006
『悪いが、それは叶わぬ願いだ……』
またも姿なき声がした。俺は、ぶるっと顔を左右に振った。
肯定できない。幽霊なんか肯定できないよっ。
俺の夏買いを邪魔するんじゃねえ!
「なんで得体の知れないやつに、そんなこと言われなアカンのやっ!? どあほっ」
ぶるぶるっと小刻みに顔を、ほっぺを左右に振った。
そいつは夢であってくれ。こいつは幻であってくれと強く願ってのことだ。
俺の夏買いを邪魔すんじゃねえよっ!
れ、れ、霊界からのいじめっ子が現れたのか!?
勝手に話しかけてくんなっ! どあほっ! どあほっ! 男どあほっ!
必死に振り払おうと、抵抗してみるが。
『今は買い物はできないぞ。そして良く聞くのだ──』
「嫌だ、嫌だ、嫌だぁああああ! 耳の鼓膜破ってでも聞くもんかぁあッ!!!」
こんなに必死に大声を張り上げた経験などない。
人らしき者に対し、こんなにも。
両耳に手を当て、一気に塞ぐ。耳は貸さない、譲らない。
しかし見たくないものが目に入ってくるぅ。まぶたも閉じればいいのか迷う。
何者かが居るのだ。好きにされたくはない。
得体の知れないやつに、この身の自由を無条件で明け渡せない。
こ、これは……。
いったい何の祟りなの? おじさん助けてぇ──っ!!!
それとも呪いなのか。皆に呪われた木を讃えたための、呪いなのかよ!?
「イッツァ、アンデッド?」
呪いの木の精霊じゃないって言った……のか。
「エペクス、レジェンド?」
BANG! BANG!
撃ち合い怖いよう。
うああ。
今──なんかヤバイ知識か、景色だかが脳内に刷り込まれてきたんだが。
そして意味不明の発言をしてしまった。
これは洗脳っていうやつじゃないのか……。
まじで怖いよう。
天下無敵のやんちゃ坊主の俺ショーグンの耳に余計なものを入れさせない。
無抵抗だと思うなよ。木のくせに人を呪うなんて許せない……怖いよう。
「変人なめんなよぉ!
あんたも水飴舐めろよ、そして甘い夢を見なよ。そして一夜に燃え落ちろよ!」
口では必死の抵抗をしている。
内心は見えない恐怖に覆われていた。
おごってやるから……な、そうしろよ。
に、二十円ぐらいなら出してあげるから。
水飴……いや、カタヌキがいいかな。頭の体操できるぞ。
いやいや、マシュマロ唐揚げ? ぱちぱちドーナツ? チョコまんソーダ?
は、八十円じゃ足りないかな。どれか一つにしてくれ。
「そ、そうしてください! それで手を打とうよ」
俺は。
俺はいま……とてつもない焦りの中で。
嫌な予感に包まれている。孤独な悲しみに心を揉まれている。
吹きさらしの風に晒されていて、身体がすっごく冷たいんだ。