110 【告白】
ほとんど吐かされたという状況だ。
やはり大人は侮れないや。
だが実名を名乗るぐらい考えてみりゃ何でもないことだ。
俺もよく考えが及ばなかった。
俺が駒次郎でない人格として目覚めてそれを誰かに伝えたら誰しも霊の類いだと疑うか。
自分でもいつのまにかそれで話を進めていた。
医者の先生は弥彦たちのことには触れない。
この身体の中に居る、俺という人格と向き合っている。
そういう人がいてくれて助かるが。
やはり変人と言わざるを得ない。
だけど盲点もある。
お里の紹介が「霊のグンがわたしに懐いている」と先にいったこと。
俺があとで塗り替えていたが、親しいお里のいうことと俺、どっちを信じるか。
先生は最初からお里優位に信じていたはずだ。
その上で情報を聞き出す手段を話の流れで汲み取りながら、その場で巧みに生み出していった。
俺の向ける言葉は俺のもの。
しかし俺がコントロールしきれていなかった。
主導は霊能先生とお里にあったのだ。
お里もこの先生のもとに随分と通い詰めているようだ。
俺の掛かり付けの医者なのだから、俺が姿を消した時点で連絡してあっても不思議ではない。
もとより霊能に興味がある医者だ。
時折目を覚ました駒次郎は現代でいう夢遊病だったかもしれない。
医者で変わり者ならその真相も知りたかろう。
得体の知れぬものがお好きだということをすっかり忘れていた。
孝和のことを俺が知っている。
それをすこぶる喜んでみせた。
数学好きがミステリなんぞに首を突っ込みたがるだろうか。
そこまでの思慮深さが俺にはない。
言葉遊びとは謎解きに適しているのかもしれん。
仮にお里と先生は何か特別な方法ですでに意思の疎通ができるとするなら。
俺から様々に情報を抜き取るうまい作戦がすでに敷かれていた可能性もある。
お里は肝が据わっている。
一対一のときでも俺を試したりする。
本当に悪霊だったらどうするのだ。
その見極めも会話の中からくみ取るコツでも享受されていたか。
考え過ぎても始まらないな。
協力を乞おう。
地名が気になるのは聞いたことがない。
それにつけてこれは女神の力で運ばれてきた土地だ。
女神エンジンと与えられたスキルがなければ到底出歩く自信はない。
そんな世界だ。
むしろそれがあるから楽しもうという気持ちに駆られるのだ。
さあここからが本当の駆け引きの始まりだ。
お里と盤次郎に会いにきたのは分かるだろうが駒次郎に会いに来た。
そういった意味を知りたがると思う。
駒次郎のときも弥彦のときも、互いに抱える情報を出さねば敵対者のままだった。
どこまで話せるだろうか。
不安は残るが目の前のふたりは命まで取らないようだし。
「またぼーっとしてるね」
「ご、ごめん」
「駒次郎というのはきみが乗り移っているその子ではないのか?」
「はい、そうです」
「いまのご両親からは病の子だと伺っているが」
どうせあと3日も居ないんだ。
少しぐらい打ち明けても構わないだろう。
この医者なら口外もしないだろうし。
「そのように説明をしたのですね」
「わたしもそう聞いているけど。ちがうの?」
俺は素直に頷いた。
「どういうことかね?」
「せんせ~、打ち明けることは聞かなかったことにしてください」
「それが条件なら3人だけの秘密とすることを約束しよう」
内密にしなければ甲賀の追っ手がこの2人すら巻き込み兼ねないから。
約束は守ってくれるだろう。
「まずお里に会いに来た理由だけど」
「わたしね……」
「家でも話そうとしたけど、お里が十六になる頃に……」
「ちょっと待ってよ。なんでそんな先の話なのよ」
「まあ聞いて見ようではないか。お里」
「はい。それじゃきかせて」
「さっき父親が博打ばかりしてると家が大変な目に遭うと言いかけたけど」
「その心配は先生がないといってくれたよ」
「せんせ~の霊能は外れです」
「なんと! それじゃ悪い方へ傾いたというのか?」
俺はすかさず頷いた。
「その結果、お里が借金の形に取られて遊郭に売られたんです」
「わたしを売り飛ばすような親じゃないわよ!」
「待ってくれ、悪口ではないんだ」
「お里や、運気というものは急に流れが変わることもある」
「そうだとしても先生! ひどいよそんな話を信じろというの?」
「ごめんお里ちゃん。俺はよそ者だ。コマさんとはツナセ街道で出会い、コマさんの紹介でツナセにあるアヒルノ旅籠で下働きをしていたバンさんに会ったんだ」
酷い話を耳に入れているのは承知している。
なだめることもせずに駒次郎と盤次郎との出会いの話を強引に切り出した。
すると勘のいいふたりは同様のことを口走った。
「きみ、お里が十六歳なら駒次郎も!!」
「そのコマちゃんに出会ったとき、グンはべつに居たのね」
「つまりその未来にはグンはまだ幽霊ではなかったというのだな」
「おっしゃる通りなのです」
「あっ! さっきわたしに打ち明けてくれたサスケだったのね?」
お里の目を見て「わかってくれてありがとう」と頷いた。
出かける前に俺から聞いた話をお里が先生に伝えてくれた。
先生はポカンと口を開いたまま俺をまじまじと見つめて来た。




