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第67話 危うく窒息でしたよ

『おひねりちょーだい』を…圭介をいじめるいじめっ子がとうとう出てきやがった。

 いじめっ子なら容赦は要らねぇ…

 なんたってこのいじめっ子は……早川を殺そうとしたんだから……


 いじめっ子は嫌い。あと、ヤクザも嫌い。


 狂気の街で魔人と恐れられた、関西煉獄会を潰した、九尾の狐と戦った……あの時の力を幾年ぶりかに、解放する。



 --私、宇佐川結愛の目の前に現れたそのいじめっ子は、話に聞いていたそれより遥かに危険だったってわけだ。



「いじめっ子は死ね--」


『ヤッテ・ランネー・プロダクション』本社ビル8階、記者会見会場が爆発する。

“力”の解放と共に膨張した空気が破裂し、不可視の爆発が会場を超えて晴天の空にまで届いた。

 千切れ飛ぶ雲の泳ぐ空に放り出された襲撃者は、同じように外に吹き飛ばされた会見場の椅子やら机、壁や天井の残骸に混じりながらも黒鉄の口をこちらへ--早川に向けてやがったんだ。


 直ぐに会場に空いた風穴から飛び出しながら腕をクロスした私が早川と銃口との射線を塞ぐ。

 躊躇いなく放たれた死の弾丸は私の腕を貫通することも無く弾け飛んだ。


 こいつは間違いなく圭介と早川に殺意を抱いてる。

 こいつが何者かは、もうどうでもよくなった。



「--殺す」


『ヤッテ・ランネー・プロダクション』タレント警護主任、宇佐川結愛。

 自らの勤めを果たす為、落下していくクソ野郎へ掌を向けた。


 私の意思に従い解放された不可視の力は見えない掌として私の手を離れ落下していくいじめっ子を上から叩きつけて地面にぶち込んでいた。




 --私には神通力がある。

 理由は簡単だ。クソほど鍛えたから。


 私もいじめられっ子だった。

 倒錯した変態的感情を抱いた友人により、いじめられてた。

 そんな私を変えたのが、当時アイドルのアの字にも引っかからねーようなダサい圭介だった。


 誰もが一笑に付す夢を追いかける圭介の姿…それを見て私は変われた。


 いじめられっ子から、魔人へ--


 そんな圭介と付き合いだして、城ヶ崎麗子とのスキャンダルが週刊誌にすっぱ抜かれた時…


 煮える怒りが私を『覚醒』させたんだ。


 お前ら、人は変われる。んで、案外簡単に人を辞められる。



 圭介のおかげで強くなれた。だからこの力は圭介の為に使う。


 魔人の神通力が解放され、私の力の奔流に当てられたビル下のアスファルトが隆起する。

 石の棘と化した地面に叩きつけられたいじめっ子野郎は全くダメージを受けた様子もなく転がり、立ち上がった。


 通行人の悲鳴と混乱の中、私はクソ野郎に向かって垂直落下していた。


 着弾地点はいじめっ子の頭。真上から頭頂部を直撃した後、青い爆発と共に四散する衝撃派。

 が、しかし奴はまるで突風をすり抜ける雑草のように爆風に乗って私から距離を取る。


 ここまでで着いて来れない奴は今すぐブラウザバックだ。


 いじめっ子は一言も喋らねーで私に背を向け、本社ビルの入口へ駆け出す。多分、圭介と早川を殺しに行くんだろ…


 させるわけねぇ。


 使命感と、無視された事により刺激されたプライドが昂る感情となり、世界がそれに応える。


 いじめっ子が走る地面が私の感情の発露に砕け、大規模な地割れは東京の街を巻き込みながらいじめっ子を地下へと巻き込んでいく。

 私はその上から腕を上から下へ…


 腕の動きは指揮者のタクトのように殺意をコントロールする。


 私の頭上に発生した巨大な漆黒の光輪から同じく闇色の剣と槍が地割れに降り注ぐ。

 巨大な鉄の雨が砕けた地面を更に砕きながら、落ちていくいじめっ子を追撃する。


 轟音の後完全にただの穴と化した陥没後の地面とおしっこチビりながら転がる通行人達を一瞥し、私はその大穴に飛び込んだ。


 陽光が白い線となり暗闇を刺している。粉塵撒き上がるその地下の底では、墓標のように突き立つ漆黒の刃達……


 その中で奴は立っていた。


 見たところ大したダメージは見受けられない。今の攻撃を全て躱したということか…?

 いじめっ子とはしつこいものである。


「……てめぇ、なんで圭介達を狙う」


 私は対峙するいじめっ子を睨みながら問うた。その答えを聞かない事には、加減も本気もないからな。

 事前に雨宮から聞いていた容疑者、妻百合真一郎とは違うように思えたからだ。


「お前、妻百合の人間なのか?」

「……」

「口ついてねぇのか?」


 穴だらけの東京の地下で私の闘気が練り上がる…

 東京は土地が少ないからか、すぐ地下になんか掘る。だからこんなに地盤が弱ぇんだ。


 んな事はどーでもいい。


「依頼人の秘密は喋れない」


 ようやく生意気な口を聞いてきたその声に確信。声はよく通る女の声だ。

 次はその覆面を剥ぎ取って面を拝む。


 こいつは妻百合の人間じゃねー。

 かつ、こいつは雇われだ。ならこいつ以外にもまだいじめっ子が居るってことか。


 こいつを寄越したクソ野郎が……


「……お前、名前は?」

「……」

「答えろよ。名無しの権兵衛じゃあ葬儀屋が困るだろ…」

「……私は…」

「……」

「ジャン・アンピエール・ルイホッコ・マッカンシー・モルケッチャロフ・ハルハルタン・ルイセルフ・L・アンジェリーナ・タナカ三世」


 ………………


「……ごめん、なんだって?」


 *******************


 ……あの目は…


 いよいよ佳境を迎える『おひねりちょーだい』脅迫事件。


 魔人、宇佐川結愛により吹き飛ばされた会場で僕、雨宮小春は早川大地と妻百合花蓮の上から身を起こし、すっかり青空会場になってしまった戦地を見つめる。


 幸い、周りの被害をフルシカトした宇佐川結愛の謎の爆発(?)による死傷者は今のところゼロ。

 僕が覆いかぶさった事により妻百合流家元も早川大地も無傷だ。



「姉上!!」


 報道陣が粉塵に咳き込み、なんとか打ち付けた体を起こしてる中、妻百合初音が声を上げて駆け寄ってきた。

 姉の身を案じる妹の献身が目に染みる。そして無くなった鼻に粉塵が染みる。



 ……それにしてもあの覆面。どこかで…


 顔を見た訳では無いけど、僕の中にビビッとくるものがあった。


「雨宮君」


 この程度でメンタルを取り乱す早川大地が声をかけてくる。僕は吹き飛んだ橋本フェイスを引っ掛けたまま向き直った。


「あの怪人物が妻百合真一郎なのか?」

「いやぁ……」

「いいえ、しんちゃんは運動が苦手で、いつもかけっこでは最下位でございました」


 否定するのは家元、妻百合花蓮。よく分からない弁明だけど多分「うちの弟はあんな化け物じゃないでございます」って言いたいんだと思う。


 僕の推理は外れたのだろうか?

 それとも、真一郎が寄越した刺客だろうか?


 推理が外れた事に対する抗議か。妻百合初音の視線が痛い……


「……おい雨宮、逃げんぞ」

「偽者の記者会見ってバレたら大変だよ。記者さん達が動揺してるうちに!」


 ここで僕の手を引いたのは双子探偵、浅野姉妹だった。

 確かにこんなのバレたら事務所から除籍されちゃう。いやん。



「みなさん!救急車が来るまで動かないでください!!記者会見は中止です!!」


『ヤッテ・ランネー・プロダクション』の折月が場を繋ぐ間に僕と双子探偵と早川、妻百合姉妹は会場からコソコソ脱出。

 脱出しながら考える。

 予定ではここで真一郎が姿を現してなんかドラマチックなやり取りがあって改心してお巡りにパクられて解決して『渋谷戦争撮影編!』に突入するはずだったんだけど……


「これからどうするのでございますか?」


 和服で走りにくそうな家元が質問を投げる。


「……覆面は宇佐川が追った…多分直ぐに捕まるだろ。あいつが何者だろうと、あいつが捕まれば事件は解決だ」


 と非常階段を滑るように駆け下りる美夜さんが答えた。

 そこで家元の手を引いて走る妻百合初音が僕を見ながら言う。


「……では、やはり真一郎兄様は犯人ではなかったのですか?」

「……」


 凄く気まずくなって僕は思わず視線を逸らす。

 そりゃ、実の兄を犯人呼ばわりされたら気分は悪いはずだ。


 あの覆面が何者なのか、僕は冷静に思考を巡らせる。


 あの覆面が『ヤッテ・ランネー・プロダクション』の関係者かはこの場で考察したところで意味の無いことだ。

 そして今日会見の場で襲撃をかけてきたのは僕の作戦通り妻百合流とのコラボという爆弾が琴線に触れたからか…?


「……雨宮さん?」


 脅迫と共に『おひねりちょーだい』は都度都度潜伏先のホテルに襲撃(弓矢)をかけられていたそうだ。

 が、今回姿を現して本格的に襲ってきた。

 会見の場ならガードが緩くなると考えたのか?報道陣の目の前でやることで世間に訴えたかったのか?


「あぁ!?初音、着物の帯が……っ!」

「いけません姉様!!」


 ……僕は考える。そこで、ひとつ結論付けた。


「おい!遅れてるぞ!!なにお代官様ごっこしてんだてめぇら!!」

「違いますでございます美夜先輩」「姉上の帯が解けまして…」

「美夜さん」

「なんだ?今忙しい」

「やっぱり犯人は真一郎かもしれません。急ぐ必要があります!」

「……かもな。その可能性がまだ消えたわけじゃねー」「小春君、どうしていつも美夜なの?私も話に交ぜてよ」

「やはり会見をピンポイントで狙ったのは妻百合流への気持ちを踏みにじられた怒りでしょう。となると、やはり真一郎です。あの覆面女は刺客です」

「なんで女って分かんの?」

「……それは…………直感です」


 その時!なぜかこのタイミングで僕の気道が突然締めあげられた!

 真面目な話してる時になに!?って思ったらなんと、後ろから追いかけてきてた家元の着物の帯が解けてなぜか僕の首に絡まってた。


 ?


「かっ!?かひゅ…!?」

「あ、すみません。帯を締め直そうと思ったら手が滑って……」


 と、妻百合初音。そんな馬鹿な。この人僕の鼻千切ったりなんか……

 はっ!?こいつまさか真一郎の刺客か!?この中学生離れした冴えを発揮する小春君を消そうと……!?


「すみません……あれ、解けない……」

「で?なんだ?続きは?何を急ぐんだ?」

「かひゅ!ひゅ……ひゅう……っ!!」

「はよ(怒)」

「ひゅー!!ふひゅ!ひゅひゅ…ひゅっかかっ!かはっ!かひゅっかひゅっ(この脅迫中のタイミングであからさまな挑発会見、みんなが真一郎の立場ならどう思いますか?)」

「……?(怒)」「雨宮君何喋ってるのか分からないよ」「あれ?解けない……(汗)」

「かひゅかひゅかひゅひゅひゅ、ひゅっ(罠だと見抜かれていたとしたら、会見に出てくる『おひねりちょーだい』は影武者だと見抜いていたかも)」

「だからなんだって?(怒)」

「ひゅーひゅーひゅーひゅーひゅー(考えすぎかもですけど…だからこそ真一郎は本人ではなく刺客を使った)」


 あの……まだ解けませんか?鼻ないので、口呼吸辛いです。


「ああっ!初音いけません!!そんなに引っ張ったら着物が脱--」「言ってる場合じゃないです姉上。ちょっと…雨宮さんの顔が鬱血してきました」


「ひゅーーーっ!ひゅーーーっ!!ひゅーーーーっ!!(真一郎は本命を仕留めに向かってるのかもしれません!)」

「「だからなんて?」」


 もういいです。


「かひゅ!ひゅひゅ!(彼岸神楽流!龍門一閃!)」


 ズバッ!


「あっ……」「きゃーーーっ!?(///)」


 手刀で無理矢理帯を切って復活。


「姉上!?なぜ下になにも……!?」

「だって……着物の下はなにも着てはならないと父上が……!!」

「あの助平親父……!!」

「家元さん!?大変だっ!あられもない姿に…ぶはっ!?」


 早川大地、女性耐性が低かった。この忙しい時に救急車クラスの鼻血を噴出。

 魚人島のサンジみたいな事になった早川大地をあられもない家元が抱える。介抱のつもりだろうけど、その距離感はさらなるトドメになりかねない。


「ちょっと忙しいんですけど……」


 と、無情な小春君。


「は、早川様は私が……みなさんはお先に!」

「くふっ!圭介……これが……世界の真理か……」


 早川大地はもうダメらしい。


「……お願いします。なにか聞かれたら覆面に襲われたって言ってくださいね!浅野さん、急ぎましょう!」


 僕の予感が正しければ真一郎は影武者ではなく本物--ホテルに避難してる橋本圭介を殺しに向かっている可能性がある!


「「だからどこに?」」

「……雨宮さんはまだ、兄上を疑っているのですね?」

「……うん」


 妻百合初音の視線に僕は頷くだけで応じる。様々な感情を孕んだ視線に僕はこれ以上ない根拠をぶつける事にした。


「……だって…攻撃に弓矢使うなんて、犯人は妻百合ですってキャラ付けに決まってる」

「「そんな理由で!?」」


 ……あの覆面に弓矢は似合わない。

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