103 【一緒に歩こう】
さて、お里は「一緒に連れて行け」などとわがままを言わないみたい。
ひとりで自由に行動ができるありがたい状況になった。
ゆうべとは段違いに物分かりが良くなっている。
不思議ではある。
だが子供心なんて気にしている場合ではない。
説明したことへの理解が早いのは正直助かる。
大名の件は結局のところ金が必要だ。
そのことは藤吉郎先生と東のお奉行に委ねておこう。
昼飯が一応済んだ。
物足りなくはないが旨い握り飯を出して食べたい衝動に駆られている。
お里がなかなか自分の家に帰ろうとしない。
もっとも俺が、帰ろうとしていた所を呼び戻したんだけど。
長屋にほかの遊び相手がいないのか。
「お里は俺以外に遊び相手がいないのか?」
「べつにそんなことないけど」
「じゃあ遊んで来いよ。俺、出かけるんだから」
「何よそれ! 遊び相手が居なさそうなのはコマちゃんじゃないっ!」
「俺はバンさんの所へ行くんだといっただろ!」
「そのバンさんは勉強のために出かけているのでしょ?」
「それがどうも……」
「うん?」
「町で頻繁に起きている子供の行方不明の件の調査をしているんだってさ」
お里には無理に隠し立てしないほうがよいだろう。
あとで根掘り葉掘り聞かれても面倒くさい。
「ねえコマちゃん……」
「なんだよ?」
「さりげなく、わたしのこと誘ってる?」
「は? どう聞けばその解釈につながるんだよ!」
「だって、コマちゃんはそのお手伝いをしようとしてるんでしょ?」
「ああしてるよ、俺一人でな!」
「コマちゃんはこの近辺について詳しいひとなの?」
「はっ……!」
これは意表をつかれた。
近辺を知るどころか生まれたばかりだし。
そうか……俺は眠ってばかり居たわけだ。
そうそう出歩いていたわけではなかったのだから。
それにこのコマさん同様に中身の俺も周囲の情報は皆無だ。
つまり幽霊のグンとしてはどうなのか?
という問いかけなのだな。
(幽霊じゃないんだけど)
「その顔は図星ね。町に知り合いの一人もいないのに。行方知れずの子供の情報をどうやって手に入れようというの?」
「だからといってお里を連れ回したら、俺がおばさんに叱られるだろ」
「わたし、コマちゃんに連れ回されるつもりなんてないんですけど」
「それ、どういうことだよ?」
「わたしがコマちゃんを連れて歩くのよ!」
はあ?
同じことじゃないか。
ふたりで行方不明者の情報を探しに町へ遅くまで繰り出すことに変わりがない。
「百歩譲ってやる。俺を連れ歩いても親に叱られずに済む方法でもあるのかよ?」
「馬鹿にしないでよ。わたし、考えもなしに話をしたりしないわよ!」
「な、なに!?」
また意表をつかれてしまった。
七歳の子供がふたりで町へ出かけるのだ。
そりゃ昼間だから子供がどこで何をして遊んでいようが構う大人も居ないかもしれないけど。
俺はその足で盤次郎に会いに行くんだ。
夕方にならないとあいつは寺子屋の藤吉郎宅に戻って来ないからな。
そこから話し込むことになるのだ。
そうなれば必然的に帰宅が遅くなる。
それを案じているのだ。
お前だけ先に帰るというのなら、そこまで言わないよな。
だが結局連れて行ってほしいだけだろ。
俺の家は父と母を名乗る2人が抜け忍であると弥彦から聞いている。
帰りが遅くても叱られる心配はない。
俺が案じているのは、お里の家庭の話なのだ。
まあどうせ小児の唱えるたわごとだよ。
話を聞いてやらなきゃ引っ込みをつけられない雰囲気だ。
駄々をこねさせると長引きそうだから。
「まったく。しゃーねぇな! ほら、言ってみろ!」




