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113 【胸の期待値】


 俺が任命書と名付けた書簡の写しを手に取る。

 早速、霊能先生に手渡そうとすると。


「はい、霊能先生どうぞよろしくお願い……」

「ちょっとグン! 霊能先生じゃなくて富小路(とみのこうじ) 左内(さない)先生よ!」

「え、初耳だよ。ずいぶんと裕福そうなお名前ですね?」

「あはは。名前だけはね。左内で結構だよ」

「それじゃ。左内先生、これをどうぞ!」


 もっと早く教えろよと思った。

 医者の名は「富小路左内」というらしい。

 左内は写し書きを受け取って内容を読み上げる。

 お里も身を乗り出すように左内の横に這い出し、横からのぞき込む。




 ☆☆

 おぬしは、ツナセ街道の先の宿場町にて、情報を収集せよ。

 収穫があれば良し。

 その手で奴らから奪い返せば、なお良し。


 決して無理を通すでない。いのちは大事にせよ。

 情報だけでも良い、団子と饅頭を五十食分褒美に取らせよう。


 例の奴らが持ち逃げした頭領の形見を持ち帰れば、報酬百両を取ってつかわす。


 期限は十日以内。

 少年忍者サスケは一旦、報告と身の安全のため里に帰還せよ。



 追伸。

 もしもの時に備えて、我らの伝家の宝刀をおぬしにも授ける。

 綱の印をもって解き放ち、その身に開眼せよ。


 

 綱隠(つながく)れの里、里長 綱賀天内(つながてんない)



 ☆☆




「ふむ。私がおもうには。まず、「おぬし」は君自身なのか。

 ツナセの宿場町にすでに捜索の範囲が限定されている。

 ここでいう所の「収穫」が何を指示(さししめ)しているのか。

 さきに何者かに奪われたものがあり、それをその手で奪い返せとある。


 単純に整理すると。

 ツナセの宿場町で「奪われたものの場所」の情報が得られた場合、奪い返せ。

 ただ「その手で」とあるので、どこかに隠されたものということだろう。

「場所の特定を急げ」恐らく情報収集はそのことをいっていると考える。


 その場所には多くの見張りがいて、すんなり通してくれない。

「例のヤツら」といっているのでどのような輩たちかの見当を付けている。


 これらについては、それ以前に説明を聞いていることになる。

 グンに記憶がないのなら「奪い返すもの」の特定はすこし困難かもしれん」


「誰かよりも場所ですか?」

「そうだよ」

「わたしも場所がだいじだと思うよ」

「なんで?」

「だってだれかはすでに判明しているのよね?」

「してないよ。でも強いヤツらだから伝家の宝刀を授けるって……」

「そこなのだよ。誰かが判明してないのなら強敵と判断するのはなぜだね?」

「……あッ!」


 そうか!

 俺の記憶にないだけで、里の連中には分かっているということか。


「なにか特別な人たちなのよね。忍者の里長さんが無理はせず命をだいじにするようにいうのだから」

「コマさんの意見だと街での強敵はヤクザどもではないかって」

「きみは一度、駒次郎くんをその輩たちから救っているね? そのヤクザどもは死ぬほど手強かったのかい?」

「あ、いや。10人ほどのゴロツキだったがイシツブテだけで退かせたよ」

「なんと! そのような強さを持っているのなら、ここでいう「ヤツら」は間違いなく別の存在であろうな」

「そうよね。14歳のグンに大人が束になって敵わないのなら。お相手さんも忍者さんじゃないのかしら。里長さんはあなたの強さを知っているはずだしね」


 ああ確かにな。

 いわれて見れば任務を賜るには、腕がなきゃいけない。

 里の外に使いとして出されるほどの腕前が必要だ。


「おれは自分が思うほど弱くはなかったということか……」

「それほどの強さがあるのに、自分を弱いと思う理由はなにかね?」

「その当時はまだ忍術を会得していなくてイシツブテぐらいだったこと。そして少し足が速いぐらいの力しかなかったから。大勢で囲まれたりしたら逃げるしかないって」

「つまり相手が忍者だったらそこで負けが見える。やはり「例のヤツら」は敵対する忍者たちの可能性が濃厚のようだね」


 敵対する忍びたちか。


「ということはやっぱり綱隠れの里がどこかにある証だよね?」

「まぁそういうことになるね」

「サスケさんが本当の名前なの?」

「え、なんで?」

「忍者さんて素性を隠して生きるよね?」

「うん」

「それじゃあ、グンは仮の名でしょ? なのに、お武家様みたいに姓まで名乗るのはどうしてなのかなって。ちょっと気になって」


 それは、俺が死んだ世界の話に及ぶことだ。

 サスケが本当の俺ではない。

 3日間だけの転生先がサスケだっただけだ。

 鋭い指摘にどう対処しようか。

 その真実は語れない。


 江戸時代が終わった先の世界の話など到底説明できない。

 女神に呪文のことすら「おまじない」と称するようにいわれたのに。


「すまないな。名のことは頭に残っていただけだ。あまり思い出せていないんだ」

「ふうん、そうなのね」

「それよりも私には引っ掛かっていることがある。それを述べてもいいかね?」

「おお! ぜひとも聞かせてください!」


 左内が気になることがあるといった。

 胸の期待値が上昇する。


「この里は随分と大所帯なのだな、と」

「え。どういう意味ですか?」

「ここにある褒美のことだよ……」

「先生ったら相変わらず目ざといですね!」

「なんだ? 百両もどうやって貯め込んだとか言わないよな!」

「ちがうわよ! 百両は報酬でしょ?」

「お里も気づいてるようだね」

「もちろんです。一番気がかりな部分よ」

 

 一番気がかり……だと?

 気がかりなのは「伝家の宝刀」と「開眼」じゃねぇのかよ。


 でも、今確か褒美っていったよな。


「それって食い(もん)のことか? なにが気になるんだ……」

「あんた馬鹿ね! 数に決まってるでしょ? グンは忘れん坊将軍なのね」

「馬鹿は余計だっ! 褒美は多いほうがやる気に繋がるじゃねぇか」

「そういう思考もありだがね。グンはもらった褒美を1日で食べきれますか?」

「団子と饅頭を五十食分……を1日で、いやそんなに食ったら腹壊しますよ」

「そうだろう。どの忍者にも出した任務なら家族がいても食べきれないね。団子と饅頭を合わせたら百食分になりますからね」

 

 確かにな。

 サスケの記憶さえ辿れるならきっと仲間がいたんじゃないのか。


 ──居ないかもしれないな。

 出会わなかったもんな。

 数が多すぎるのは確かに不自然か。

 夏場だし、冷蔵庫もないし。

 腐ってしまうから、金以外は美味しくない。


 ならば、なぜそんなに。

 いやそもそも、どこでそんなに調達してくるんだ。

 それだけの数の和菓子を作るには、女手も必要になるしな。


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