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033 【隷属】


 風呂から上がってさっぱりした。

 俺は再び、畳のうえで寝転んだ。

 彼には「眠気がさした」と伝えた。


 あと、遠出をせずにその辺にいるんだよ、と釘もさしておいた。

 ゴロンと寝返りを打つように、肘枕をして目を閉じた。


 駒次郎は連れて行かれた彼女のことをただの幼馴染というが。

 本当に、恋愛感情は持っていないのだろうか。

 それとも、まだ人を本気で好きになった経験がなくて目覚めていないだけか。

 そういう人も世の中には割といるし、べつに良いけど。


 この時代、近隣の幼馴染って家族同然かもしれないが。

 あくまでも他家の事情だ。

 恋愛感情抜きで、ゴロツキの巣窟へ殴りこんでまで取り戻そうとするか。


 問題が貧困にあるのは承知のはずだ。

 行って何ができるというのだ。

 話し合いか。

 借金をしたその形だろ。

 耳を揃えて完済しなければ、決して解決のない世界のはずだ。

 だれが助けてくれる訳でもないのだから。

 ねずみ小僧みたいなのも現われなくて、こうなったんだろうからな。


 その悔しい気持ちは分からないでもないけど。

 世間知らずもいいとこだな。

 だが今回のことで世間の厳しさを知ったことだろう。


 となれば、さて駒次郎は金策をどうするのだろう。




 ◇


 

 横になって色々と考えてみた。

 このままゴロゴロしながら考えこまねいていても仕方がない。

 10分も経ってないが駒次郎を部屋に呼び寄せた。

 ちゃぶ台を前にすると、お茶でもどうぞと言い湯呑を差し向ける駒次郎。


「コマさん、金策の目途(めど)はついてないんだろ?」


 それしか話題がないから、それを訪ねる。

 こんな出会いじゃなければ何を話していただろう。

 いまは困っていない者には用はないのだが。

 ふと悲しい気持ちにもなる。なんだか人の不幸を歓迎しているようで。


「……はい。お里の家の借金が十両。金貸しのヤクザが女郎屋に十五両で売り飛ばしたんです。おまけにお里は上玉と評判で、五倍買いでなら引き取らせると。取り戻すのにとんでもない大金が必要になりました」


 十五両の五倍だから七十五両か、そりゃ大金だな。


「金貸しの借金は、お里ちゃんを渡したからチャラになったはずだから、あとは身請け金の七十五両だけだな。ところで、なんでヤクザと揉めてたんだ?」


 女郎屋とグルだったとしても不思議ではないんだが。

 揉める理由はなんだ?

 金のない者など門前払いだろ。

 金の亡者どもが相手にするのは、美女と金と酒ぐらいではないか。


「金を借りようとしたんだ。身請けの額だけ」


 それ担保なしでは普通の良心的な金貸しでも無理があるぞ。

 返済の当てがない上に、手持ちの店とか土地とか。差し押さえるものもない。

 ヤクザ金融になにを頼んだんだ。


「担保になるものが何もないんでしょ? それにコマさんは男だし」

「ああ、女は体を売れるけど、男じゃねえ。それで炭鉱夫でもなんでもすると言ったら、山に連れていかれて、ひと月も閉じ込められたよ」


 そりゃ、そうなるだろな。


「まあ給金は雀の涙で、飯もろくに食えなくてヘトヘトになったことだろう」

「うん」


 駒次郎は思い返すように辛辣な表情を浮かべる。


「山に行くとなれば、同意の上だから。まともな契約じゃないよね」

「……うん」


 さぞや弱みに付け込んだ酷い契約なのだろう。

 言葉にできないほど、痛々しい顔をみせる。


「一生そこから出してもらえない不安と恐怖を味わったんだね」

「……」


 駒次郎は言葉を飲み込んでしまった。


 うつむいたままだが、肩を震わせている。

 込み上げる涙を隠しているようだ。

 かける言葉が見当たらないが、同情しすぎてはいけない。

 これは他人ごと、他人ごと。


「さあ温かいものでも飲んで、すこし落ち着こうか」


 目の前のお茶をすすめた。

 彼が俺のために淹れてくれたものだ。

 手に取り、ひとくち、ふたくち喉に通すと「はあっ」と息を吐く。

 体が温まったのか、蒼い顔がじわじわと赤みを取り戻した。


「けど、よく逃げ出してこれたね」


 彼は小さく頷いた。

 そしてこわごわと口を開いた。


「それが……見張りの大男に若い男好きがいて、すこし休ませてやるからと」


 は?


「確かに下っ端はこき使われすぎて自由がない。中には子供好きがいても不思議じゃないが。それは運がよかったな」


 相手が気を許した隙に脱出を図ったのだな。


「大男はおれに逃げられるとは思わずに、失態を親方に知られて激怒してたよ」


 そこから一目散に逃げだしてきたわけだ。


「最後は、やつらに見つかりはしたけど夢中で振り払って走っていたら、ツナセ街道に出ていたんだ。追いつかれて捕まったら殺されるとさえ感じていた所に、グンが立ち止まっていてぶつかってしまったんだ」


 勢いよくぶつかったことに照れながら、駒次郎は改めて頭を下げる。

 

 立ち止まっていたのは、その様子を窺っていたからだけど。

 幼友達のために随分と苦労をしたんだな。

 一見、無茶だけど誰かの為にそこまでの犠牲を払おうなんて、ぜったい惚れてなければできないよな。


 ここまでで明確になったことが一つある。


 この時代の庶民の苦しみの大半は貧困だ。

 このジョブを選択すると人助けが必須事項になるから。

 金策も必須事項になる。


 ゲームって基本は金策なのかもしれないね。


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