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第15話 英吾ともと花の水族館デート➂

 来た道を戻り受付の後ろ側に続く小道を進むと、海の幸とスイーツパフェがでかでかと書かれた看板が見える。小さなお店を除けば、『海月亭』と書かれたその飲食店しかこの水族館のなかにはないらしい。

 わたしは看板に書かれたメニューの金額を見てぎょっとした。

「北御膳3000えん、福福定食2500えん、ふぐ定食3500えん……」

 わたしが恐々としていると、英吾くんもさすがに苦笑いしながら下を指差した。

「こっちならお手頃だよ。エチゼンクラゲ定食850円、クラゲラーメン850円」

 よくよく考えれば先ほどの交通費を負担してもらっているのだ。何か恩返しをしたいけれど……。

「もと花ちゃんはどうする? せっかくだからクラゲ定食食べてみたら? 僕はこの旬のフグ刺し定食が食べたいんだけど……もしダメじゃなければ、クラゲちょっとだけ味見したいかも」

「全然大丈夫です! わたしもフグ、少しもらっていかな?」

「もちろん! それじゃあ入ろうか」

 中に入ると手前の方に券売機がある。お金を支払って奥のカウンターで食券を提示すると、セルフとなっているスープやごはんを自分で食器に盛っているうちに、トレイにメインの料理が乗せられる。

 周囲を見回すと、窓に沿って配されたベンチからは正面の海を拝むことができる。

「あっちの方に座ろう」

 英吾くんが指差した窓際の席には、ちょうど人混みからぽっかり離れた席がある。わたしたちはそこに隣り合って座った。

「「いただきます」」

 わたしは抹茶色の籠トレイに並べられた食材を見た。エチゼンクラゲの刺身とクラゲの春巻き、えびと豆腐の小鉢と味噌汁、そして茶碗蒸しが置かれている。

 わたしは味噌汁に手を付けた。

 塩気の効いた出汁の香りが胃と鼻を抜け、満たされていると、コリっとした食感がある。味噌汁の中にまでクラゲが入っているのだ。

「うまい!!」

 体から抜けていた塩分が満たされていくような感覚だ。隣を見ると、英吾くんも味噌汁を啜ったようでそれだけで幸せそうな顔を浮かべている。

 今度はクラゲの刺身に手をつける。イカと似て非なる微かにごわごわっとした食感にしょうゆが沁みてそれも美味い。今度は春巻きに手をつければ、春巻きのなかのクラゲには柚子が入っていて、鋭い香味がまた異なる味わいを放っている。

「幸せ……」

 幸福に溶けながら、英吾くんのトレイを見た。

 どかんと置かれた木の宝船に4つの小鉢が置かれており、しょうゆ、鯛とフグの刺身、フグのあんかけ、そして豆が見える。手前の方にごはんに味噌汁、お新香などが置かれている。

 ぷりっとした鯛くらいは味が想像できるけれど他の味は想像できない。でも美味しそうだ。わたしはまだフグを食べたことがない。白い身は蟹の姿を煮詰めたようにしわしわとしていて全く味が想像できない。そんな料理をチョイスするのが渋くて、わたしは英吾くんは大人っぽいなぁと思った。

「初めてなんでしょ。食べてみる?」

 英吾くんは箸でフグの切り身を取ると、しょうゆにつけてわたしの口元へ差し出した。

 あぁ~デートしてるなあ~。

 お互いに照れをを感じつつ、わたしはそれにかぶりついた。

 間接キスという事実とフグの淡麗な味に、脳がジョワ~っとなっていく。

 あぁもう幸せ。

 そうされてはこちらもこうするしかないではないか。

「英吾くんもどうぞ。やっぱりまずは刺身からだよね。はいっ」

 わたし以上に赤くなっている英吾くんの口元にクラゲを運ぶと、英吾くんは口元を手で覆いながら窓の向こうの海を見つめて咀嚼した。

「……うん、美味しい」

 英吾くんははにかんで言った。

 わたしたちはそんな幸せな時間を味わった。



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