106 【俺に合わせろ】
「あの子がこのように元気を取り戻して私を訪ねてくれようとは!」
お里に連れられ医者の元へ足を運んだのだ。
いつ訪ねても病床にあり、眠り続けて居たと医者もいった。
「先生にお話があって2人できました」
「なにかね?」
「じつはこの子はコマちゃんじゃないのです……」
「それはどういう意味かね、お里」
「身体に死者の魂が憑りついていて『グン』と名乗って14歳の子なの」
「なんと、それはまことの話かね?」
医者はお里の話に興味を示してきた。
道すがら聞かされたのだが。
そのような疑いのある患者をこれまでも受け入れて来たのだとか。
他の医師でも匙を投げてきた原因不明の病。
狐が憑いたとか悪い霊が乗り移ったとか、家族が唱えだすとここへ来る。
どうやら日常茶飯事のようだ。
その手の悩みは医者の診る病気ではないから他では手に負えない。
「昨日の夕暮れに姿が見えなくなって町外れのお堂の前で見つけたの」
「ふむ。どんな様子だった?」
「それがね、おさと、おさと……と泣いてたの」
いつ、だれが泣いてたんだ。
「それは、お里のことか?」
「それがどうやら別のひとみたい。わたしが名乗ると甘えた声をだして胸に飛び込んできたの」
好き勝手なこと言いやがって。
「先生、グンはねまだ記憶があやふやな所があるけど不思議な経験をしてきたみたい。わたしじゃ良くわからないので連れて来ました。診てあげてください」
もう俺の出番か。
「ふむ。きみの名はグンというのかね?」
「……あ」
「大丈夫よ、怖くないから。おーよしよし。わたしがついているからね!」
俺が返事をしようとするとお里が制止するように俺の身体を抱え込んだ。
だれが怖がりだよ。
頭をなでなでするんじゃねぇよ。
まったく大人の知恵の見せ場はどこなんだよ。
お前にだけ懐いているという設定だったな。
あくまでも演技だ、調子に乗るなよ。
「お里ぉ……もう目の前から居なくならないでくれ……」
少し情けない声を出し、感情を込めてお里に甘える。
「ほう。居なくなったのは彼の方なのにお里がそばに居ないと思い、外に探しに出たのかな」
「そ、そーなんです先生。わたしのことを亡くした想い人と……」
「お里……どこ行ってたんだ心配かけやがって、お兄ちゃんを困らせるなよ!」
シナリオ変更だ。
お前の好きにさせるかよ。
お里の頭を撫でかえしてやるのだ。
ここは言ったもん勝ちだ。
「ほほう! どうやら妹だと思っている様だな彼は」
「お里、おうちへ帰ろう。パパとママが心配していたよ」
「……っ!」
こうなりゃ先手必勝だぜ。
追い打ちだ、もう覆せないぜ。
「ぱぱっとなんだって?」
「せ、先生。わたしも意味が良くわからないの。グンはわたしたちの知らない言葉を口にするから……先生なら物知りだからなにかご存知かもと思ったのですが」
話を合わせるのが上手いな。
臨機応変な対応ができるやつだなお里は。
さあ俺の話に合わせてみやがれ。
相手が大人なら、知識で上回ろうとするのは利口ではない。
俺に知識がなく女神エンジン頼みになればまた墓穴を掘る可能性がでる。
憑依の信憑性を問うのであれば言葉遣いで刺激をするほうが賢明だろ。
ただし問われても俺が答えられる範囲でな。
曖昧な記憶という状況も活用していこう。
困ったら「思い出せない」で通すのだ。
「なあきみ、私と話をしないか? 医者だ、安心したまえ」
そろそろか。
俺はお里の顔色をうかがう。
妹扱いした以上は抱きついて離さないんだから。
「先生、質問は優しくゆっくりとひとつずつお願いします。うちの母さんとは話すみたいですが父さんには心を開かなくて」
「ああそうなのか。お里ちゃんを取ったりしないから、おじさんとお話をしよう」
俺はお里の目を見た。
お里がそっと頷き、合図をくれた。
あとは医者の質問に答えていくだけだ。




