第521話 公開
『にんにん!どうも!暴露系Y〇utuber地雷亜ですっ!さぁ今日はね!みんなが期待してる暴露ネタ……では無いんですけど!このネタを拾わない訳にはいきませんから!ええっ!観てきましたよっ!皆さん覚えていますか?日本が誇る名監督、南戸監督。南戸監督が亡くなられて一年……とうとう公開という事で!波乱を呼んだ話題作。映画『若人達』!という事でね、今回は今話題の『若人達』の感想についてお話していけたらと思いますっ!!』
南戸監督の遺作、そして新人監督桃原監督のデビュー作『若人達』
世間を騒がせた問題作にして、エレナ・アッシュクロフトはじめ、栗亜稔、白羽ハイル、小鳥遊らいむ、雨宮小春、妻百合初音、新郷レオパルド、朝日奈ゆう、城ヶ崎麗子……大物キャストを贅沢に起用したこの映画が今日から公開された。
公開初日、観客動員数は200万人、興行収入23億8000万を超え、超話題作として世間にその爪痕を残した。
今世界中で注目されている『若人達』……
さて、その感想は……
「流石お目が高い…ジャガー・ルクルトは時計界の技術屋と名高いマニュファクチュールブランドでございます。さらに永久修理を謳っており、どんなに古いコレクションであってもメンテナンスを受け付けております。お客様の大切な時を刻むタイムピースとしてこれ以上ない選択かと」
「ほう……」
「こちらのマスター・ウルトラスリムは僅か7.9mmというこの薄さで自動巻き機構を搭載した、ジャガー・ルクルトの技術力の粋を集めた一品でございます。エレガントでクラシカル。お客様に良くお似合いでございますよ」
「頂こう」
「お買い上げありがとうございます^^」
「まじか!小春!?」
映画プロデューサー、雨宮小春。セレブリティ街道まっしぐら。
プラダのスーツに身を包み、ジョンロブの革靴を履き、ジャガー・ルクルトを煌めかせ、銀座で優雅にディナータイムである。
「らいむ、今度赤坂に引っ越そうかと思ってるんだ。遊びにおいで?」
「お前、どうした(汗)」
そこにかつての貧乏俳優の姿なし。そこに居るのは一流業界人である。格付け上位間違いなし。震えるがいい、G〇CKT。
さて、なぜこのフェニックスがこんなにも羽振りがいいのか……
「『若人達』大盛況じゃあないか。いやぁ、頑張って撮って良かったね^^僕ちんは笑いが止まらないよ」
「……良かったな」
グラム一万円は下らないであろう高級ステーキをナイフでギコギコしながら僕は恋人との夕食を楽しむ。
連れるのは銀幕の女王、小鳥遊らいむ。芸能界の頂点に立つ男に相応しい。
「ふははははははははっ!!」
「……(汗)」
さて……
今日は映画『若人達』をらいむと観てきたのだ。公開前に観たし、演者だし、改めて観る必要もないかと思ったけど、らいむがどうしても劇場で観たいと言うのでこうして初日に足を運んだ。
ディナーが済んだ僕らは夜の街を歩く。
「そういえば、仕事のオファーが来てるんだよね」
と、らいむ。肌寒くなってきた季節。厚手のコートの裾を揺らすらいむは東京の社畜達の作り出すイルミネーションに瞳を輝かせていた。
「ほう?」
「それがさ、舞台なの」
「舞台?」
「私にとっては初舞台。受けようかと思ってる」
らいむは仕事が順調らしい。
高校卒業後、僕とらいむは進学はせず俳優業に専念、ついでに熱愛続行中、ハラペーニョ・ハツネンは慶応義塾大学に進学。俳優と兼業してる。
新郷レオパルドも大学には行かなかったらしい。
まぁそんなみんなの近況はいいとして…
「戻ってきちゃったね」
僕らはついさっき映画を観た映画館の前まで戻ってきていた。
劇場の入口にでかでかと掲げられた『若人達』のポスター。もう遅い時間だというのにたくさんの人が劇場に吸い込まれていく。
この人達もみんな僕らの映画を観に来たんだろう……せいぜい金を落としていくがいい。
「楽しみだねー『破滅の八重歯』」「ワクワクするぜ!」
……違った。
どちらからともなく劇場の前で足を止めてポスターを見上げる。
らいむはその前に腰を下ろして、手にしていたホットココアを飲む。
「……ぶっちゃけどうだった?」
見上げて問いかけてくるらいむに対して僕も隣に腰を下ろし、二人揃って映画館の前でヤンキー座りだ。
目の前に話題の俳優二人居るというのに映画館に入っていく観客達はそれに気づかない。入っていく人、出ていく人。それぞれの顔を観ればどちらか分かる。
映画を観終えて出てくる観客達の表情は十人十色だが、彼らの顔を見つめながら僕は答えた。
「……思ったより面白くないよね?」
「な!」
らいむ同意。
今日早速レオパルド氏に感想を聞いてみた。返ってきたのは「なんか普通」という返事だ。
演技は素晴らしい。
一流の役者達の本気の演技。それは僕らプロの目も唸らせる。
が……肝心のストーリーがありきたり。
南戸監督が元々ストーリーを重要視してなかったせいか、引き継いだのが新人監督だからか…
いずれにしろ一つの物語として観た感想は、期待してたほどでは無い、というものだった。
どっかで観たことある物語を繋ぎ合わせた群像劇、目新しい展開も胸を打つドラマも特になし。
俳優として観れば演者の演技を分析しその実力に感動するかもしれないが、ただ映画を楽しみに来た観客からしたら拍子抜けなのかもしれない。
それでも客足が遠のく気配はなく、こうしてぞろぞろと観客が集まっているし、出てくる観客達も満足げだ。
初日だからだろうか?
豪華なキャストを使っているからだろうか?
話題性が先行して過大評価されているのだろうか?
いずれにしろ、映画は成功したと言えるだろう。この熱はしばらくは続くだろうから。
「撮ってる時はあんなに熱かったのに…楽しみにしてたカップ麺がお湯がゆるくてアルデンテだった気分」
と、らいむは語る。
「……まぁ、そんなもんさ。自分の出てる作品なんて見直すもんじゃないよ。純粋に楽しむのなんて無理だし、この映画は南戸監督と栗亜さんの完全自己満足だし」
「もう少し面白いかと思ったー」
「……不満?」
顔を覗き込んで尋ねると、その先でらいむは言葉とは裏腹に満更でもなさそうな顔だ。
「……まぁ、いっか。楽しかったし」
「……そーだね」
この映画は色んな人を成長させた。
らいむも、アヴァ女史も、白羽ハイルも、僕も……
それだけで作って良かったと思う事にしよう。
「でもやっぱり俳優としては自分でも納得出来るものを作りたいよな?小春」
控えめに体重を預けてくるらいむに僕は言葉の真意を図る。誘うようならいむの目は新しい何かにワクワクしているようだった。
そして告げる。
「次の舞台……お前んとこにもオファー来るぞ」
「え?」
どうやら次の物語が始まるらしい。




