第91話 屍コレクション
「渡さない…誰にもぉ!!」
「普通に喋れるんじゃねーか!!(一同)」
ごきげんよう。私、劇団妻百合座長、妻百合初音と申します。以後お見知り置きを。
さて、突然覚醒し格が違う演技を見せつける皇さんに驚愕する私は今、KKプロダクショングループ養成所福岡校のレッスン室にて文化祭の劇に向けた稽古に勤しんでおります。
『演劇部』の呪い、藤島さなえさんを成仏させる為に始めたこの舞台に私は自身の夢を託していました。
そんな私の見つめる先--
「愛する者を奪われる胸の痛みが…あなた達に分かる?」
震える声と狂気を宿した瞳(糸目)を私にぶつけてくる皇さんが居ます。
全存在を主張するようにぶつかってくるその演技に私も気持ちを全力でセリフに込めます。
「……わたしにはあなたがわからない」
しかし、絞り出すありったけは自分で聞いていても脳みそを引きずり出したくなる大根っぷり。
目の前でポ以外の言葉を覚えた皇さんの存在感に全く対抗できません。
そんなお姫様役の私を守るように前に躍り出る少年がその巨大なカリスマに噛みつきます。
「愛とは押し付けるものではなく、与え、受け入れそして分かち合うもの…お前の言う愛は愛に非ず」
静かながら熱気が伝わってくる程の熱量を抱く言葉を唇から発するそのかえるの王さまは勇ましくも空の手で剣を構えます。
爆増するような魔女の狂気に王子--雨宮小春は鋭い視線で真っ直ぐ魔女を射抜きました。
まるで本当に姫を守る王子様になったようでした……
「あなたの愛--打ち砕く……」
私はそんな2人の芝居に、見惚れるように惚けた瞳を向けるだけでした……
「ミス、ハラペーニョハツネンさん」
「妻百合初音です」
その日の稽古終わりに私の背中に声をかけてくるのはやはり雨宮さんでした。
稽古中のキリッとした勇ましさはそこら辺の床に落としてしまったようで、サングラスをかけても誤魔化せないやる気のなさを醸しながら帰り支度をする私に話しかけたのです。
なんの用でしょうか?
「あなたに、一生で一度のお願いがあります」
「既に私は一度雨宮さんのお願いを聞いて『おひねりちょーだい』の事件に協力したはずですが……なんでしょう?」
「あれは一周目の僕…生まれ変わった二週目の人生最初で最後のお願いです。ハラペーニョさんにしか頼めないんです」
「はぁ……?」
一度死んだか魔王を倒されたらしい雨宮さん。サングラス越しでもその真剣さが伺えます。これはただ事ではありませんね…
私は制服のリボンのねじれを直し向き直ります。
「聞きます」
「お兄さんを紹介してください」
Σ(゜д゜;)!?
********************
『初音、それは俗に言う「プロポーズ」でございます』
「ね、姉様……」
自宅に戻った私が助けを求めるように電話をした先で姉上、妻百合花蓮はそう深刻そうに言い放ちました。
そんなバカな……
この初音、姉上や兄上方ほど世間知らずでもバカでもございませんので、そんな世迷言は信じません。
「そんなはずはありません。私と雨宮さんはそんな関係ではないので。利害の一致から協力する盟友のようなものですので…」
『初音、それは俗に言う「フラグ」だったのでございます』
フラグ……?
自宅マンションにフィリピンオオコウモリが侵入してきましたがそれどころではないです。
『フラグとはこれから起こる新たな展開を予想させる予兆……伏線のようなものでございます』
「言ってる意味が…ちょっと……」
『共に事件の解決に奔走し、兄の心を救われ、そして今また共に同じ目標に向かって邁進する…これが恋人フラグでなくなんなのでございますかでございます』
「そんな…しかし……」
『初音、家族を紹介しろというのはそういう事なのでございます。その方はそれ程の覚悟で初音に向き合っているのでございますよ』
「……覚悟…」
『殿方に恥をかかせてはいけませんでございます』
いや…私の意思は?
『至急ゆうちゃんを実家に招集するでございます』
「悠々斎兄様を!?ちょっと待ってください姉様!そうと決まった訳ではないので……」
『初音…その方の覚悟に真摯に向き合うのでございます』
……バカな…私のグラタンにコウモリの糞が…
『ところで、そこまでのフラグを立てる2人の今やっている事とはなんでございますか?青春もいいですが、学業を疎かにしてはいけませんでございますよ?』
「……いえ、今文化祭の劇に向けてちょっと…」
『劇をやるのですかでございます?』
私の方向を聞かれた姉上の声は嬉しそうに弾んでいるように聞こえました。
『……初音、あなたの人生でございます。どんな夢でも、風〇嬢とヤ〇ザ以外なら姉は応援しますでございますよ』
「いや、そんなものになる予定はないです」
『観に行くので日程を是非、教えてくださいでございます…あと、式の日程も……』
「式!?」
********************
妻百合初音、家族を悲しませる訳には参りません。
一度は捨てた妻百合流ですがこの初音、家族との絆まで否定するつもりはないのです。それを教えてくれたのは、雨宮さんでした。
そんな彼と今日……婚約報告に参ります。
日曜日、ありったけのおめかしをして待ち合わせ場所で待っていれば人混みの奥からのっそのっそと未来の妻百合家の未来を担う御仁が現れました。
……流石現役俳優、カジュアルではありますがジャケットを羽織り、オシャレに醸す雰囲気は完全にシティーボーイでした。
「お待たせ、お休みに呼び出してごめんね…って凄い格好だね?お祝い事でもあった?」
我が妻百合家に伝わる正装--牡丹の振袖を纏った私にとぼけて見せる雨宮さん。
「おはようございます雨宮さ…いえ、小春さん」
「一体どうしたと言うんだい?」
「早速ひとつ苦言を呈させて頂くのであれば、実家に挨拶に行くのにその格好は少しカジュアルすぎる気がします…こういう場ではスーツが普通かと…」
「は?」
「そんな有様では、この初音をお嫁さんにはで・き・な・い・ぞ☆」
「え?……腐った牛乳でも飲んだ?」
「……え?真一郎兄様ですか?」
なんということでしょう……
兄様を紹介しろとは、真一郎兄様に会わせろと言う意味だったと……
姉上のせいでとんだ恥をかきました。今すぐ殺してください。大体おかしいと思ったんです、雨宮さんが私に惚れるなんて……
「……ですが真一郎兄様は知っての通り『おひねりちょーだい』事件でホテルを爆破したので今拘置所におります…」
『おひねりちょーだい』脅迫事件は『ヤッテ・ランネー・プロダクション』の意向で脅迫事件を表沙汰にしたくないとの事で、ホテルが吹き飛んだ件のみでの起訴になりました。
「だからだよ。僕が会いに行っても会ってくれるか分からないでしょ?でも妹の君なら会ってくれるかもしれない…僕は彼に用があるんだ」
ああそうですか。初音には別に用がないと?
「用とは?」
「……あの事件を真の意味で終わらせる為だよ…」
どうやらあの事件はまだ終わっていないという事らしいです。
無駄に気合いの入った不肖妻百合初音、雨宮さんと共に真一郎兄様の居るTOKYOの拘置所へ…
ちなみに旅費は私持ちでした。
「面会?勝手にすれば?」って感じで実にガバガバな受付を終え面会室に入りますとそこにはドラマとかで見るあの部屋が広がっています。
なんか飛沫が飛んで乾いた跡のような白いつぶつぶまみれのアクリル板の向こうから刑務官に連れられてその人はやって来ました。
「おらぁ!歩けボケっ!!ぶち殺すぞ!?」
「ひぃぃん…」
そこには身内の前で泣き叫び引きずられる真一郎兄様の姿が…
「座れボケ!面会時間は180秒だっ!」
「あのちょっと…私の兄を乱暴に扱わないでください」
これがTOKYO…やつれた兄上の姿がその恐ろしさを物語ります。
「フルフルフルフル…」
「真一郎兄様…お久しぶりです。初音です」
「フルフルフルフルフルフルフルフル…」
「私が分かりますか?」
「フルフルフルフルフルフルフルフルフルフルフルフル…」
「お久しぶりです、真一郎さん」
何やら壮絶な心の傷を負われた兄上に雨宮さんが語りかけます。兄上の目は虚ろでした。
「私、KKプロダクショングループの……」
今度はどんな偽名でしょうか……?
「雨宮小春です」
本名でした。
「……お前は……あの時ホテルに居た……?フルフルフルフル……」
「お兄さん、あなたに聞きたい事があって、来ました」
「ハナシタ……スベテハナシタ……フルフル…」
「……」「……」
「ヤメテ……コワイ……」
「あの……どんな取り調べをしてるんですか?」
私の問いかけに刑務官は無言でした。
雨宮さんは続けます。
「橋本圭介を殺害する為に記者会見場を襲った覆面の人……あなたが雇ったんですよね?」
雨宮さんは1枚の紙切れをアクリル板越しに兄上に見せます。そこには……
ジャン・アンピエール・ルイホッコ・マッカンシー・モルケッチャロフ・ハルハルタン・ルイセルフ・L・アンジェリーナ・タナカ三世
……と書かれてました。?
「この人を知っていますね?」
「雨宮さんなんですか?これ…早口言葉?」
「シラナイ……シラナイ……」
「僕らはこの人を探しています」
「シラナイ……シラナイ……シラナイ……」
いけない。幼児退行を起こしています。
「……刑務官さん、彼のここでの扱いの向上を要求します。これで…」
雨宮さんの語りかけに反応した刑務官さんはアクリル板の下から潜らされた謎の茶封筒を条件反射レベルのスピードで取りました。
彼は中身を確認して……
「…………分かった。昼食に蒲焼さ〇太郎をつけよう」
「だそうです、お兄さん」
「全て話そう」
兄上が蒲焼さ〇で復活しました!
「……俺はあの日、どうやって橋本圭介と早川大地を殺そうかと考えていた…」
買収された刑務官の目の前で兄上の告白が始まります。封筒の中身はあの伝説のカード、ブラックロータスでした。
私は何に付き合わされているのでしょうか…?
「お前達の用意した記者会見が罠の可能性も考慮し、俺は俺の代わりに彼らを地獄に落とす代役を探していた…ビクトチャットで」
「ビクトチャットで…?」
「ビクトチャットとはニンジンドーDSなどのゲーム機に搭載されているチャット機能の事ですね?」
なぜそんなもので…?まだ存在するのですか?DSって……
「その日俺はあるイベントであの人と出会った…俺が入ったチャットルームにこう書かれていたんだ…」
あなたの復讐、手伝いましょうか?--
どんなチャットルームですか。それ。
「……顔は見ましたか?」
「いいや…ずっと覆面をしていたからな…」
「連絡先は?」
「DSでしかやり取りしてない」
「兄上、なぜ闇バイトをDSで募集してるんですか?」
「真一郎さん…そのイベントというのは……」
「--屍コレクション、最強屍決定戦大会だ」




