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第87話 ぶち殺すぞ?雨宮

 7月に入り、雨が上がりました…

 初夏らしいカラッとした青空には太陽が燦然と輝き、長く濡れ続けた北桜路の街を乾かしていきます。通学路に咲く7色の傘の花は姿を消し、談笑しながら道行く学友達の背中を眺めるのも久しぶりの光景です。


「あぶなーーーいっ!!」

「え?」


 そんな前方不注意の女子中学生が今日も道を走るミナミサンブラックに撥ね飛ばされ宙を舞います。

 こんにちは、妻百合初音です。

 かつて有馬を制した健脚の威力に恐れおののく女子中学生です。




『演劇部の呪い』--藤島さなえ。

 彼女を鎮魂すべく捧げる舞台、かえるの王さま。この舞台の主演に抜擢されました舞台女優に憧れるだけの小娘は今、錚々たるメンツを引き連れて図書室へと向かっています。


 先にそこで待っていたのは今、飛ぶ鳥も天高く舞う勢いで活躍の時を待つ現役俳優にして同級生、雨宮小春さんでした。


「お待たせしました。雨宮さん」

「見たまえ。君があんまり待たせるものだから首が3ミリほど伸びた」

「呪いですかね?」

「その心配はないよ。藤島さなえは呪いを振りまくのを止めた」


 晴れてようやく気候に合ってきたけれど校則違反のサングラスを外した彼の目が私の後ろに連なる面々を見ます……


 さぁ、愉快な仲間達のご紹介です。


「(怒)」


 こちら怒っておられるのが同級生、永谷園さん。この街では知らない人は居ない札付きのワルだそうです。今回主役であるお姫様のお父さん役に大抜擢されました。


「……この男は?」


 こちら『演劇部(予定)』の先輩、出柄詩一輝さん。マッチングアプリでこの前素敵な女性と出会えたとの事でした。今回は特別にお姫様の姉役その1をやってもらいます。


「……この子、噂の入学初日に停学食らった子じゃない?」


『演劇部(予定)』兼心霊研究部部員の羽場愛夏先輩。昨日まで顔面半分貞子でしたが髪を切られたそうで(前髪のみ)今は眉毛まではっきり見えておられます。愛らしい童顔が映えます。出柄詩先輩同様、姉その2に抜擢。


「あたしは知ってるわ…君、『子供大捜査線』で見た事がある!」


 この気色悪い方も『演劇部(予定)』のおひとり、加納弘樹先輩。本人の強い要望もありまして女役、姉その3をやってもらいます。男性です。えぇ。


「……え?もしかして僕の事知っ--」


 数少ないファンに雨宮さんが食いつきますが尺がないので次。


「……ポ」


 この方は同級生でクラスメイトの皇十和すめらぎとわさん。

 寝ているのかな?と思ってしまう糸目がチャームポイントな美人さんです。怪しげな糸目に大人びた顔立ちが特徴的な黒髪ロングがよく似合われた美人さんです。繰り返します。美人さんです。ものすごい身長もあります。2メートルくらい…今回は特別に悪い魔女役をやってもらおうと思います。


 皇さんをスカウトした経緯についてはそれはそれは命懸けで過酷な道のりだったのでここでは省略します。


 人数がまだ1名足りないのですが現時点でかき集められたのはこのメンバー。

 残りは主演、お姫様役の私、妻百合初音(骨折中)と王子様役の雨宮さんです。

 ちなみに配役は私の独断で決めさせてもらいました。


「……彼らが?」

「ええ、私達と共に舞台に立つ予定の共演者様達です」


 全員を吟味するように雨宮さんは彼らを睨め回します。そんな彼らに私は雨宮さんを紹介します。


「こちら王子様役の雨宮小春さん…私の同級生です」

「なに!?こいつが王子様だと!?」「あんたより適任よ、出柄詩…へぇ……イケメンじゃあん」「君、やはり子供大捜査線に出ていただろ?」「(怒)」「……ポ」

「皆さん、雨宮さんはKKプロダクションに所属する現役の俳優さんです」


 どうやら雨宮さんの出演作品を見たことがあるらしい加納先輩以外は「なんだと…」という表情を浮かべられます。永谷園さんはずっと怒ってるし皇さんは出会ってからずっと「ポ」しか言いませんが……


「どうでしょう雨宮さん。というか、この現状で舞台に出てくれる生徒はこれ以上集められそうにありません」

「ぴかーーん」


 その時雨宮さんが何かを閃いたご様子。様子を見ましょう。


「閃いた」

「何をですか?」

「客寄せパンダ。ちょうどいいや。あと1人足りないんだよね?」

「ええ……王子様の従者、ハインリヒ役が決まってません」

「え?この人達の配役はもう決まってるの?まぁいいや…問題ないよ。全て僕に任せてくれればいい」

「(怒)」「なぜ彼が仕切る…」「ホンモノの俳優だよ?私は見た事ないけど…」「誰だっていい…あたしを世界一可愛い女にしてくれるなら……」「ポ……」

「ところで初音さん、この人「ポ」しか言わないけど大丈夫?」

「大丈夫です」

「ほんとに?」

「ほんとに」


 全て任せろと言ったのはあなたです。





「彼岸神楽流…蛇滑走!!」

「ポッ!?」「は…速いっ!?」「なんで徒歩で移動なのよ!!」「コイツ…ただもんじゃねぇぞ!?」「このスピード…メロスともタメを張れますね…」「(怒)」


 さて、放課後妻百合初音率いる愉快なお友達たちが向かったのは雨宮さんが勝手に用意したというレッスン場でした。


 KKプロダクショングループ養成所福岡校--


 そこは私達一般人が普通踏み入らない芸能人の卵達の集う学校でした。日が長くなった晴天の下そびえ立つ巨大な建物はその芸能事務所の業界での大きさを誇示するように私達を見下ろしていました…


「…雨宮さん、ここは……」

「伝説が産声をあげた場所……この雨宮小春の原点--」

「あのちょっと、関係者以外立ち入り禁止ですけど?」


 かっこよく決めておられる雨宮さんに警備員さんが水を差しました。どうやらここが雨宮さんの通っている?通っていた?養成所らしいのですが普通に止められました。


「関係者ですけど?」

「後ろの人達は?」

「僕の関係者ですけど?」

「身分証あります?」

「関係者の関係者は母のツレと言いますから…」

「母のツレで通すわけには行かないんだよ…あっ!待ちなさい!!こら!勝手に入--」


「--その子らは俺と約束してたんだ。通してくれ」


 強行突破を試みる雨宮さんと私達の前に現れたその人は涼し気な視線を風に乗せて運び、その場の空気を完全に呑み込みます。


 クセのある黒髪が影を落とす貌に座る切れ長の瞳はカミソリのような切れ味を秘めた威圧感。

 どこか気だるげな雰囲気の中に隠しきれない覇気を覚えるその姿は同い歳くらいのはずの少年を見上げるような歳上に錯覚させました。

 世間知らずではありますがこの妻百合、彼の事くらいは知っています。


「…希屋凛斗のぞみやりんと


 KKプロダクションが誇る有名俳優、誰もが一度はテレビで観たことある人ランキング昨年23位のあの希屋凛斗でした。


「ほーーー」「こーーー」「けーーー」「ポーーー」「(怒ーーー)」


 これには命知らずの物の怪達も大興奮でした。そんな仲間達に向き直る雨宮さんは告げます。


「今回特別コーチとして参加して頂く、覗き魔レッドさんです」

「ぶち殺すぞ?雨宮」

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