042 【楽屋裏】
舞台の幕は下りた。
観客は早々に小屋を出て行く。
俺も観客だが、外に出て行くわけにはいかないのだ。
駒次郎の保護があるからな。
だが、2部構成となると、駒次郎も急きょ潜り込んだわけではないよな。
俺が駒次郎に芝居見物を持ち掛けたとき、確かに妙な顔をしていたっけ。
ほかに芝居小屋があるわけでもなさそうだから。
案内するしかなかったのかも知れないが。
芝居を一人で見る。「兄のことが心配だろうから戻っていい」というと。
え?
といいながらも、帰っていった。
その後、出番がきて舞台に上がったとするなら、帰っていったのはなぜだ?
駒次郎はもともと芝居の役者だったんだろうか。
運良く町に帰って来れたから、仲間の所に顔を出したら、出演しろ。
ここの仲間は駒次郎が鉱山に行ったことを知らないのかもしれない。
素性と過去はまだわからない。
どうにも腑に落ちないけど。
さらに舞台の裾から、俺が姿を消していることも確認している可能性もある。
駒次郎から見た俺は、どう映っているのだろう。
案外相手も謎を抱えていたりするかもな。
どんどん、めんどくさいことが起きているようで少し怖い。
でもやってやる。
やるしか道はないのだ。
早速、裏方に回って見るとしよう。
「やあ、コマさん。いい演技だったね…」
楽屋に入って行き、声を掛けると。
「お客さん、困りますよ。さしずめ、明日の芝居の話を聞きに来られたんでしょうが、お教えできないので引き取ってくんな。ここは子供の来るところじゃないよ」
はあ?
「だ、だれが芝居のネタなんか聞きにきますか。俺は、グン。ここに飛び入りではいった駒次郎さんの知り合いなので挨拶に来ただけですよ」
居るんだよな、警備みたいなおじさんが。
俺は芝居なんてそもそも見に来てないし。
きっぱり言うと、奥にいた駒次郎に連れであると確認が取れたようで。
「それじゃあ、お芝居の内容にはくれぐれも触れないでくださいね」
心配そうに、念を押して来た。
それ、ネタばれ注意ってやつだろ。こっちは経験済みだよ。
一応の信頼を得て、楽屋に通してもらえた。
芝居小屋の楽屋は一部屋しかなかった。駒次郎を含めて12人か。
中で挨拶を交わすと、座長らしき人が駒次郎に客を大事にするようにと。
話をすることを許してくれた。
そこに関係者がほぼ全員いるようだった。
早速、駒次郎に声を掛けた。
「コマさん、探したよ。宿に返したと思っていたのに、ここの役者だったの? 今日の出番はあらかじめ決まっていたの? 鉱山行きは打ち明けていないの?」
「ああ。ごめんよ。グンこそ姿が見えなくて迷子になったかと心配したよ」
俺がグイグイと質問するからか、質問で返して来た。
やっぱり、俺の姿がないのを確認済みか。
「それが……お腹の具合が悪くなって、厠へ行っていました」
「宿のお昼ごはんに嫌いなものでもあったの?」
「いやいや、そうじゃないけど……ツナセ街道に入る前からなんだ、それは大丈夫だから気にしないでくれ」
「それならいいけど…。おれね、役者になりたくて。まだ駆け出しだけどな」
この展開を想定していなかった俺は、咄嗟に口から出まかせを吹いた。
すこし焦ってはいたが、辻褄は大体だが合っているだろうと思う。
駒次郎の方も、宿に帰ったふりをして戻ってくる意味が不明だ。
それを不問にしてもあの話が芝居になっているのは、さらに謎だ。
まあ、「便所も見に行った」とまで言わず、「ふーん」といって納得した感じだったから、それは助かったけど。
なぜそんなに目配りが鋭いんだ。
役を演じる勉強がそうさせているのかな。
鉱山でひと月も重労働を強いられて、怖い思いをしてきた少年が。
命からがら逃げて来た貧乏長屋の町人の緊張感などどこ吹く風だな。
借金の形に取られた幼馴染のお里は心配じゃないのか。
兄の盤次郎は今夜にでも、蔵を破るかもしれないというのに。
のんびり役者の見習いなんかしている場合か?
ここで世間話をして別れたら、またはぐれてしまいそうな予感がしてきた。
ああもう、めんどくせぇな。
色々と勘ぐってばかりじゃ、ちっとも見えてこない。
俺にも時間の都合があるからな。
ええい、突破して見るか!
「コマさん、お里ちゃんのために宿屋の蔵をやぶるつもりなの?」
そりゃそうだろ。
聞くよ。
聞けば良いだけのことだ。
一瞬だが、瞳孔が開いた。
驚きを隠そうとするが、俺は鎌をかけるために言ったんだ。
見逃すもんか。
「あはは。もう破っちゃたところなんだけど。ちょうどおれの出番を見てくれたんだな、グン。うれしいよ」
それ、まじで言ってんの?
役者を楽しんでいるのは、嘘とは思えないんだよな。
だが誤魔化されてたまるか。
「俺はさ、リア…現実のことを言ってるんだよ。コマさん? 遊郭への身請け金のためにバンさんは蔵へ押し入るために計画を練っているのは、知っているんでしょ?」
もはや単刀直入に聞いていく。
助けたいだけなんだ。
どうなって行くのが理想か、話し合って決めたいだけだ。
頼む、正直に答えてくれ。
俺は彼の目をじっと見据えて、それを訊ねた。




