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027 【街道】


 女神と別れて街道に出る。

 ひとり静かに歩を東へ進めると、間もなく人通りが増える地点へときた。


 ジョブチェンジをして忍者になったらしい。

 さほど実感はない。

 先ほど、世を忍ぶ仮の姿である薬売りになったばかりだ。

 だが確かに荷物を背負って山林沿いの街道を軽々しく歩けている。


 遠足でたまにこういう舗装のない道を歩くことがある。

 半日で足首あたりから指の付け根まで、ヘトヘトになってしまう。

 家路につけば、過度の筋肉痛による心の悲鳴などは当たり前だった。


 電車もない。

 バスも通ってない。こっちの当たり前はそこに尽きるよな。

 そういえば、とつぜん馬が走って来たりするんだよな、この時代は。


 え、なんか背中に強い視線を感じた。

 背後から耳元に、人のわめき声が明瞭に届いてくるこの感じはなんだ。


 どうやら、誰かがもめているようだけど。

 

 10人ほどの大人と若い男がひとりいて、追いかけっこの最中か。

 なにやら寄ってたかって若者をいじめているようだ。

 通りすがりに肩がぶつかったとか、その類ではなさそうだ。

 ずいぶんと遠くから追いかけられて、付きまとわれているみたいだ。


 だが会話のやり取りから、金の話のようだ。

 金銭トラブルか。

 金のことでもめている若者が誰かに助けを求めて、こっちに向かってくる。

 俺の30メートル手前を全力で走っているようだ。


 俺は自分をエスパーかと思うほど、すでに背後の状況がくみ取れていた。

 足音がばらついているのだ。息もかなり乱れているようだ。

 運動会のリレーで、人数不足のチームにより他の人の分まで自分が走る。

 そんな経験をいつしかしたよ。

 まさにヘトヘトになって、もつれているのがわかった。


 若者は大人たちを必死に振り払い、猛ダッシュを決め込んだ。

 俺の背中から、肩に手をかけて「ごめんよ!」といって、すぐ脇に倒れ込んだ。

 

 ぶつかって来たものだから、ついつい、「大丈夫ですか」といって彼をみた。

 倒れた拍子に膝をすりむいた彼に、背中の薬箱を降ろし、軟膏をぬってやった。



「親切はありがたいけど。こ、こんな高価な薬で手当てをされても、おれ払えねえから……」


 申し訳なさそうなその声は震えていた。


「お金を請求したりはしないよ。ただのお節介だから気にしなさるな」

 気軽なくちぶりで彼の肩をポンと叩いた。

「だって薬屋さんでしょ?」

「うんまあ。でも困ったときはお互いさまっていいますよ」

「本当に!? どうもご親切にありがとう」その笑顔すら痛々しかった。

「ところどころ、ひどい傷だらけですが大丈夫ですか。さあ肩をかしましょう」


 まだ子供じゃないか。中高生ぐらいだろうか。

 ちょんまげでもないし。町民だな。

 俺は、傷だらけの彼を一目見て、派手にやられたもんだなと思った。

 念頭には、人助けをしなければという思いがあったわけだ。

 状況を見るに見かねて、つい、訳も聞かずに手持ちの薬で手当をしてしまった。

 ほんとに売って歩くわけでもなし。

 もとより俺のものかどうか不明だし。



「おい、そこの若ぇの! そいつをこちらに引き渡してもらおうか」



 男たちが追い付いて来たか。

 中には力自慢の大男もいるみたいだ。

 ああ、いわゆるヤクザ者というわけですな。

 品がなく、ガラの悪い連中のお出ましだ。

 だけど相手は10人はいるぞ。


 いきなりの難敵じゃないか。


 この世界で、俺はまだなんの経験もない。

 偶然、おなじ街道を歩いていただけだ。



「か、堪忍してくれよな。巻き込むつもりはなかったんだ」

「まあ、こちらも巻き込まれるつもりなどないのですが」

「ぶつかった上に親切に手当てをしてもらって、肩まで貸してくれる人に遇ったのは生まれてはじめてだ。迷惑はかけられない。おれが出て行けば済む話だから」



 人数が人数だからな、腹をくくったか。

 親切にした俺を巻き込みたくない……か。

 この若者は思いやりの心を持っているようだ。


 俺も、どの道なにかを選択しなければならない。

 その人助けの難易度をいまさら下げられるかという話だな。

 死ななきゃオッケーなんだろ。


 ここで一発、決めておくか。


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