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041 【芝居小屋】


 芝居小屋にたどり着いた。

 なんだかんだと30分は巡り、戻ってきた。

 

 小屋の中は、ほぼ満席だった。

 きっと名のある一座なのだろう。

 芝居小屋といっても、寄席のような小さな舞台だ。

 座布団が板の間に置かれていて、皆そこに座していた。


「えっと、名奉行が町民に扮して悪事を暴く……って、なんか知ってるし」


 入り口で手渡された演目案内の絵草紙に目を通してみた。

 面白そうだが、途中からなのでよくわからない。


 芝居をじっくり見ている場合じゃない。

 ここに来れば駒次郎と再会できると思っていたのだけど。

 50人ぐらいの観客でひしめいているが、客に紛れている様子はない。


 あいつの顔は小顔で爽やかな感じだから、居ればすぐにわかる。

 けど大人ばかりしかいない。


 見回りながら、小さく名を呼んでみたが見つけられなかった。


 見当違いだったかな。

 人だかりのある所なんて、ゴロツキたちも隈なく探しにくるか。

 奴らには証文という名分があるから、人目をはばかる必要もないわけだし。

 ここが安全だと考えたのは、少し安直だったかな。


 芝居が大詰めを迎えてきて、役者が舞台の上にぞろりと並んだ。


「あれは……御白洲(おしらす)か」

 

 奉行が裁判を行う場面だな。

 舞台が狭いから簡略化されているが、町民役が平伏している。




 ◇




 奉行役が「(おもて)を上げーい!」と逞しい声を張った。


「すごい迫力だな。()()奉行なら肩を晒すんだろうけど、んなワケないよな」


 奉行役の一声のあと、町人役たちが顔を見せた。

 数人いた町人役のなかに一人の若者の声があった。


 奉行に泣きついて、弁明をしながら無実を訴えていく。

 よくある場面だ。

 さては、その周囲の者たちが悪者なんだな。


「ああ、やっぱり。──寄ってたかって若者を追いやっているぞ…」


 うん?

 なんの話だ、こりゃ。


『お奉行さま、わたしは……連れて行かれたお里を連れ戻したい一心で、お宿の蔵などを破ってしまったんです……うぐっ』


 どこかで聞いたような内容だが!?


「……っていうか。コマさんの声じゃねえのか?」


 あ、駒次郎だ!


 あいつあんな所で何やってんだよ。

 それより今……なんて言った?


 お里と蔵破りは、芝居の筋書きじゃないだろ。

 それをお前が口にしているということは。


「ははーん。うまいこと身を隠したものだな」


 そういうことか。

 面白そうな話のネタを持ち込んだんだな。

 それが採用されて役者として舞台に上げてもらったのか。


 おい、それはリアルネタじゃねえのかよ!

 駒次郎のやつ、自分たちの計画を堂々と暴露してやがる。


 やはり、ゴロツキに追われて逃げ込んでいたのか。


「いや、そうした方が返っていいのかも……」


 芝居の中のことにしてしまえば、その話題を今後兄と話したとしても、ここの客の証言があるから何とでも誤魔化せるしな。


 一石二鳥を投じたわけか。


 しかし、あいつの事情を知る者がここに居ないことを願うばかりだ。


「どうやら、一件落着というのでもないみたいだ……」


 幕は下りたのだが、舞台上の説明を聞けば2部完結のようだ。

 つまり、この続きが明日に上演されるというのだ。


 駒次郎、拍手喝采だったぞ。

 大入りの観客は満足げに帰って行く。

 次の日の舞台も必ず見に来ようと、笑顔で賑わっているぞ。


 お前、いい隠れ家みつけたな。

 給金も弾んでもらっているのかな。


 だが。


「悪者はどこにいる? 奉行は町人に身をやつしたんだろ?」


 待てよ。芝居の内容はともかく。

 それより駒次郎がとっさに逃げ込んだ芝居小屋のはずだ。

 それなら、ついさっきの出来事のはず。


 おかしいな。なんか引っ掛かるぞ。


 そんな短時間に皆が演技に移れるか?

 いや、それはない。

 2部完結という長編だぜ。


 この芝居はかねてより話し合って組まれているだろうな。


 

「アレレ。益々おかしいな…」


 どうなっているのか?

 すこし頭の中を整理しておくか。



 駒次郎は今日、俺と街道で出会ったときに鉱山から脱走してきたんだろ。

 それを俺の意思で助けて。

 旅の宿を探す俺に礼がしたいからと。

 その足で宿の案内をしてくれて、俺はあの旅籠に泊まることにした。


 ともに飯を食って、風呂に入って。

 そして休憩のかたわら今後のことを思案した。


 ポイント稼ぎの為にお前との進展を望んだ。

 結果、兄の盤次郎を紹介してもらう。

 状況の把握のために。


 兄の盤次郎は、駒次郎が自ら契約を踏んだのに逃げてきたから、このままでは済まないだろうと俺に言ったんだ。


 俺は、手立てがないなら、役人の力を借りればどうかと意見した。

 役人にはすでに訴えていたが、結局お金が物を言う結果に。

 そう、役人の弱みにより、踏んだ契約証文を3両で買い取ることが決まっていた。

 

 そして兄が宿の主人に呼ばれたと離席するが、妙な会話を口にした。

 お里の身請け金も含めて、宿の蔵に忍び込むと言っていた。

 常人には聞き分けられないような距離で隠れるように話したのだ。


 その兄の帰りが遅いので、俺は蔵の下見に行きたかった。

 だが計画を知っているだろう弟の駒次郎が俺の傍にいるので、撒こうと思った。

 

 そうして芝居見物を要望し、案内を任せ、先に宿に帰らせたのだ。


 芝居見物はあくまでも俺の指示だ。

 この兄弟が大胆な行動を起こそうとしているので、ある程度は用心している。

 腹の底にあるものを探ろうとした。



 駒次郎とお里のことは、駒次郎に聞かされた。


 いや待て。


 兄のことも、宿のことも、駒次郎からだ。

 芝居小屋も駒次郎に任せた。

 俺が自分の意思で動いたのは、その場での選択だけか。


 案内はすべて駒次郎だ。

 そうだ。実質、移動先は駒次郎が決めている。


 行く所、行く所で、兄弟の言動に振り回されている感がある。



「気のせい……なのか。それとも──」


 ここまで乗り掛かって、後戻りもないだろう。

 だがこの先も胸がつっかえて、どうしようもないなら。


 俺も2人を見習って。

 直接、駒次郎にでも聞いてみる必要がある。


「宿の蔵を破って、3人で夜逃げをするのか」と。


 大胆不敵な言動をな。

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