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 俺も腹をくくった。

 ヤクザ者。ゴロツキともいう。

 やつらは当然のように若者を連れて行こうとしている。


「悪いこたぁ言わねぇ、そいつを庇い立てすると、(あん)さんも痛い目にあってもらうことになりますぜ?」


 言って、

 前に出て来た大男が、へらへらしながら拳を組み、指を鳴らしてみせた。

 後方に構えているのが親分か、兄貴分だな。


「痛い目は遠慮します。さて──なん発喰らえば、引き下がるのかな?」


 ペコリとお辞儀をして、すぐ頭を上げた俺の手は緊張で(りき)んでいた。


「あん? (あん)さん、寝ごとはお布団にはいってから言いな!」


 大男はへらへらと見下して笑う。


 俺が発した言葉の意味はだれにも理解されないようだ。

 傍にいた若者でさえ、「やめときなよ」と震えた声で制止する。

 それで止めるぐらいなら、手当まではしていない。

 俺は、背後に彼らを感じたとき、状況を把握しながら、落ちていた小石をすでにいくつか懐に隠し持っていた。

 

 その小石を男達に悟られぬ様にびゅんっと投げつけてやった。

 力の差を得意げに自慢して、油断をしているようなので隙をつくことができた。


「ぐごっ。痛ててててぇ──っ!!」

「あ、アニキッ! どうしたんでやすかっ!!?」


 事情なんか、いちいち聞いてられるか。

 どうせ奴らも、四の五の言わせるつもりはないはずだからな。

 もとより、俺は話し上手じゃないし。大人に挨拶などしないし。

 後方に控えていた兄貴分に向けて、いきなりイシツブテを投げた。


「へえ、命中率30なのに一発で顔面にヒットしたぞ!」


 顔を狙ったつもりはなかったが、それでもクリーンヒットだった。

 すでに顔を押さえて、うずくまっていた。

 なるべく全員を相手にしないで済む方向でと、後ろのそれっぽいのを狙った。


「てめぇの仕業かッ! そいつも一緒に畳んでしまえっ!」


 石をぶつけられたゴロツキが子分たちに命じた。

 子分たちの怒りの声が飛んできた。


「てめぇら、囲んでしまえ! そうそう喰らってたまるか、ガキがナメた真似しやがって」

「か、囲まれたよっ! 有無をいわさず盾突いてどうするんだよ」


 イキリたったゴロツキの本気をみて、若者が震えだす。


「逃げるんだよ、俺と来るか? それともあいつらと行くか?」


 俺は、ひょいっと身をひるがえして見せた。

 軽業なら、いつもやってきた。


 若者は戸惑いながらも首を横に振る。

 目一杯、首を横に降り続けた。

 近づいて俺の腕にしがみつきながら、涙目で嫌だと訴えてくる。

 もちろん、あいつらと行くことを拒んでいるのだ。


「よし」


 俺は彼の手を掴みかえして、一緒に逃げるぞ、といった。

 その前にこいつらをもう少し、片付けておかなきゃな。


「ヤーさんたちこそ、囲んだって無駄なんだってことを思い知るといい」


 言って、

 俺は引き続き、イシツブテを投げた。

 人差し指と中指の間に挟まるような、ちいさな石ころだ。

 碁石のようにちいさいサイズだ。

 念の為に人数分いじょうは拾っておいた。


 強そうな奴から当てていき、外したら二発、三発とくりかえす。

 懐の石がなくなれば、すぐさま拾えばいいだけだ。


 俺は常人の三倍速く移動できるのだから。

 若者を守りながら、六人、七人と負傷させていった。


「小僧がナメたマネをしている……だけど、そちらさんは俺に一矢報いることもできないでいるじゃないか?」

「くっ……なんという不覚。おのれぇ──」

「もう諦めなよ、それとも後の三人にはこの特大のやつをお見舞いしようかな」


 俺は奴らに状況を把握しろ、といった。

 とどめに小石ではなく、ゴロツキの頭ひとつ分はある小岩を手に言い放つ。


「ひぃえぇええええ!! あ、兄貴っ! 助けてくだせえ」

「ちっ、わかった。ここはおめぇの腕に免じて見逃してやらぁ! だがこのままじゃ終わらねえからな。覚えてやがれ!」

「それでいい。いまは引いてくれるみたいだ。君、名は何というんだ?」

「駒次郎です、十六になります」


 年上か。町民なのに堅苦しい名前だな。


「コマジロウ……コマさんでいいな。俺は群、十四。グンと呼んでくれ」


 俺は、ゴロツキたちが啖呵を切りながら後ずさりしていくのを確認した。

 若者、駒次郎もそれをしっかり見届けていた。


「グン……あんた強いんだな! 疾風の如きだったじゃないか」


 興奮気味でありがとうと彼は何度もくりかえした。

 とりあえずの礼を言ってくれた。


「俺は東の宿場町にいくところだ」

「ツナセにいくのか。案内しましょうか」

「ツナセ? ここは江戸じゃないのか?」


 ツナセ、どこだそりゃ。


「ここはツナセ街道で、先の宿場町もツナセっていうんですよ。江戸はね、ずっと東だよ。江戸に行かれるんですか」

「ああ、そうなの? 田舎からでてきたもんで。道に疎いんだ。コマさんの事情を道々聞かせてもらってもいいかな」

「それは、もちろんです」


 詳細は一応知っておかねばな。

 ヤクザ者は一時的に引き下がっただけだろうし。

 身を隠せる宿を早くみつけなければ。


 宿を拠点にあとの対策を考えるとしよう。

 


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