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061 【癒しの女神】


 ここを出れば間もなく眠ることに……。

 駒次郎の家はどこにあるのだろう。

 子供だし、そのうち誰かがお迎えに来てくれるだろう。


 滞在時間の短縮ではないけど、行ってすぐに就寝することになるのは気持ち的には楽である。

 江戸の就寝時間は早い。

 明け六つ、暮れ六つで、寝るのも起きるのも6時ぐらいか。


 明かりが無いので夜は何もできない。

 灯りの原料となる油がどうにも貴重で。

 たしか油ってお高いんだっけな。それは俺でも知ってる。

 いまでもガソリンや灯油も馬鹿に成らない。

 だが民が自由に金を稼げる現代とは比べ物にならない。


 女神の指導はこれで終わりなのかな。

 俺より頭一つ背の高い女神を見上げる。

 目が合うと、


『グン、身体が汚れているな。傷も深いし…酷くやられたな』


「あ、それほど痛みは残ってないから気付きませんでした」


 俺自身の元の姿で出て行くわけではないのだけど。

 この身が痛手を負ったのは事実。

 外の住人の誰かになるたび顔が変わると混乱するから、そこはかわらないけど。

 ここに戻るたびに元の俺に戻るが、負傷もそのまま体に残っていた。


 そのことで女神が心でも痛めるのだろうか。

 その優しさは俺を思いやってのことなのか。



『浄化してやるから衣服を脱げ…』



 えっ。

 女神が俺を気遣う言葉には続きがあった。

 浄化ってあれだよな。

 意味は分かるんだけど軽はずみに裸になれと言われてドキリとしている。


 予想外の展開だが、前回に経験済みだったことをすっかり忘れていた。


 そういや駒次郎の忍術をまともに喰らいかなり負傷していた。

 木々の合間を激しく転がった折に体中を打ち付けたんだ。

 手負いの身で逃げ惑ううちに心細さと恐怖の連鎖が始まり、焦りの中で戦意を失くした。

 最後は首を強く絞められて、喉を圧迫されて死に至った。


 その時の悔しい気持ちはとても言葉にはできない。

 いまこんな言葉を掛けてもらえなければ、心身はボロボロのまま出かけて戻るだけの繰り返しだったということにさえ気づけなかっただろう。


 女神の浄化は致命傷の傷も修復できるのか。なんとも素晴らしい。

 最上級のスキルじゃないか。

 いっそのこと女神になれたら、もう泣かなくて済むのかな。

 女神なら男にも女にもモテるだろうな。


『どうした? 傷の手当だけなら脱がずとも良いが』


「いえ、全部お願いします」


 胸をときめかせておいて、今さら無しなはないだろう。

 

 服を脱ぐの……。なんかドキドキする。

 相手から申し出て来るとなんだか恥ずかしい。

 全部だよな。


 祠の中に来るたび全裸になるのは申し訳ない気持ちになるよ。


 女神はすでにその気で、浄化のための光の泡をまとい始めている。

 それではお言葉に甘えて、面前にて一枚一枚脱衣する。

 自慢じゃないが洗濯物を畳んだ経験などは一度もなくて。

 くしゃくしゃになってだらしない脱衣物が床に汚らしく散らばっていく。

 

 あぁ……いい気持ちだ。

 またここに戻ってきて、この施しを受けられるのなら強く成らない方がある意味幸せかもって思うのは俺だけだろうか。


『ジョブチェンジで時間を取ってしまったが、持ち物の変更も申し受けるぞ。

 勿論そのままでも構わんがどうしたい?』


 うっかりしていた。

 持ち込みの道具の選択が残っていた。

 抜かりのないお方だな。俺に神は務まりそうにないわ。


 優しく汚れを浄化をする女神の手と顔が俺の首筋から胸へとゆっくり下がる。

 さらに下方へ行き、へそ周りからその下に行った所だった。


 俺の陰部をマイク代わりに話しかけている想像が止まらない。


 俺なりに今回はググっと堪えて声など洩らさずにいるのだが、贅沢な状況が俺を紳士に代えてはくれないのだ。

 不謹慎でごめんなさい、とだけ付け加えておきます。

 女神はまったく動じてはいないけど。


 まじめに検討します。


 持ち込みの道具の変更をすれば、印籠を置いて行かねばならない。

 たったいま、夜の想像をして。

 懐中電灯があればと思ったところだ。


 印籠は使うところもないだろうし、今回は置いていくか。

 江戸時代だというので印籠が切羽詰まった場面で役に立つかと期待もしていたが。

 あれは出しづらい道具ではあるからな。

 電灯だけど電池が減ることは、


「……ないのですか?」


『もちろんだ。前にも伝えたはずだ』


 うおおおおっ、すっげぇ! すっげぇ! すっげぇ! すっげぇ! すっげぇ!


『おいグンっ! はしゃぎすぎだ。じっとしていろっ!』


 あ、つい興奮してしまって。

 股間を激しく揺らしてしまいました。

 文明の利器というやつを江戸の町で披露したいという願望が以前からあって。

 その折は電池切れという物理概念が邪魔をしていたものだから、つい。


「ご、ごめんなさい…」


 持ち込みの道具は懐中電灯でいいか?。

 電源が切れないなら小さめのものにしたいけど。


 だが夜道など照らしてどこへ行くのだ。

 だれも起きて活動していなさそうだし、子供だから夜間行動はほぼない。

 昼間は役に立たず、邪魔になるだけだ。

 ライトが付けば目立つし、付かなければ無能だし。


 あれば便利と一瞬考えたが、そもそも手に余る。

 懐に隠していてもきっと走り出すとき落とすに決まっている。

 これは使えそうで使えない。決して怪しまれなくて重宝するものといえば……。


 ぎゅるるるる。


『お腹が鳴っているぞ、グン。迷っているのなら握り飯でも持って行ったらどうだ?』


「おむすびですか! そうだ、それが良い。空腹に悩む必要もないし、幼馴染に分けてやれるし。それだけで人助け超(はかど)るし。超便利なんだけど」


 具材は梅干し、シャケ、ゆで卵で海苔を巻いて3個セットで。

 喉を詰まらせないように麦茶も付けてください。


 あ、エンジンするんだったな。


 入手してみると願い通りの3点セットとお茶が付いていた。

 お茶は竹の水筒に入っている。


『欲しい時にエンジンから取り出せばいい、取り出したあとは預けられないぞ。手元の物がなくなったら新たに要求できるからな』


 うわ、ありがたい。


「女神さま。身体を綺麗にして頂き、ありがとうございました!」

 

『では、いざ参ろう!』


「はい!」


 東エリアの長屋へと続く町外れへ。

 ここを出た瞬間、駒次郎の幼少期の姿に成るようだ。


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