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109 【文字の読み替え】


「お里、何が偽物だと思ったんだ。お前の直感を話してくれ」

「その地名が気になって文字を知りたがったじゃない。セが同じだから単純にニセとした。そしたら汐で表すセを言葉から外すのよ」

「それはふたつの地名から汐を抜くということか。綱と神が残るな」


 これが何になるのだ。


「グンは寺子屋で起きた出来事をわたしに語ってくれたよね」

「うん」

「そのときも生徒さんに地名のことを尋ねたんだったね」

「うん。よく覚えていたな」

「あなたが気になっている、けど幽霊は遠くに行けないから人に聞く。つまりグンはすごい知識は持っているけどこの土地のことは知るすべがないということになり、その答えはわたしたちの誰かがグンにきっかけを与えなければ開かれない。これがわたしの言いたいこと」

「お里はほんとに利口だな、感心する。だからその答えを導き出す人間は多いに越したことはないのだとこの子はきみにいっているのだよ」


 思慮深いというやつか。

 たしかに誰かのくれた智慧は謎の扉を開く鍵となることが多い。

 出かける前にも経験をさせられたな。


「わかった。それで綱と神が残ったけど意味を成すのか?」

「わたしだけじゃ荷が重いから先生に意見をきいてみて」

「せんせ~。これどうするの?」

「私は最初の問いできみに親御さんのことをたずねた。そこからは身体の持ち主でないことが窺えたからお里とのやり取りで出ていた土地名に共通項を見たのだ。「とんち」だって謎の解明には重要な知恵となるよ」


 共通項を見つけたのか。


「それはなんですか?」

「きみの母はさとみ、ちちはしゅうご、だったね」

「うん」

「ご両親の名前の最後の字を取って目の前に置いてごらん」

「み……ご……」

「それを漢字にするとどう書くのかね?」

「数の三と五ですが」

「だからお里がニセをきみに暗示した際にお里はセがふたつあることに気づいたのだと私には分かった。だからついでに関孝和の話題を出したのだが」

「……が?」

「きみは孝和が数学者だと知っているのだから気付けると思ったが」

「数が大事なのですか?」

「大事かどうかは試さねば分からぬ。探るとはそういうことだからな」

「つまりね、ツナもカミも数が入っている言葉だからよ。グン、もうわかるね?」

「あ……っ!」


 ツナにもカミにも数字が入っている。

 ツナはツとナナで七、カミはカとミで三。

 まずはカナ文字でバラして読み、見えたものを漢字に直すのか。


「それなら、()()だ」

「それをどうするかだな。言葉として合わせてみるか。足したり引いたりもあるから組み合わせをやってごらん」

「言葉だと「ナミ」か「ミナ」だ。足すと十で引くと四だ」

「四は「よん」か「シ」になるよね」

「それぞれの地名だからそれぞれで考えるのがよい。でなければ双方の地名を名付けた人物が同一になってしまい信憑性の問題がでてくる」


 なるほど。

 先生の言っていることがわかってきた。

 言葉を合わせて意味になる場合には地名はほぼ同時に同人物たちによって付けられていなければ、という仮定の話だ。

 合わせるなら仮説が必要で複雑になる。

 根拠とする元を辿らねばならないからな。


 数だけに絞ると複雑化を回避できるかも。


「お里のような子供のほうが簡素に捉えて、足す引くを用いず数だけをみれば単純化できるだろう」


「知りたいのはグンだから出した言葉に見覚えや引っ掛かりがないかよく考えてみてね」



 整理すると。


 七 三 十 四


 それらの読み替えもすべてすると。


 綱  神  足し  引き

 しち さん じゅう し

 なな み  とう  よん

 七  三  十   四


「同不順だが並べ終えた」

「ならばキミがこれは! と思うものを取り出して並べ替えて見れば何か見えて来るかもしれない」

「組み換えとなると逆も組み合わせがあるな」


 足し引きを外すと、ナ、ミ、に絞れる。


「汐には心当たりないの?」

「あ?……」

「あなたいま汐を抜くといったね。どうしてそう考えたの?」

「その言葉を喉元まで導きだした何かがあるのかい? 正直になってみなさい」


 鋭い人たちだな。

 参ったぜ。


「俺は名が「抜汐(ばつしお) (グン)だからです」

「自分の名前の文字に引っ掛かるものがあったのね。先生が神汐、綱汐と書くいったときに」

「ああ」

「変わった姓だな。それはいいとして、ここにこんな姿で現れるのだから気になったことを教えてくれたら協力できるかもしれんよ」


「名の汐のことが頭にあった。そう読むんだとはじめて知った。汐といえば潮だし、潮の満ち欠けを思い出したんだ。それと先生がいった関孝和の出身は上野国で群馬ともいう。神は神隠し。綱は綱隠れの里。思い出せるのはそれぐらい」


「汐、群、綱、神、あとは汐がふたつと隠れもふたつあるね」 

「二人とも、もうひとつ忘れてはいないか?」 

「もうひとつ……とは」

「私が思うにはきみはお里ちゃんの傍に現れたわけだ」


 鋭いな、この人は。

 まじで霊能でも持っているのか。 


「顔に書いてあるみたいだな」

「グン、わたしに会いに来たの?」

「まったく参ったなぁ。なんて洞察力なんだこの先生は!」

「ほらもう正直に話したほうがいいと思うよ」

「里が見つからない理由は、場所ではなく人なのだとすればどうかな?」

「…………うっ!」


 迂闊だった。

 忍びの里というのはあの任命書からだった。

 里とは人の集まりだ。

 暗語だった可能性もあったのに。


「正確にはお里と盤次郎と駒次郎の三人に会いに来たんだけど」


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