043 【女神エンジンの仕様】
ついに駒次郎に対して、ぶっちゃけトークをしてやった。
実際のところ、ついついやらかしてしまっただけなのだが。
ここに来るまでの道中で彼を見つけられたら、陰からそっと見守るつもりでいたのに。
だけど、あいつは小屋の中にいて、まさかの舞台上だ。
いったい、どうなっている。とても声を掛けずにはいられなかった。
どういう神経で芝居に打ち込んでいるんだよ。
兄の盤次郎は、下手をすれば咎人になってしまうかもしれない。
そんなときに。
もっとも、俺が2人のうちのどちらかに逢いに来た場合を想定して、犯行に及びやすい行動を取って居るのかもしれないという疑いも、心に芽生えてくるが。
どちらかが囮で俺を何かしらのアリバイに使おうとしていないか。
この兄弟は絶対……何かを隠している。
だれにも言えない何かを背負いながら、ふと出会った俺にも当然その秘め事を抱えたまま、何かに利用しようと企んでいる可能性を否定しきれていない。
俺の誘導は駒次郎の意向だし。
宿と芝居小屋へ案内したのも事実だし。
偶然や思い過ごしもあるかもしれないが。でも疑いたくなる要素は確認しているから。
バレたくないのなら、誘わないだろうし。
疑えば切りのないことではあるが。
今回の芝居の内容に、例の蔵破りの全容が盛り込まれているなら明日の公演を見ればいいだけだ。
ただ、そんな無謀なことをするメリットが全くわからない。
世の中には手柄欲しさの暇を持て余しただけの岡っ引きもいるし、金になりそうなネタを探している後ろ暗い輩も目を光らせているかもしれない。
俺に心を許せる相棒でもいれば、こんな心配しなくて済むのかもしれないな。
俺は時折、俺に説明を求めてきたが、相談者がいればそんな俺はうまれなかった。
この芝居を見た後で、この筋書きを読み解くことで、なにか進展があったりしないかも気になってきたところでもある。
そして俺は気づく。いや、すでに気づいている。
2人同時には張り付いてはいられないことに。
兄弟の居場所が別々にある場合、その心配が起こる。
現代人であろうと、忍者であろうと、俺は単独だ。
いま駒次郎から目が離せないなら、盤次郎の方にはこの目は行き届かない。
宿に案内された折、兄が勤めていることを知った。
兄とは関わりが薄い可能性を問うなら、さぞ弟に無関心という結論になる。
そういう家庭もあるだろうが。
この兄弟はそうじゃなさそうだ。
どちらも、お里という幼馴染を救い出したいという強い願いがあった。
共通の目的が明確にあるのだから、2人は一致団結するだろう。
盤次郎の動向も気になって仕方ない。
だから俺なりに、少しだけ手を打っておいた。
それが蔵の下見だ。
錠前の形状もばっちりと見て来た。
宿の蔵の周辺も、使用人の部屋も寝転んでまで見て来た。
そうして置けば、あとで俺自身が見落としている事柄にアクセスできると考えたんだ。そこで試しておいたことがある。
そう。この世界で俺だけが使える女神の魔法【女神エンジン】でな。
忘れていないぞ。
女神エンジンは俺が見聞きしたものは、詳細を覚えていなくとも検索して情報を得ることができる代物だ。
その検索にはおそらく、時間の経過も含まれているはずなのだ。
さっき、蔵の前に行った。
あの場面で俺は錠前のことを調べたかった。
俺は昭和生まれの未来人だ。
番号式とかダイヤル式とかの鍵の情報もでてきても不思議じゃない。
古い情報よりも、より昭和に近い情報が俺の中には濃い記憶としてあるからだ。
欲しい情報は文言プラス、【女神エンジン】だったな。
だが俺は、「江戸時代主流の蔵の鍵」などとは一言も言っていない。
蔵の前にいるだけで、鍵穴に鍵を挿入して回して開ける形式の情報が見えた。
このとき透過画像もでたのだ。
画像なら現代の絵図から抜粋されてなければ不自然なのだ。
あれは昭和時代のものだった。
女神エンジンは俺の見たい知りたいに呼応して出現し、即結果をくれた。
自然とエンジンの画面越しに錠前を見ていた。
そこに内部の構造が透けた状態の、図解が映し出されたのだ。
昭和の時代劇からの知識に江戸の錠前の情報が当てはまらない可能性もあるはずだ。
なにせ、時代劇だからな。
つまり目の前のものに対して情報が欲しいと思うだけで、エンジンできることに気づかされ、実質女神エンジンで、ものをある程度スキャンできることを知ってしまったのだ。
人の心は検索できず調べられない。
そして自分が居る時代の情報に、自動的に絞り込まれていた。
これは女神も言っていた。
情報が絞り込まれると。江戸時代のものは江戸時代のものだけに絞られたのだ。
俺の記憶だけから検索されたなら、いくつか出て来るはずだから。
だって俺は、この時代の錠前の種類はもっと複数あると思い込んでいたのだから。
女神は「簡単で楽しいだろ?」と言っていた。
まったくその通りだな。
そして、盤次郎の言ったお里へ向けての発言も、俺が見聞きしたワンシーンなのだ。だがおそらく、その時点で検索しても情報を取得できない可能性があった。
もっともその時は、うっかりしていて検索などしなかったんだが。
盤次郎から離れて時間を置き、彼には次の行動に移ってもらうことにした。
しばらくしたら、彼の行動に進展があるはずだ。
俺の行動に進展がなければ、情報更新しないのと同じ理屈だな。
たとえ全てが分からなくても、盤次郎から俺が聞いたセリフなどは限られているから、それ以外の情報が盤次郎と会わずして飛び込んできたなら、これからも女神エンジンで人物の更新情報を取得して楽ができると考えている。
駒次郎と話して、白を切るようなら2人ともエンジンにかけて調べてやる。
俺が言う、検索における時間の経過とは、これのことだ。
検索結果は、女神の記憶から抜粋されているはずだが、江戸時代のことは俺の記憶からだから、一度俺の記憶物として俺の中に納まる必要があるのだと勘ぐっていたのだ。
盤次郎が「蔵に忍び込む」といったことは俺が知らなければ、その後偶然ここに辿り着いても芝居の筋書きとしか認識できなかったはずだ。
それを知る要因は空耳ではなく、忍者の聴力によるものだ。
忍者の能力は俺のものだ。裏切りはない。
これについての信ぴょう性は、駒次郎と接触する前に経験したことだからな。
女神エンジンも俺を裏切らない。
笑ってごまかした駒次郎に対し、盤次郎の蔵破り計画を真剣に切り出した。
駒次郎が神妙な面持ちで、顔を近づけてきた。
「グン。出会ったばかりの兄さんの動向をどうして探るんだ?」
「え……」
肩を抱きかかえるように近づき、耳元で囁くのだ。
そりゃ聞いたなら、そう聞き返すんだろうけど。びっくりしてしまった。
今さら、冗談で済まされる状況ではなくなった。
「あんたの強さがずっと引っ掛かっていたんだ。十四だと言うのに。ヤクザ者を十人も石っころでなぎ倒すなんて…」
「コマさん? 急にどうしたの」
駒次郎は低い声を出して、俺に詰め寄って来た。
それに。
街道での弱々しさは微塵も感じられない。
強い握力で肩を掴まれているのが分かるから、少し焦っている。
「軽業師のように身をひるがえして、力強くおれに手を差し伸べてくれた。グン…あんた、ほんとはどこぞの隠密なんじゃねえかい?」
隠密の存在を軽く口にして。
なにこの握力。
こいつ、只者じゃないな。どうする俺。
やっぱり強盗を計画していて俺に詰められたものだから、本性を現したのか。




