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第75話 怨念が居んねん

「とりあえずお祓いをした方がいいだろうね」

「……お祓い…」


 エカテリーナ先輩のお葬式から3日目。

 校門前で首が吹き飛んでお亡くなりになられたどなたかを校門前の木の枝から吊られた雨宮さんと眺めております。


 やはり今日も雨です。


 こんにちは、妻百合初音です。将来の夢は舞台女優ですがこのままでは中学卒業まで無理そうです。


『演劇部』の呪い騒動。

 我が校の『演劇部』に所属していた少女の怨念が私と雨宮さんのせいで復活し、当事者も関係ない生徒も巻き込み我が校を恐怖に叩き落としています。

 今日までで不審な死を遂げたのは3名…

 このままではこの中学は限界集落になってしまいます。


「また……」「やっぱり…」「ヤバいって……」「……全部あいつのせいじゃん」

「……」


 後ろから聞こえてくる声を聞こえない振りしつつ私は呑気に吊られた雨宮さんの言葉を拾いました。


「お祓い……なにか伝手があるのですか?」


 何度首を吊るされても無問題モーマンタイな現役役者、雨宮小春さんはしたり顔で「然り」と頷きます。枝が折れて落ちました。


「僕のデビュー作『虚空』というドラマがあるんだけど…」

「存じ上げています」

「その時除霊でお世話になった専門家が居るんだ。名前はジョナサン・小西」

「あのジョナサン・小西ですか?」


 あのチンピラみたいな見た目した、たまにテレビとかにも出てくる五本の指に入るほど優秀な数少ない本物の霊能者、ジョナサン・小西ですか?

 流石テレビ業界の人……人脈が豊富です。

 ところで心霊特番って最近やりませんよね…


「お願いしましょうか……」

「というかあなたの実家、元々陰陽師だったんでしょ?」

「いえ……私はもう妻百合流とは関係ありませんので……」


 ********************


 --ジョナサン・小西。

 日本でその名を知らない者は3世帯にひとりくらいと称される伝説の霊能者。彼の事を調べたらまぁびっくり……

 お高いんです。はい。

 依頼料が100万円でした。


「……この人本物なのですよね?」

「初音さん、商売だからね。本物だからこその値段だとは思わないかね?」

「頼もう」


 図書室でスマホを前にゼロの数に圧倒される私と雨宮さんの横から呑気に目を輝かせるのは沖島先輩でした。

『演劇部(予定)』メンバー、羽場先輩から紹介された我が校のオカルト研究のパイオニアです。


「あのジョナサン・小西先生だよ!?」

「落ち着いてくださいオキシドール先輩」

「誰が消毒液じゃ」

「100万円ですよ?とても払えません。ので怨念も祓えません」

「そんな事言ったってもう3人も死んでるんだよ?君達のせいで。怨念は間違いなく居んねん。金の問題ではない」

「初音さんも沖島先輩もキレキレですね…僕はジョナサン・小西の除霊を見ました。彼の腕は本物でしょう…僕の生霊は祓ってくれなかったけど……100万円は高いけど本物の実力に対する対価として考えれば安い買い物ではないかと思うよ?初音さん」


 私?


「私にはとても…払えません。中学生なので…というか、ここは仕事をしておられる雨宮さんが払うのが当たり前かと…」

「おいおい、僕は仕事もない万年貧乏役者だよ?」

「……確かに、君が芸能人だなんて言われるまで知らなかった」


 沖島先輩に雨宮さんが針のように鋭い殺気を飛ばしています。


「妻百合流の財力で何とかしてよ。お金持ちじゃないか」

「無茶を言わないでください。雨宮さん、貯金とかないのですか?」

「賠償金とかで消えちゃったからねぇ…」

「何したんですか……?」

「これから撮る映画が完成したらギャラが…」

「やめてください」


 今あなたのお芝居のせいで大変な事になっているかもしれないと言うのにこれ以上お芝居したら学校爆発しますよ?


 ……しかし彼ばかりを責める訳にはいきません。彼は呪いの事など知らなかったのだし、お芝居するのは彼の仕事…

 ……まぁ仕事あんまり無いらしいですが。


 どちらかと言えば……私の方が……


「……やめよう」


 その時、雨宮さんがスマホをしまいながらため息混じりに口にします。

 何をやめるのか?と私と沖島先輩が視線を向けると彼は治癒したての鼻の頭をかきながら言うのです。


「実現不可能な事について考えても仕方ないので。呪いなどなかった…彼らの不幸な死は偶然で、僕らには責任なんてない」

「何を言うのですか…」

「雨宮君。この不審死が偶然だと言うのかい?私にはとてもそうは思えない」

「しかし全て憶測の域を出ないこと…これ以上は考えても無駄なのです。ので、これ以上気を揉んで考えるのは--」

「待ってください!お祓いならジョナサン・小西先生以外にも居ます!その……数万くらいなら私、何とか出せますので……」


 ここで投げ出す訳にはいかないのです。

 だって……エカテリーナ先輩は、皆さんは、雨宮さんだって……


 私が『演劇部』復活なんて始めたせいで……


「……そうやって不安がるのを--」

「お願いします。このままではもっと大変な事になる気がするんです!」


 床に膝を折って懇願する私の瞳をいつものように彼が覗き込みます。

 この人はその人の考えてることをなんでも見通してしまいます。ならば、私のこの気持ちも汲んでくれるはずです。


 私はこの人は優しい人だと思うから……


 ********************


 神社の宮司さんにお祓いをしてもらって一週間経ちました。

 私と雨宮さんと、なぜか沖島先輩と永谷園さん。必要ない人の分までお金をむしり取られ実家からの仕送りが心許なくなってきました今日この頃……


 相変わらず雨の続く、湿っぽい日々ですが、変死事件は収まりました。


 あわや学校閉鎖かという瀬戸際でしたので、先生方も今だ緊張が抜けない中、我が校に束の間の安息が訪れたのです。


「……という訳です」

「分かってんのか?こらぁ(怒)」


 私は『演劇部(予定)』メンバー、2年の羽場愛夏先輩に報告します。

 出柄詩先輩と加納先輩は会ってくれませんでした。

 というか最近、あからさまに皆さんから避けられてます。先生方にまで。


「……まぁ、仕方ない事です」


 私が始めた事が学校をかき回してしまったのですから。

 私と会ってくれるのは羽場先輩と沖島先輩…


「こらぁ(怒)」


 そしてなぜか永谷弟。


「え?なんで私呼んでくれなかったん?」

「あ、いえ…羽場先輩オカルト研究部に移籍したと聞いて……忙しいかなと……」

「取材させてよ」


 当事者の1人であるはずのオカルトマニア羽場先輩ですが、彼女は呑気に頬を膨らませて拗ねるだけです。

 ここ数日ずっと気分の沈んでいる私に「でもま」と彼女は明るく語りかけます。


「解決したって事だよね?」

「それは……どうなんでしょう……」

「私も幽霊見たかったなー」


 なんて強気な羽場先輩が不審死が連続した時は教室で失禁したという話を私は知っている。


 そして愚かな『演劇部(予定)』部長は遅すぎる決断を下すのです。


「それと今更ですが『演劇部』は解散にしましょう。やはりこの学校に『演劇部』は無用です」


 既に他の部に所属してしまっている先輩にこんな事を言うのは変だけど……部長としてこれは伝えるべきでしょう。

 風聞としてしか目の当たりにしなかった呪い話。それが現実として降りかかった今、自分の憧れの為なんて愚かな理由で続ける事は出来ません。

 もっと早くに気づくべき……いえ、気づいている事を認めるべきだったのです。


『演劇部』の纏う異様な雰囲気…過去に起こった事件。私が始めた事は触れるべきでは無い禁忌の扉を悪戯に開ける行為であったことを。


 そしてこの学校の誰もが『演劇部』など求めていない事を……


「そっか……あんなに熱心だったのに残念だね」

「私のわがままでご迷惑をお掛けしました。出柄詩先輩と加納先輩にもお伝えください」

「うん。妻百合さんはどうすんの?オカルト研究部部入る?」

「入りません」「何する部活なんだよオカルト研究部って(怒)」

「……ごめん妻百合さん、隣の人誰?」

「永谷(弟)です」




 ……これでいいはずです。


「いいのかよ。お前はそれで」


 相変わらず降り止む気配のない雨は視界を覆い尽くす程にまでひどくなって、そんな雨足の音に紛れてちゃっかり相棒ポジションを確立しようと画策する永谷園さんが問いかけました。

 私は窓を濡らす雨粒を反対側から指でなぞりながら答えます。


「いいのです。お芝居は中学を卒業してからすればいいだけなので……それに…」

「あ?(怒)」


 私、ヤンキーとかオラオラ系の方の使う「あ?」が嫌いなのですが。返事代わりにキレないで頂きたい。


「……それに、私があの日見て憧れた舞台の上の人達はたくさんの歓声に包まれていました」

「……?」

「お芝居はたくさんの人を喜ばせるものですが……誰にも望まれていない、お客さんの居ない舞台には果たして意味があるのでしょうか?」

「……??」

「この学校では誰も望んでいません」


 自分ではなく、誰かの為に……

 あの日、妻百合流の夢に敗れて心に穴を開けた私の心を虜にしたように……


 私のわがままだけでこの道を進んでいったらそんなキラキラした夢が目指していた場所とは違う所へ向かってしまう気がしたのです。


「だから、いいんです」


 私は雨の濡らす外からなぜ隣に居るのか分からない永谷園さんへ視線を映しました。



 --その時。


 その時私の視界を覆い尽くしたのは時代遅れなヤンキーの顔では……なく。



 薄暗い廃倉庫のような錆びた屋内で倒れた無数の大型ライトが天井を照らしていて……

 まるで下から照らすステージライトのようなその明かりに強く照射された先に、色濃い影を伸ばした人の姿が天井から……





 --わたしもでたいの




 一瞬の内に目の内側に飛び込んできた謎の光景と、耳の奥で響いた悲鳴のような少女の声。


 すぐに現実に引き戻された私の意識は大雨の中の校舎に変わらずありました。


「……今の…は……」

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