102 【ひつじくん】
伊賀のサスケの所在を早く知りたいところだ。
だが忍びとはそう簡単には見つけられないのが常だ。
彼もどこかで世を忍ぶ仮の姿と名で過ごしていることだろう。
年の頃は弥彦と同じぐらい。
だが見た目が年齢相当とは限らず、出会うのは難を極めそうだ。
ふと、やばい手段が脳裏をよぎる。
甲賀者の追っ手に接触すればそれとなく情報が手に入るかも……。
「馬鹿な考え休むに似たる、だぞ」
いくらこの身が不死だとは言え。
なぜ、そもそも不死となったのだ?
解術できない原因が判明しなくても偶発的に解けたらどうなるのか。
なって見なければ分からん。
とにかく今は、お里と盤次郎にグンとしての俺の存在をどう伝えるのかだ。
もっとも盤次郎には記憶をなくしたとすでに伝えたことが好転しそうだ。
その線で話を繋げていくしかなさそうだ。
よし、俺に残された時間も限られていることだし。
「お里ちゃん、よく聞いてくれ……」
「どうしたの、急にこわい顔して」
「俺のことを知っておいて欲しいんだ」
「えっ。それはコマちゃんじゃない幽霊さんのほうのこと?」
幽霊じゃないってば。
「またいつ記憶をなくして眠ってしまうか分からないから」
「そうなの? なになに」
興味津々かよ。
「俺の名は「グン」というのだ」
「グン……変わった名前ね。どんな字を書くの?」
「お里……字がわかるのか?」
「馬鹿にしないでよ、もう七歳よ。バンさんだって寺子屋の先生に認めらるぐらい幼い頃から勉強してるのよ。私だって少しぐらい知ってるわよ」
「おおそうか。字はこう、「群」と書く」
紙に書いて見せてやると。
「群れるという字ね。後ろから読むと「ひつじくん」だね!」
「ひつじくん! なるほどな、って後ろから読むな!」
「なんでそんなに怒るのよ、子供ね!」
「こ、子供じゃいよ。俺は記憶が曖昧になることがあるけど14歳だ」
「ええ! 14歳なの? それって……それって……それって……」
「な、なんだよ?」
「14歳でお亡くなりになったってことよね?」
「……あ、まぁそうだけど」
やっぱり理解が早いな。
「かわいそう。同情するよ……だから忘れて欲しくないんだね」
「いやそういう意味じゃないんだけど」
「名前を覚えておけばいいのね、ひつじくん」
「そっちじゃねぇよ。「グン」だってば!」
ちょくちょくとからかいを入れて来るのは何故なんだ。
「14歳だというのなら、その字……ほかの読み方も知ってるのよね?」
「はあ?」
「言えたら子供じゃないって認めてあげる、覚えてあげるよ」
「答えられない場合は?」
「ずっと、ひつじくんになりますけど」
「そっちこそバカにすんな。群の読み方か……答えはあるんだろうな。ちょっと待ってろ」
「なんで待たせるの?」
「考えさせてくれ」
俺は目を閉じて考えるふりをして顔を上に向けた。
「群」の訓読み──【女神エンジン】
ピピッ!
むれる むらがる こおり
「なるほど、「こおり」だな。そういや郡奉行ってのが居たもんな」
「正解! ひつじくんが可愛くて良かったけどグンで覚えてあげる!」
「それは良かった。それとこれからバンさんにも知ってもらいたいから夕暮れに会いに行こうと思っているが……」
「そう、がんばってね」
「おや? ついて行きたいとは言わないんだな」
「だってバンさん今、危険な状況なんでしょ? 大名の件で」
「ああそうだ。それを言おうとしたんだ」
連れて行けとせがまれたらどのように宥めようかと思ったが。
それなら好都合だ。
「わたしなんて子供が行っても何にも役に立てないし、心配かけるだけだからお留守番しているよ」
子供の自覚があるという冷静な主張がかえって大人のような振る舞いに思えるのは気のせいだろうか。




