだ。


 呪いか祟り……。

 周囲一帯が白いモヤに包まれて行く。


 言いたくない台詞が脳裏をかけ巡る。

「……生まれてごめん」さっきまで胸に輝いていた太陽がみるみる沈んでいく。



 誰にも気づかれたくないよ。──涙目になる俺なんかを。

 自分でも大嫌いなんだソイツは。

 鏡なんか大嫌いなんだ俺は。

 センチメンタルなんか大嫌いなんだよ。

 俺は、けっして孤独なんかじゃない。淋しんぼなんかじゃない……。


 ──だけど。確かに、日々、悶々としていたよ。


 生まれて此の方、一度も嬉しいことなかったもん。

 水飴せんべいなんか、()の下の駄菓子で真実のスイーツじゃないもん。

 楽しいことプレゼントされてないもん。

 意地悪しかプレゼントされてないもん。


 風邪引かないもん。

 仲間外れしか引かないもん。

 人当たりは良くないもん。

 挨拶ほとんどしないもん。


 お風呂に入ってないもん。

 頭、洗ってないもん。

 顔、洗わないもん。

 歯、磨かないもん。



「忍者とUFOは買いだもんっ」



 もう、英語の授業中に世界地図のことを「便所と寝床」って訳さないから許して。

 ただ人前で涙を堪え続けただけなのに、涙腺キレ男とか言われ続けたもん。


 蹴られても、なじられても、言い返せないことが罪?

 服を全部取られて、女子便に閉じ込められても泣くもんか。

 そんなやつらに聞かせてやる声などない。


 俺の内側のなにも知る権利を与えてやらないだけだ。

 俺の声は俺だけのものだ。

 俺の気持ちも、本音も、思考のすべてが俺だけのものだ。


 分けてやるもんか。

 話すもんか。

 聞かせてやるもんか。


 俺の声は俺だけのもんだ。

 俺は、俺とだけ話すんだ、悪いかっ!

 自分の機嫌ぐらい、自分でとれるんだよ。


 だからお前らの何かも、一切、受け取るつもりはねぇんだよ!


 罪なんて犯してないよ。

 前科ひとつもないもん。


 子供が駄々をこねるように、後ろ暗い気持ちを抱えて。

 普段の行いが悪かったのだろうか、と反省しながらも否定をする。

 内向的な性格が浮き彫りになってくる。


 夏に水飴せんべいに、たった二十円使っただけでしょ。

 食う権利も奪うのかよ?

 

 自分は何も悪くはない。

 悪行を重ねてきたつもりなどないと首を横にふり、断固否定する。

 だが、ほとんど声にはならない。


 

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