031 【入浴】
腰を落ち着ける宿がきまった。
ツナセ宿場のアヒルノとうい旅籠である。
日本は広い。
ましてや江戸時代ともなれば、俺が知らない地名などいくらでもある。
江戸はここよりまだずっと東になるらしい。
でもいいや。女神は黄門様がいる時代へ行こうといった。
だから江戸というよりは、水戸の周辺に来ているのだと喜べばいい。
時代劇が良かっただけで、べつに会って話したいわけでもない。
それにたった3日間しか滞在できないんだ。
目的は、あくまでも能力向上のスキルの獲得。
そのために、俺が成すべきことがある。
スキルポイントを貯めること。
人助けに貢献すれば、それらに応じたものが稼げる。
すでに、145ptを獲得した。1000ptを目指している。
この点数に満たなければ、スキル獲得がかなわないのだと判断した。
1000ptに関しては、『つぎのレベル』という文言が指し示すとおり、これはスキルの格付けではないかと考えている。
つまり、点数に応じてより良いスキルを付与する、と女神が最初にこういった。
それならば、このptの獲得に応じてという意味になり、スキルの質を示しているのだろうという結論に至っている。
質の高いスキルが能力として大きい。それはわかる。
獲得できるスキルの種類が今回のチャレンジで1種なら、このポイント表示は、レベルの高いものを狙うための目安ということだろう。
1000ptで確実に1種のスキルがもらえる。
しょぼい例にあった、『うんこを踏まなくなる』も1000ptが最低レベルではないかと。
とにかく取得すればわかるのだ。
取得できなければ、振り出しに戻される。失敗は避けたい。
「コマさんを3日の間にヤクザ者から解放する手立てをみつけなくちゃ。このポイントは大きいはずだ。ほかの誰かにおいそれとできはしないから。お里という娘の身請け金をどうやって稼ぐのか」
駒次郎の苦悩はそれに尽きる。
身請け金さえあれば、すべて丸く収まるのだ。
奴らも納得し、手を引くことを前提に話を進めるのが肝心だ。
街道のときは咄嗟の行動だったから、こうなったが。
おかげでゲームの仕様みたいなものが少しずつ見えてきた。
いつまでも、悪人といえども倒し続けるわけにはいかない。
奴らも商売と借金の形という名分がある以上は、役人に訴えるだろう。
役人のお出ましは、要注意だ。
問題は、お金なのだ。
手元の3両では、とても足りない。
借金も10両ぐらいにならなきゃ、身売りまで持ち込めない。
遊郭からの卒業もそれ以上と考えれば、30両ぐらいは準備しなければ。
◇
「……」
「グン……。ご飯、口に合わなかったのか?」
俺は、スキルの獲得に向けて脳裏に考えを張り巡らせていた。
部屋には、温かい食事を乗のせた膳が運ばれていた。
「頂きます」と一言、手を合わせてから黙り込んでいたようだ。
先ほどから、向かいで駒次郎の呼びかける声があった。
飯の味はどうかと。
「ううん、とても美味しいよ」
白いご飯。鮎の塩焼き。芋やゴボウを柔らかく煮込んだ惣菜。
椎茸のお吸い物。ほうれん草を胡麻であえたお浸し。大根の漬物。
デザートの串団子まである。
「それなら良かった。でも……旅の疲れをとるのには湯が一番だよ」
適度に返答をかえして相槌を打っていたのが、返って心配をかけたみたいだ。
旅の疲れが出ているのではないかと、風呂に入ることをすすめてくれる。
食事はほぼ終わっていた。
ご馳走さまをいうと、大の字になり、畳の上に寝転んだ。
俺は、駒次郎をみて、
「一休みしたら湯につかるとしようか?」
「そ、それがいいです。早速伝えてきます」
駒次郎は嬉しそうに、兄に伝えにいった。
程なくして、戻ってきた駒次郎に俺は告げる。
「コマさんも一緒に入るか、あいつらに追い回されて汗かいただろ」
「い、一緒にはいるの?」
なんか驚いた表情を見せたが。
この時代、そういう感覚ってまだないのかな。
俺はさらに言葉を加えた。
「俺に礼をしたいんじゃなかったの? 背中ぐらい流してよ」
「あ、そういうことっすね。えっへへ。もちろんお背中流しますとも」
そういうことの他に何があるのだ。
やたらと入浴を口にしながら。サービスしてくれるのではないんかい。
浴場に入ると、掛け湯をして湯船にドポンと浸かる。
駒次郎の手を引っ張って、なかば強引に湯に入れる。
湯船に仲良く並んで浸かる。
「コマさん、こういうの初めて?」
「は、初めて……です」
「なんで? お里ちゃんと初夜を過ごしたんでしょ?」
「うちに風呂なんてあるわけないし、一緒にはいるわけないでしょ」
べつにからかう訳じゃないが。
女子に迫られて一夜を共にするって、そういうことじゃないの。
「ただ単に抱きしめ合って、別れを惜しんだってこと?」
「……グンは積極的なんだな」
「そうじゃないけど。もう会えないかもしれないんなら、口づけぐらいはするかなって。そんで気持ちが入って、がばっと……」
「が、がばっと?」
「お布団の上に押し倒して!」
「うわ、ちがうちがう! お里とはただの幼馴染だから。バカバカ……グンのバカ!」
なんで俺のせいなんだよ。
勇気が出せなかったのは駒次郎さんだろ。
それだけ純粋だということか。
なんにせよ、問題は、お金だが。
駒次郎をともに入浴させて、いい気持ちも味わえたことだろう。
そして赤裸々な話題で心のケアも一緒にして、人間としての距離は縮まったのではないか。
さてSTの更新はどうなったかな。




