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050 【ツナノセ】


 駒次郎は情報収集に向けて酒場や博打場も有力だとする。

 でも俺達じゃ年齢的に、そこへは入っていけない。


 盗賊のたぐいを探すなら、やはりゴロツキ家業の連中の所をまわるのが早い。

 ここでの打ち合わせは、だいたい終わった。

 茶団子の代金を俺が机のうえに置くと駒次郎は両手を広げ欠伸をした。


 そして「ごちそうさま」も言わずにとっとと店を後にした。


 おもてに出るなり、振り向きざまにいい放つ。

「気が向きゃあ、いつでも案内しな」と。


 忍びの任命書を自分にも一度見せろと、まだ食い下がってきた。

 自分が直接見た方が見落としが分かるからなどと言うのだ。


 まったく呆れたやつだよ駒次郎は。



「何度もおんなじこと言わせるなよ」



 俺が気持ちを折らないことを知ると。

 舌打ちをかまして残念そうな表情で盤次郎の説得へと走ってくれる。


 後ろ手を振ってもう行くのかと思いきや、一言突き出した。



「じゃあな、グン。すぐ戻るから、迷子にならなねぇでくれよ」



 散々笑いやがったくせに、まだ言うんですか。



「べつに迷子になんてなってないよ。バンさんのこと頼んだよ!」


「ああ…任せなよ。それより──」



 うん?



「もし連中の影がちらついて会えそうにない時は、おれたちが出会った街道沿いにツナノセ神社ってのがあるから、そこの境内で落ち合うことに。いいな! くれぐれも奥に入り過ぎるなよ」



 あそこはツナノセ神社というんだな。

 この界隈はツナセで。

 もしかして綱の瀬とかかな。見覚えも、聞き覚えもないな。

 それはさておき。



「なんで奥に行っちゃ駄目なの?」


「だってグンは迷子だろ! それに神社ってのは子を隠すためにあるんだから、気を付けなきゃならねぇえんだよ。昔からそうなってるんだから、口答えしないでおとなしくな!」



 言って、駒次郎はやっと走り出し、見えなくなる。

 涼しい目をして爽やかな二枚目が人の波をすり抜けて駆けていく。


 ポンポンと言うてくれるよなまったく、



「兄貴(かぜ)ふかしちゃって…」



 でも案外頼りになってるかな。

 俺にも一応、兄貴いたんだけどなあ。

 俺が先に死んじゃったから、今頃どうしてんだろな。

 考えても仕方のないことをなんだか思い返してしまった。


 いま駒次郎たちは、血のつながりこそないが家族と決めた人のために力一杯生きているんだもんな。ちょっぴり羨ましい。


 そして、お里という女の子も羨ましい。

 どんな窮地に陥っても命懸けで救い出そうとしてくれる守護神のような友達がふたりもいるのだから。


 俺の生まれた環境じゃ、そんな強き友を得るには特別な何かを差し出さねば、あり得ない。


 俺みたいな不甲斐のない凡人には特別な何かなんて一生かけても手に入るわけがない。

 前々からそう思って生きてきた。

 でも人生、二週目に入ったいまは違うんだ。

 


「特別な何か、か……」



 そう無意識に呟いた俺は、トボトボと歩き出した。

 このあたりで待っていれば彼は返ってくる。


 だけど。


 とてもそんな気持ちになれなくて。

 これから仲良しの幼馴染の三人に戻り、笑って暮らしていくだろう彼のことを。

 ただ待つことができないでいる。


 転生のためのスキルポイント欲しさに純な愛に生きる彼らの不幸を心待ちにしているようで、自分が惨めで情けないんだ。とても晴れた気分でここに立ってはいられない。


 いまは自分にやれることだけをやるしかないんだけど。


 転生なんて俺が望んでする訳じゃないし。

 俺は本当にポイントなんてものが欲しいのだろうか。


 その末に手にするものは何だ?


 ああ、そうだった。


 結局、特別なチカラじゃないかよ。




「コマさん……ごめん…」




 俺、身勝手な人間だったようだ。



 コマさんの気持ち、知っていたよ。解っていたよ。

 そんなものでも手に入れないと、どこの世も渡り歩けないのが子供だってこと。


 名もなき民だってこと。

 雑草ぐらいにしか歴史には刻まれない、そんな名声のない民だってこと。


 でも君には友達がいる。

 その素敵な友情を結んだふたりがいる。


 俺には何者もいない。


 事が済めば、もうさよならだ。

 あと二日半。

 過ぎれば、目の前から忽然と消えるよ。


 それは君にとって見れば、まさに神隠しだね。



「そうなる前にケリをつけて旅立つから……コマさん」



 ゴロツキ連中がなにを隠し持っていようと、いまいとフルボコにして溜め込んだ汚い金を根こそぎ強奪してやろうと思うんだ。


 ふたりには後ろに手が回るようなことはするなと言っておきながら。


 俺の入手するスキルは、女神の世界で戦うためのものだ。

 優しさなんて必要ないんだよ。

 人の心なんか持ち合わせていてもゴミでしかないんだよ。



「コマさんなら、きっと理解してくれるよね」



 はは……。

 何言ってるんだ、俺は。


 爺ちゃんは、俺に言っていたんだな。


 闇を求める者。

 そのババは俺が引くから、ふたりには太陽のほうを引いてほしい。





 気づけば、ツナノセ神社に足が向かっていた。


 なぜだ。

 自分でもよくわからない。


 例の任命書が気になったのに違いない。

 だって駒次郎がここへ来てしまうじゃないか。


 事情で会えないとき、ここで落ち合うと言った。

 あいつは勘の冴え渡る男だ、先にたどり着いた場合。

 アレを見つけださないとも限らない。


 子供は遊び半分で親のへそくりのありかまで行きつくことがある。



「やばい……俺、人間不信になりそう」





 本当に気づけば、女神と出て来た祠の傍まで来てしまっていた。


 キョロキョロと不審者のように周囲を見回した。

 まだ居るわけないよな。あいつ。


 俺の足に追いつける奴など忍びぐらいしかいないし。


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