026
所持金のことを俺が気にすると、女神は口を開いてくれた。
『私の配慮だ。
抜け忍は初心者のグンにはほぼ無理だから、里忍で任務を受注状態にしておいた。
その支度金が忍びの里から出ているのだ。自由に使ってかまわん。その任務は10日以内、そんなに滞在せぬからな』
え、つまりそれは……。
3日以上はここに居ないから、受けた忍びの任務は遂行する必要がないんだな。
手持ちの金は俺が生きるために自由に小遣いにできるってことか。
ただ忍者の場合、人助けをしなくてはならないおまけがあった。
強いジョブを選んで生き残るハードルが低くならないように、ノルマが課せらるのだな。
子供なんかだとその日の食いぶちにも困って、餓死するかもしれないからな。
「ネコババじゃん。あ、ありがとう。【女神エンジン】便利っ!」
『呪文は、まじないとも呼ぶだろ。江戸ではおまじないだぞ、いいな』
女神は念を押すように言う。
ゲームの目的はスキルの獲得だけだと。そのために江戸の異世界で、3日生存する。
その間、起こるイベントに参加するも、しないも自由だ。
現代とはちがうから、死だけは回避するべく注意を払わなければならない。
そういうゲームなのだ。
忍者の場合は、任務の支度金は踏み倒せることもある。
ノルマの人助けは必須事項。
特に戦う必要性はない。
ただ生き延びるのみ。
『もし失敗したらスキルは得られぬ。やり直しは効くがその度に段々スキルがしょぼくなるぞ。スキルを持てば楽になるから、出会い系クエストを申請して見てくれ』
気がかりだった。
出会い系を随分と推してくるんだが。
たしか、時間内に女神に逢うってやつ。
その時点でスキルがひとつ獲得なんだよな。
申請すれば、ゲームの難易度は確実に上がるぐらい俺にも分かる。
普通の町人と忍者が選べる時点で、難易度に差が出るはずだからな。
どんな内容か聞いてはいけないんだったよな。
スキルのほうはどうだろう。訪ねてみるか。
「スキルの種類とか、やっぱりいまは訊けないんだったね?」
女神はこくんと肯く。
『それはお前が取得すれば判明するだろ、女神エンジンでな!』
取得したときのお楽しみというわけだ。
すべて説明したからと手を振って彼女は町の方角の空へ、スーッと消えて行った。
つまり生きるのが辛くなれば、女神に頼っても良いということか。
そこにはまた別のルールのゲームが追加される。
あ、行っちゃった。
とうとう一人になった。
こうなりゃ歩を進めてとっとと宿を見つけに行くとするか。
金の心配もないことだし。
所持金は懐の財布に入っている。
この金は預かってくれないのか、チェックしておこう。
◇
貯蔵は所持金に採用できるか──【女神エンジン】。
ピピ!
不可能だ。両替の折りに一時的に預かるだけだ。
◇
これは持ち込んだアイテムとは違い、落としたり取られたりの可能性もある。
そういうことだ。
気を付けなきゃいけない。
持ち込みのアイテム……印籠はなくならない。
つまり見つかっても知られるだけで壊されたりしないってことか。
なにせ、葵の御紋だから、いきなり誰も奪ったりも出来ないだろうし。
でも俺がそれの持ち主として相応しくないことが疑われると厄介になるのだな。
別に見せつけるつもりなんてないんだよ。
分かっている。偽物だと知れたら、打ち首だろう。
ドラマでよくある話だ。
さて、先を急ぐとしよう。
言われたとおりに街道まで出ると、ピピっと女神エンジンが反応した。
手の中に新たな荷物の感触がした。
「なんだ? 荷物が現れたぞ」
手に取ってみると背中に背負うランドセルぐらいの箱があった。
開けて中を覗くと大小の包みが、たくさん収納されていた。
そっと包みを解くと、丸薬や粉が見えた。匂いは現代のものに似ていて苦い感じだ。
これは、薬箱かな。
あ、なるほど。
俺は忍者だけど外を出歩くときは薬売りに扮するのだな。




