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 次の日の朝が来た。

 昨夜はよく眠れた。

 あの後すこし女神エンジンをいじってから床に就いたのだ。

 おかげで頭が疲れて来て、ぐっすりと眠れたよ。


 朝、目覚めたら母親はもう出かけていてちゃぶ台の上に書置きがあった。

「朝ごはんをしっかり食べて。

 お昼ご飯はお向かいで。

 帰りは夕方になります」


 朝飯にしよう。

 残したら母がかわいそうだ。

 むしゃむしゃ、ごちそうさま。


 お腹一杯にはならない。

 ごめんなさい。自分のおむすびを取り出して食べる。

 お腹いっぱいになった。


 昼飯はお里の家に頼んであるのか。

 ああそうだ。

 寺子屋へ行くんだった。

 お里を引き連れて行くのは、めんどくさいな。


 俺が連れ出して何かあったら、また注意を受けそうだから。


 じゃあ今から一人で出かけよう。

 寺子屋の場所は長屋の住人なら誰でも知って居るよな。

 家を出て表通りに出るまでの一軒一軒を当たってみる。


 そして聞き込みをして、わかった。

 裏からでも行けるし、表通りからでも行けるそうだ。

 どっちから行っても同じぐらいの距離みたいだ。


 早速、忍びの足でひとっ走りだ。

 俺はこの俊足に韋駄天と名付けたい。


 寺子屋に到着した。

 見つかってはいけないので教室の外からそっと覗くことにする。



「あなた! 見かけない子ね。勉学に興味があるの?」



 うわ、びっくりさせんなや。

 注意深く周囲に誰も居ないか確認をしたんだけどなぁ。


 その声に振り返ると、12歳ぐらいの女子がいた。

 結構な美人だった。

 返事をしないといけないな。


「俺は駒次郎、7歳です。べつに勉強に興味がある分けじゃないんです」


「それじゃあ、どうして教室をこっそり覗いてたりしたのよ?」



 こっそり覗いていた所を君もこっそりと覗いていらしたのですか?



「俺は、東の長屋からきました。先日、こちらに引き取られて来た盤次郎の友達なんです。バンさんのことが心配になって、その様子を…」


「まあ、あの子のお友達…。孤児の世話が好きなうちの先生が勉強熱心なあの子をたいそう気に入られて引き取ったようなのです」


「それなら安心しました」



 この美人の女子も生徒さんかな。

 容姿端麗、明朗活発。


 あ、そうだ。

 名前を聞いとかなきゃ。

 そう思い声をかけると、「小夜子(さよこ)です」と返ってきた。

 歳は予想通りの12歳だそうで。

 優しそうな子だ。

 

 盤次郎は確か…11歳ぐらいかだったかな。

 ここなら貧乏の出でも、酷い扱いを受けないで済みそうだ。


 それなら安心だ。

 毎日ここへ通ってくる理由もないし、帰ればいいか。

 ひと目、顔を拝んで行こうかとも考えたけど、俺が黙って居なくなっているのでお里が怒っているかもしれないし。


 帰るとするか。


 と思い、出て行こうとしたら。



「折角いらしたのですから入ってもらっても構わないわよ。暑いから喉が渇いたでしょ?」


 

 え、そんなにしてもらえるの。

 小夜子はにっこりと微笑んでどうぞ、と言ってくれた。

 それならお言葉に甘えてそうさせてもらおうかな。


 手習いの教室以外は私室だろうから、教室へ行くのかな。

 盤次郎はどの子だろうな。



「バンさん……駒次郎だよ!」



 様々な年齢の子供たちが居るのかと思ったら、小夜子と同じくらいの大きい子ばかりだった。


 十人ほど座っていた。

 あれま、ほとんどが男子だった。

 あまり女子が通うのでもないのかな。

 それともたまたまかな。


 きょとんとしていると、



「おいオチビちゃん、盤次郎のツレか?」


「え、はい。駒次郎といいます。よろしくお願いします」


「へえー、挨拶したぞ、いっちょ前に」



 ゲラゲラと人が笑い出した。


 え、なんだよ挨拶したぐらいでいっちょ前とか。

 俺はお前らより目上だぞ、内緒だけどな。


 よく見りゃ、長屋の連中とは身なりが違うようだ。

 これはしっかりと授業料を支払って通って来てるお偉いさんの子息かもな。



「あの…バンさんは?」


「見てわかんないのかよ! 盤次郎ならいないよ」



 え、いま居ないんだ。

 マジかよ。


 それにしてもなんか気に入らねえ物言いをする奴がいる。

 俺、まだ7歳なんだけどな。

 もっと他に言い方がないのかよ。


 後方から声がする。



「ちょっと為吉さん、相手は7つなのよ。そんな言い方しないの」



 さっきの美人さんだ。小夜さんか。

 やっぱり優しいひとだった。


 え、ためきち?

 ぷっ、ダサっ。



「おい、お前いま…笑ったな?」



 え、漏れていましたか。



「そんなわけないじゃないですか」


「ここは学問を志す者だけが通う事を許された神聖な道場だぞ、貧乏人は貧乏長屋のドブさらいでもするのがお似合いなのによ。まったくどいつもこいつも身の程しらずで困るねぇ」



 まったく下手に出ていればいい気になりやがって。

 我慢しなければ、という思いはあったのだけど。

 腹立たしくて、つい言ってしまう。


 為吉の机にあった儒学の教科書を手に取り、頁をパラリとめくった。



「子曰く、学は及ばざるが如くせよ。なお之を失わんことを恐れよ」 


「えっ……っ!」


「あらまあ…あなた字が読めるのですか? まだ7つだというのに…」


「あ、いえ。その…ご、ごめんなさい」



 手に取った教科書をすぐ持ち主の手に返した。

 回れ右をして教室を後にしようとした。


 その途端、ゴツンと誰かにぶつかってしまった。






【現代語訳】

先生が言われた。まだまだ自分は十分ではないという思いを持ち続けるのが学ぶということだ。のみならず、学んだことは失わないよう注意しなさい。

 

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