第41話 僕に言わんとってください
未熟なり雨宮小春。
どうも、彼岸神楽流五段、雨宮小春です。
世界最強の小学3年生を自称する僕は今訳あって中国の武術大会『大武連闘技会』に出場中。
賞金1000万円をかけて血で血を洗った上で血を塗りたくる死闘を繰り広げてました。
芸能活動はどうしたのか?って?
今はそれどころでは無い。
今大会の有力選手『なんと!?無音拳』のヤ・ンデレとの死闘--毛根死滅剣をキメたと思った僕は直後戦慄する。
「…ふふふ。わたくしの奇襲を1度ならず2度までも……」
「すでに……ハゲ…っ!」
毛根死滅剣。相手の毛髪を毛根ごと殲滅する彼岸神楽流の奥義のひとつ。
しかし奴はハゲていた。
そしてその事実に戦慄する間が奴に反撃を許すきっかけを作る。
「八咫鏡ッ!!」
「うわあっ!?」
太陽光を反射した奴のハゲ頭が閃光のような目潰しで僕の視界を奪う。
そしてそれは相手の視界から完全に消え去り音もなく敵を屠る『なんと!?無音拳』の使い手相手には致命的だった。
「小春っ!!」
セコンドとして観戦中の彼岸神楽流総師範、彼岸神楽が叫ぶ。
次の瞬間、僕の体に真一文字の灼熱が走ったのだっ!
「『なんと!?無音拳』虎の咬ッ!!」
「うわぁぁぁぁっ!!」
「こっ…小春ぅーーっ!?」
*******************
『さぁっ!熾烈を極めるバトルロイヤルもいよいよ佳境に入って参りましたっ!!』
『うわぁぁぁーーっ!!』
我が弟子、雨宮小春が『なんと!?無音拳』に切り刻まれる中、師である私、彼岸神楽はその実況と歓声に盛り上がる闘技場内である人物を視界に捉えた…
その人物は真っ黒なコートのフードを目深に被った、一見浮浪者にも見えるような怪しげな風貌の武術家……
しかし、その立ち姿--滲み出るオーラは只者ではない。弟子の危機も忘れて私は固唾を呑んでいた…
実況も小春ばかりを見てはいない。そのダークホースに実況の焦点が当たる。
なぜならその武術家を2人の猛者が取り囲んだからだ…
『今大会初出場の謎の格闘家、ノア・アヴリーヌを優勝候補真茶平とムチャ・ツエーヨォが囲んだぞぉっ!!』
全大会優勝者、大大林寺、真茶平。
そしてボクシングヘヴィー級王者、ムチャ・ツエーヨォ。
この2人、強い。間違いなく。
そしてそんな猛者2名が直感している…このノア・アヴリーヌ、2人かがり出なければ勝てない。
八極拳、ノア・アヴリーヌ…一体何者…
「ムチャ、一時共闘アルヨ。このモンスター倒したら決着着けてやるヨ」
「フハハハハッ!!アイアムストロングッ!!」
『あぁーーっとっ!?なんとこの2人、2対1でノア選手を潰しにかかっているぞぉっ!?』
「ずるいぞーっ!!」「ぶーぶーっ!」「正々堂々やれぇっ!!」
飛んでくる野次など意にも介さず2人の強者が拳を握った。
そしてそんな2人もまた、意に介されていない。ノア・アヴリーヌは彼らではなくただ一点、別の戦場をフードの下から見つめていたから……
「…舐めてるネッ!」「ファッキューッ!」
プライドを抉られた獣が2頭、牙を剥く。
挟むように距離を詰めた2人は流石に速い。
全く同時に仕掛けた両名の攻撃は2人で上下に迫り、避けるのは非常に困難。
そんな状況でも、八極拳の使い手はコートのポケットから手を抜こうとしなかった。
「三味線を引いたまま死ぬアルヨ!!」「サノバビッチッ!!」
「--スゥ」
その時2人は気づかなかった。
しかし私は確かに見た。
至近距離でも気付かぬほど微かに、ほんの数ミリ、ノア・アヴリーヌが地面から片足を離したんだ…
地面から数ミリ浮かび上がる足の裏。接地していると言ってもいいくらいの、蟻が通れる程度の隙間。
2人の拳が届くより速く、ノア・アヴリーヌはその足裏を再び地面に降ろした--
そう、1回「トンッ」と地面を踏んだのだ。
瞬間襲い来る空気が破裂する衝撃派と轟音。
闘技場も観客席も巻き込む突然のソニックムーブは人すら吹き飛ばし…
八極拳の猛者はただの一踏みで闘技場を殲滅した。
文字通り、踏み潰したのだ--
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『なんと!?無音拳』の奇襲を受けながら僕は立っていた。
胸には深々と傷が刻まれ、血が滴る…
傷口を胸筋で無理矢理塞ぎながら僕は立っていた。
「…ほぅ、今の一撃でも倒れないとは…」
「…はぁ…僕は……負ける訳にはいかないんだ」
なんせ605万円払えないと殺されるんだから……
しかし目の前のヤ・ンデレは僕の覚悟を嘲笑うように勝利を確信した笑みを浮かべる。
…奴の目潰しを何とかしないと……
極限までの集中状態の中、僕の視界で奴がスローモーに動き始めた!
出鼻で潰すっ!
奴の頭が太陽光で輝くより速く僕は剣を振っていた--
直後襲いかかってくるのは衝撃派。
「あらぁぁぁぁっ!?」
「うんぁぁぁぁっ!?」
僕もヤ・ンデレも、他の闘技者も尽く謎の衝撃波によって吹き飛ばされていく……
『おほっ!?おほーーーっ!?』
城ヶ崎麗子の生霊もビビる程の大破壊は闘技場そのものを激しく揺らし体感震度7。
そして粉塵と振動が収まった時…
僕は煙の中で立ち上がりその人を見た。
『なっ…何が起きたんだぁーーっ!?突然の振動と衝撃!立っているのはたったの2人だぁーーっ!?』
『ざわざわ』
実況も観客もざわめく中師範が切迫した声をあげる。
「小春!その武術家は只者ではありませんっ!爆心活経を解いてはいけませんよ!!」
……危ない。
今の衝撃波も彼岸神楽流奥義『爆心活経』で身体強化してなかった他の連中同様終わってた…
乱立する武術家がなぎ倒された格闘の森が更地になり、吹き抜ける風が去り際に謎の武術家のフードをさらっていく。
顕になるのは太陽の光を浴びたひまわりのような輝く金髪と、光を宿したように鮮やかに輝く紺碧の瞳……
その美しい女性は油断ない立ち姿で僕を見つめていた。
--立っているのは2人。
「…何者ですか?」
『爆心活経・昂』--極限までブーストをかけられた心臓の鼓動が周囲の空気を叩いて震わせる。
トップギアを入れる僕の前で彼女は名乗る。
「八極拳、ノア・アヴリーヌ、デス…『国際殺シ屋連合』ノメンバーデモアリマス」
ヤバい奴だった……
「あ、初めまして雨宮小春です。KKプロで子役やってます。今度僕の出るドラマがあるので観てください」
「分カリマシタ」
いいの?
「…雨宮小春……『彼岸神楽流』デスカ…私ハ彼岸神楽流…イエ、『彼岸流』ヲ知ッテイマス」
「え?」
「アナタノ紹介ヲ耳ニシタ時、鳥肌ガ立チマシタ。アノ…『彼岸三途』ノ強サヲ知ッテイルカラ……」
「なっ…なに!?」
何やら奥の方で師範がびっくりしてる。空手の人も言ってたけど彼岸三途って誰?
「私、以前『関西煉獄会』ニ殺シ屋トシテ在籍シテイマシタ」
「なんだとぉぉっ!?」
驚愕する師範。困惑する僕。
『関西煉獄会』とは一時期日本の裏社会、そして世界を戦慄させた暴力団。僕の地元、北桜路市にも大規模に進出してきて、当時の街では異様な厳戒態勢が敷かれてたのを覚えてる。
しかし関西煉獄会は警察の尽力で壊滅したはず……
「私ハ彼岸三途ニ殺シ屋トシテノ立場ヲ奪ワレ、日本ヲ去ッタ」
「でも懲りずに殺し屋やってるんですね」
「今ハ派遣社員デスガ……」
派遣の殺し屋って何?
「……雨宮小春クン」
瞬間、周囲の空気が凍結する。
凍てつく吹雪のような威圧感が呼吸の度に肺を凍らせるようだ。息が苦しい……
そして肌を焼かれるような緊張感。
目の前の氷のような瞳から、マグマのような闘志をぶつけられた。氷塊に包まれた煮えたぎる敵意は、寒気を覚える程の危機感の中でも届いてきた。
「屈辱ヲ味ワッタ…『彼岸』ノ名ヲ継グアナタニ、アノ時ノ屈辱ヲブツケテモイイデスカ?」
「やめてください」
僕、関係ないんで。
…と言ってもこれは試合。闘技場に立っているのはもう2人。そしてどちらかが倒れなければ決着は着かない……
2人の剣と拳は自然と動き出していた。
「--彼岸神楽流…」
僕がゆるりと刀を振り上げた直後、ノア・アヴリーヌは既に僕の懐に滑り込んでいた。
直前に聞こえた猛烈な踏み込みからくる音。力強い踏み込みは超加速を生み至近距離まで僕に接近した。
「小春っ!!」
師範が叫んだ。
ノア・アヴリーヌの超高速の拳が至近距離から放たれる。
しかし彼岸神楽流の死に際の集中力をモノにし、かつ爆心活経・昂を発動した僕はその拳を完璧に捉えていた。
--先に届く!
僕は構わず刀を振り下ろす。
しかし、僕は焦っていた。
ノア・アヴリーヌの圧倒的戦力を感じ取り、焦っていた。
振り下ろした刀はノア・アヴリーヌの頭頂部に正確に落ちた。
…が、ノア・アヴリーヌは僕の懐の中。触れたのは刀身の根本。
刀は刃先で切るもの。根本では切れない--
強化された腕力により振られた刀から衝撃波が飛び散る中、殺し屋の拳が僕の腹部で爆発していた--




