第95話 頭にケサランパサラン付いてますよ?
A〇ple社のリンゴマーク、あれ齧ったの誰ですか?
こんにちは、雨宮小春です。役者を副業としつつ日比谷教教祖をしております。
さて、夏休みも早馬の如く駆け抜け、二学期が始まりました。真の本業たる中学生でありますわたくしも夏の終わりの近づきと秋の気配を肌で感じつつ登校していますが…
が!
我が校に伝わる『演劇部』の呪い!
一体何度説明するんだというこの話、元『演劇部』の天才、いや天災、藤島さなえの怨念が振り撒く呪いからの解放の為にこの秋の文化祭で舞台かえるの王さまをしなければならない…
何とか形になってきた舞台ではあるが、ここでひとつこの雨宮、考えなければならない事がある。
我が校の呪いの根は深く、演劇というものを生徒から教師まで恐れてる。
なんとか舞台の公演までは約束を取り付けたけど、問題は集客である。
客寄せパンダとして希屋凛斗をキャスティングしたけど足りない。
鎮魂の為に捧げる舞台……藤島さなえの怨念も、舞台女優に憧れる妻百合初音も観客ゼロの舞台では本懐が遂げられない。
僕の中にはこの1ヶ月と少しで唐突な覚醒を遂げた妻百合初音の努力を報わせてやりたいという気持ちもあった。
その為にもうひと肌脱ぐ必要があるだろう。
出来はどうあれとりあえずやればいいじゃないという考え方をする僕としてはこれは珍しい事である。
そんなわけで……
「諸君、プロモーションです」
「プ」「ロ」「モー」「ショ」「ン?(怒)」「ポ?」
そう、プロモーションポである。
図書室に集った劇団妻百合の面々に向かって僕は声高に宣言する。
「プロモーションとはなんですか?雨宮さん」
疑問を投げる妻百合初音へ僕はサングラスをクイッとさせながら決してふざけている訳ではない事を主張する。
「初音さん。いかに舞台公演を行ったとしても客の居ない舞台は虚しい」
「そうですね……」
「かと言ってこの学校で「演劇するから観に来てねー」と宣伝しても誰も見向きもしないだろう」
「死にたくないでしょうからね」
「雨宮君!そういえば本当に俺達は大丈夫なんだろうな!?」
「出柄詩ぃ…今日まで稽古で演技しまくってたけど私達、生きてるじゃん」
「出柄詩、羽場……あたしはもう覚悟を決めてるわよ?あなた達がそんなふにゃふにゃしてたら妻百合さんが不安じゃないの」
「私は加納先輩が下を取らないかが不安です」
その話を今更する気はない。
「で?プロモーションってなんだ?(怒)」
「プロモーションとは宣伝の事だよ。そもそも僕らはまだ通しで稽古をしてない…一度通し稽古をしておく必要があるだろう」
「で?(怒)」
「集客の為に希屋パイセンをメンバーに加えたけど…それだけでは集まらないだろうから、生徒の前で宣伝も兼ねて一度やってみる」
「なんで?(怒)」
「実際に演劇をして、呪いが振りかからなければ、生徒も安心して舞台を観ようという気になるでしょ?」
「……(怒)」
永谷園は馬鹿だからよく分かってないみたいだ。
「…しかし、私達はまだ人前でお芝居をした経験がないのにそんないきなり……」
などと、突然ビビり散らかす妻百合初音。彼女に今一度覚悟を問うつもりで僕は目を覗き込む。
「……君はプロになっても同じ事言うの?」
「いえ……」
「初めては誰にでもあるんだよ?」
僕は安心させるように妻百合初音の手を机の上から拾うように取る。
「大丈夫…君の演技は凄い……」
「雨宮さん……」
「呪いに囚われたこの学校を、君のお芝居で救うんだよ…君がかつて救われたみたいにね…」
「………………手が湿ってます。トイレの後手を拭きましたか?」
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「というわけで一旦通しでやる事になったんですけど…」
『俺は行かんぞ?』
希屋パイセンはプロ意識が足りない。
「まぁいいです。ポスター作るので写真だけ撮らせてください」
『ネットの画像でも勝手に使え…しかし雨宮』
「はい?」
『本当に気合いが入ってるな…お前に指導をしてた養成所時代…こんなにやる気を見せた事はなかったぞ』
「……」
それは…この事件を解決しなければ俳優業を安心して再開できないからじゃない?
『まぁいいや。で、雨宮。妻百合はどうだ?』
「手が臭いと言われました」
『知らねぇよ。雨宮…お前も分かるだろう?』
「いや、自分の臭いというのはなかなか自分では気づけないもので……気をつけます」
『妻百合には才能あるよ』
なんだ突然。なんの伏線もなしに僕が覚醒した時は頭にケサランパサランが〜とかしか言わなかったくせに…
『劇団クレセントムーンが妻百合が欲しいって言ってる』
「…………」
どこ?劇団クレセントムーンって……
『それとなく話してみてくれよ、お前から…お前、いい拾いもんしたな』
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んな事は今どうでもいいんだよっ!!
漢雨宮、俳優がダメでも広告代理店の社員でもやっていけそうな段取りで体育館を占拠した。
体育館では「トレジャーハンター部」なる部活がボルダリングの練習をしてたけど炉端焼きを握らせて黙らせた。彼女らの手は豚バラの脂でギトギトである。
宣伝の為の練習風景であったとしてもその宣伝を誰も観なければ意味はなし。だからこそCMとはテレビ番組やYoutubeで強制的に見せるのだ。
僕らの場合は昼休みの体育館である。
この時間は運動部の連中が練習で使うのを知っているから。
グラウンドに面する扉も開け放ち外を駆け回る生徒達にも見せつける。
一部の生徒にしか見せられないけど、僕は運動部の影響力を信じてる。
「なに?あのステージ…」「なんかやるんかな?」「練習の邪魔でござる……」
早速食いついた練習という名のパワーランチに勤しむ運動部へ『演劇部(予定)』の3人がさらに興味をそそるべくわざとらしく大声で告げる。
「『演劇部』の劇練習だってよー」
「あの『渋谷戦争』に出演する雨宮小春が出るってよー!」
「そういえば最近呪いが起きないなー」
「おいおい…マジかよ」「今劇って言った?」
「ふざけてんのか?そんな事したらまた…妻百合か?また妻百合初音なのか?」「あの男なんでスカート履いてんだ?呪われてんのはアイツだろ」
……いい感じに視線が集まってきたのを舞台袖で確認。彼らが呪いを恐れて逃げ出す前に始めなければならない。
これはある意味、本番より気合いを入れなければならない瞬間だ。
この学校で劇の客を集める為には始めの掴みで客を惹き込まなければならないからだ…
初っ端--そう、妻百合初音の芝居に懸かってる。
僕は隣でタイミングを伺う相棒、妻百合初音の様子を伺うけど…
「羊羊羊羊……」
「なにしてんの?」
「羊を書いて飲み込んでます」
「それ馬じゃね?」
羊と¥って似てるよね?って話はどうでもいい。
日本舞踊、妻百合流を修めたこの天才ですら、初めては緊張するものか…
僕のデビュー戦はチーターと追いかけっこだったからなぁ……僕にはデビュー戦の緊張というのが理解できない。
「雨宮さん雨宮さん。大丈夫でしょうか?鼻くそ付いてませんか?」
「付いてない付いてない」
「出ていったら石投げられませんか?」
「投げられない投げられない」
「私……」
僕は今一度彼女の手を取る。
緊張に震えながらもその手は灼熱を纏っていた。内から湧き上がるその熱に触れた時、僕はなんの心配もいらない事を悟った。
「--大丈夫、初音さんの演技は素敵だよ」
「……雨宮さん」
手を取りながらこんなセリフ、僕だから許されるようなもの。フツメンの人が言ってたら未成年淫行で逮捕ものである。
しかしそんな僕のキザなセリフでも、彼女の震えを止めるくらいの力は--
「……あの、頭にケサランパサランが付いてますよ?」
「早く行ってこい」




