002
もうすぐ夏休みに入ろうかという、7月の中旬。
ちょいとバスに揺られて都市の中心へ向かえば、ギ園祭ってのが見れる。
そっちは大人向けのイベントさ。
いくつもの大通りは都市を上げての歩行者天国で。
露店がズラリと軒を連ねている。
実を言うと、そこの商品は百円玉一個じゃ釣りが出ないのさ。
地元の人間がさ、浴衣も着ないで出て行けば、都の恥さらしって訳さ。
俺みたいな貧困層の居場所は大体決まっているのさ。
しかし口には出さないが、京の都は死ぬほど蒸し暑い。
なぜ口に出さないのか……それを俺に問う者も、もう居ないが。
居ない理由。
実の親から付けられたあだ名が、「おし」。
『やだ、なにそれ?』
何って、うんともすんとも言わない動物がいてよ、それの名が「おし」だよ。
他人と一切交流を持てず、ちっとも喋らないから「お前は、おしか!」って親に言われたせいで、下級生が平気で体重をかけて手を踏んづけてきたりして「痛いよ、踏んでるよ!」そう返すと「なんだ、声出るじゃん」って。
そのくらい出るわ、失語症じゃねえ……え、誰!?……いまの声。
う、後ろ?
木の下か?……おかしいな、誰も居ない。
「いまのは……空耳か?」
思わず周囲を見渡すが、誰も居ない……。やばい、幻聴か……俺。
暑さのせいかも。
でも、あんまりキョロキョロすると、下級生から言われんだよなぁ。
「また昆虫に話しかけてたの?」って。誰が虫なんかと話すかボケ。
いやそれより、なんか今……背中にゾクッと来たんだが。
まさか夏風邪じゃないだろうな。
──にしても。こうもクッソ暑くては空耳も聞こえちゃうかぁ。
待て。
空耳ってことは──空から聞こえたのか。
俺よりやんちゃ坊主は沢山いる。
木の上方に登った先客かな? 腰掛けていた木の枝が少し揺れる。
上体を反らして真上を見たせいだ。
俺は無口だが、木登りをしたり、川遊びをしたり、人ん家の屋根の上を渡り歩いたり。
時には公衆便所の屋根に登ったりと、いつも一人遊びだが、わりとワイルドライフを送っているのだ。決してちびっ子の手本にはならないし、ちびっ子からダメ出しされる側ではあるが。
それに自分の頭の中では、周囲の人間が凍てつくほど絶え間なく、喋っているよ。
こうして回想しながら、あの時はうまく切り返せずに悔しい思いをしてきた事とかに後出しではあるが、こう言ってやれば良かっただけだと──繰り返し、繰り返しな。