019 【浄化】
来るな、来るな、たのむ来るな!
ばか女神、デリカシーの欠片もないのか。
待ってくれ、もう少しだけ。
「もうダメっ……」
『どうした、なにがダメなのだ?』
『腹でも壊したか。こっちを向くのだ、手当くらいはしてやろう』
「え、うわっ! そんなとこ掴んじゃダメ……」
呼びかけに応じない俺を心配して、女神が俺の片膝を掴んで自分の方へと向けた。
祠の出口になる扉からは幾重にも陽の光が差し込んでいた。
逆光により──女神は、ほぼシルエットで佇んでいた。
「ほんとに女神さま? まるで後光が差しているようだ」
外の陽光ではなく、自分のためだけに優しく接する君が眩しくて。
一瞬で我を忘れてしまっていた。
俺はまたぐらを開脚させれ、あられもない状態で、くるりと女神と対面した。
その刹那──呆けるように彼女に見惚れてしまっていた。
貧乏暮らしだったので毎日肌着を着替える習慣がなかった。
汚れた衣類のまま逝きたくない。
だから脱ぎ捨てたけど。
この世の者とは思えぬ美しいものを見て、全身の力が一気に抜けた。
「だから待ってと──」
言いかけて止めた。
もう──思い残すことはないよ。
これで生への未練は断ち切れただろうから。
抜けた力はすぐには戻らない。
背筋に恐怖が走るも、なにもできない自分がいる。
女神の両手で俺の両足はがっつりと開脚させられている。
思わず想像したら、恥ずかしくて死にたくなってきた。
穴があったら入りたいけど、いまタイムトンネルを抜けてきたところだ。
すでに死んでいると言われた身だけど。
アホらしいぐらいに惨めな気持ちでならない。
裸でいたから鼻がムズムズして、くしゃみが出てしまった。
震えながら、もう一度死にたいとつぶやいた。
『おい、なにか飛んできたぞ。やけにドロドロしておる……』
飛沫を浴びせてしまったのだ。神様に。サルモネラ菌などを。
まさか、こんな事態になるとは予想もできなくて。
「ごめんなさい、鼻水です」こっそり謝罪をしました。
「この暑さで喉まわりの調子が。鼻水なんか巻き散らしてごめんなさい」
俺は生みの母に甘える様に泣いた。
女神のシルエットは、降りかかった俺の鼻水を光の泡で浄化しているように見えた。
「あの、やっぱりそれってお清めが出来るのですね?」
『そうだ、それが女神である私の基本スキルだからな』
女神の基本スキルは浄化なのか。清廉潔白なイメージにピッタリじゃないか。
『どれ、お前の身体の汚れも拭い去ってやろう。泡では時間がかかる。立てるか?』
え?
このまま直立しろってゆーのか。
ええいっ!
もう、なるようになればいいさ。




