016
お?
女神が右手でちょっと待ったの合図を出した。
『膨大な知識をその脳みそは飲み込めないな。だから行きたい場所を聞いた。お前から初めて江戸時代というワードが出てきた。つまり知識の引き出しが江戸の事柄だけに絞られたのだ。これならわかるな?』
あ、なるほど。
俺は、コクリと肯く。
『続けてどのぐらい過去かと。そのとき、お前にその詳しい知識があるなら調べずとも良いだろ。私は急いでいるとも告げている。決して遠回しな言い方でお前を弄んでは居ないのだ、勘違いするな』
物言いが端的すぎて、俺にはかえって分かりづらいんだよ。
もうすこし平たく言ってくれ。
思いながら、再び肯く。
『よく聞け。私はどこへでも行ける。そしてゲームにかかる所要時間も3日であると告げた。──だが、お前のいう江戸時代は3、4日で滅びたのか? 行きたがるのだから、少なくとも百年以上続いたのではないか。そのうちのどの3日間にお前が滞在したいのか、私は訊かずに知る術はない。あるなら訊かぬわ。お前はきっと神をなんでも見透かす超越した存在と勝手に決めておるのだな。下界の民たちに比べれば、優れている所があるかもしれぬが』
最後のほうの所、なんだか謙虚さが窺えてグッとくる。
言われてみれば、その通りだな。
先入観による決めつけは良くない。
女神はどこでも自由に行くことができるから、ここにも来た。
屍人とも、こうして話せるし。
いまはマジで凄いと思う。
でも、だからこその疑問もある。
こちらも挙手をした。
『なんだ? 言ってみろ』
「女神であるあなたは江戸時代を知らない。なら、【女神エンジン】にその知識は入ってないんじゃないかなって。それじゃ調べても分からないのでは?」
女神は俺に江戸のことを訊いてきた。それについては知らないからとのことだ。
それなら女神のくれたものが魔法の道具でも、もともとそこに江戸の知識が詰まっていないことになる。
俺はその疑問点に気づき、質問をしたのだ。
『先手を打ったと伝えたはずだ。それは私の中に置いたままだったらの話だ。お前の知識はお前の記憶の中にあるだろ。文章的な情報だけを調べられる訳では無い。ビジョンでも構わないのだ。その時代に飛べないお前が、興味を持っているのはおそらく、映像を見たからだろう。好きで本を手に取れるなら、知らぬとは答えぬだろう。繰り返し目を通して熟知しておるはずだ。だがお前は貧乏で買えないのだから、学校や人の家に再現映像を再生する装置があるのだと察しがつく』
うわお!
マジかよ。俺が見聞きしてきた記憶の中をのぞいて調べることが出来るのか。
テレビぐらいはうちにもあるけど。
それって、もしかして。
「あの、それってもしかして……俺が見聞きしていたら、べつに覚えていなくても良いってことですか?」
『やっと理解出来たようだな。だが私が調べられないのだ。いまはお前の脳が命令権を持っておる。【女神エンジン】は私の知力のコピーでもあるのだ。お前に預けておるから、お前が調べてみろ。使い方は知りたいことを想いながら、その名を呼ぶだけだ。つまり、【女神エンジン】と。──ただし、私のプライベートには鍵が掛けてある。コホン! では知っている人物の名を【女神エンジン】に調べさせよ』




