第35話 あの街の狂人達
雨宮小春、剣術師範と共に東京へ--
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どうも、彼岸神楽流五段、最強の小学生雨宮小春です。
芸能界の一番星、日比谷真紀奈に再会する為、「ヤッテ・ランネー・プロダクション」に500万の慰謝料を払う為、幽霊を退治しに東京へ……
「逃がさないと言ったはずです、小春」
「……」
今年の終わりも後数日というこの日、僕は師範におんぶされながら音速を超えていた。
なんとこの師範高校生なのに700円しか無かったので、東京までダッシュで向かう。
東京まで新幹線でも4、5時間かかるというのにダッシュだと30分で着いた。ちゃんと信号は守った。
--こうして音を超え海を超え、僕は彼女の元へやって来たんだ。
芝原ききの病室へ……
『お助けくださいましーーっ!?』
城ヶ崎麗子の幻聴は未だに呪いのように僕に張り付いて取れない。音速でも振り切れなかった。
「--ききさんっ!」
「うわぁっ!?」「なんだ?君は…」
芝原ききの病室に師範と共に飛び込んだらそこにはドラマ『虚空』の監督の処さんと知らないおっさんが居た。
驚いた顔をして僕と師範を見る処さん。
それもそうだろう…師範は腰に物騒な光り物をぶら下げてるんだから…
「雨宮君!?早いな!?さっき電話してからまだ40分くらいしか経ってなくない!?」
違った。速すぎた。
「僕も師範の脚力に恐れおののいてます」
「小春、彼らは?」
「えっと…今撮ってるドラマの監督さんと…知らないおじさん」
「劇団「ゴクドウ」の林と申します」
知らないおじさんは芝原ききの関係者だったみたい。
2人の視線が師範に向いてる。その目には「おめぇは誰だ?」と書いている。
「初めまして。雨宮の保護者で彼岸神楽流総師範の彼岸神楽です」
「ひっ…彼岸!?」「彼岸ってあの伝説の彼岸一族…っ!?」
「…………その家の名は捨てたのです。私は何物でもない、ただの彼岸神楽です」
何やら芸能界で長く生きる2人がビクビクし始めた。師範は芸能界でも顔が広いんだろうか…?
なんか急に腰が低くなったおふたりさんの頭の向こうでベッドに寝かされた1人の女性--自殺未遂を起こしたという芝原ききの姿が目に入った。
「…ききさん」
「ききは今鎮静剤で眠ってるよ。それにしても君はあの彼岸一族と繋がりがあるのか…彼岸といえば世界最強の武術流派、彼岸流の--」
「初めまして林さん。KKプロダクションの雨宮小春です」
「おっ!?おぅ…読めないタイミングからの自己紹介…」
何故か向こうで師範と処監督が名刺交換してた。
「監督…ききさんはどうして自殺未遂なんか…」
「それについては私が……」
師範の影響だろうか?やたら丁寧な態度にシフトチェンジした林さんとやらが事情を話し始めた。
「詳しくは目が覚めてみないと分からないんだ…ただ、突然声が聞こえると言い出して錯乱してね…『虚空』の撮影での事故からなにか様子がおかしかったんだが……」
「声?」
『おーっほっほっ!!マジで助けてくださいましーーっ!?』
声なら僕にも聞こえますが?
「あぁ……「お母さん許さない」とずっと聞こえてたんだって…訳が分からないよ」
……お母さん?
「どういうことなんだい?雨宮君、君は撮影で一緒だったよね?霊障騒ぎはジョナサン・小西先生が解決したと聞いたよ?」
当たり前に出てくるジョナサン・小西とは世界屈指の霊媒師らしいです。
「…………まだ終わってません」
僕のそんな呟きに処監督が食いついた。
「電話でも話してたね……詳しく聞かせてくれ」
「小春、まだ幽霊と他流試合など許しませんよ?」
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神宮寺天連原作『虚空』--
『虚空』ドラマ化にあたって行われた撮影で次々に起こる怪奇現象、そして被害に遭う出演者達……
双子探偵によりこの『虚空』が作者の過去を元にしたノンフィクションだと判明し、SM嬢の幽霊など可愛く思える悪霊の正体が見えてきた。
日比谷真紀奈の居るところまで一気に駆け上がる為にも僕はこの撮影の呪いを解き、『虚空』を完成させる。
……の前にやる事がある。
僕はやたら面倒見がいい監督の運転でもうひとつの病院を訪れていた。
「小春は私の弟子です。芸能も結構ですが彼岸神楽流の次の担い手である事もお忘れなく」
「いやぁ……それは事務所の方にご相談ください…ところで神楽先生…先生に折り入ってご相談したい事が……」
「小春の秘奥義伝承が先です」
どうやら理由は師範らしい。
『おーーーーっほっほっほっ!?おほっ!?おほーーっ!?助けてくださいましーーっ!?おっほーーーっ!?』
さて、霊障もとい高笑いがどんどんボルテージをあげていく中やって来たのは……
「城ヶ崎さん、雨宮です…」
「おーーっほっほっほっ!?おほーっ!!」
『おーーっほっほっほっ!?』
……なんてこった、幻聴とリアルがリンクしてる。
まぁ、そうです…城ヶ崎麗子の病室です。
城ヶ崎麗子は「ヤッテ・ランネー・プロダクション」所属のトップアイドル。かつ、ドラマ『虚空』での共演者だ。
怪奇現象の原因と思われてたSM嬢の幽霊サッちゃんVS僕の戦いに巻き込まれて毛根を死滅させられ今入院中。入院した事で頭がどうにかなるのかは謎である。
何故か僕には今、『虚空』の呪いの他に城ヶ崎麗子の高笑い?が聞こえる霊障が発生してる。生霊かなんかですか?
その幻聴がしきりに助けを求めてくるのでこうして訪れてみました。
城ヶ崎麗子もまたドラマ『虚空』の関係者…何かあったら大変だ。
この人には日比谷真紀奈との交流があると見てる。つまり、僕の憧れの人に近づくキーパーソンの1人なんだから……
「おーーっほっほっ!!」
「入りますよ?」
「おほーーっ!!」
おっほっほっ!しか返ってこないので勝手に失礼つかまつる。
僕ら3人が失礼極まりない入室を果たした先で、僕らは信じられない光景を目の当たりにする。
「おーーっほっほっほっ!!」
「あ!?今取り込み中だっ!!」
病室のベッドがスティル・D.R.E.のPVのアメ車みたいにボインボイン跳ねてる。
跳ねらせてるのはその上に転がる落ち武者--本気坂48の城ヶ崎麗子だった。
まるで陸上に打ち上げられたカジキマグロみたいにビチビチ全身を痙攣させ高笑いを浮かべているてっぺんハゲは見る者を戦慄させるには充分な破壊力を有してた。
ついでにベッドに対しても充分な破壊力だ。
そしてそんな落ち武者ザビエルを必死に押さえつける女が1人……
その三つ編みの女--宇佐川結愛の姿に全身総毛立つ。植え付けられたトラウマは簡単には消えない。
そして500万を思い出してしまった。
「おーーっほっほっ!!おほっ!?おほーーっ!!私はあなたの事など存じませんことよーーっ!?おーっほっほっ!?」
「じょ…城ヶ崎さん…………」
「お前はうちのアイドルハゲにしたガキ……あ!?」
「え?」
何やら狂気に目を剥きながら跳ね回る城ヶ崎麗子にビクビクしてる僕を放ったらかしに、魔人と僕の師範が視線を交差させた。
「神楽か!?」
「あなたは…佐伯達也の師匠……宇佐川結愛!?」
なんだ?知り合いなのか?
「おーーっほっほっ!!おほっ!?おほーーっほっほっ!!だから!!私はあなたの面倒を見た覚えはありませんことよーーっ!?おーーっほっほっほっ!!やめてくださいましーーっ!?」
「宇佐川結愛…こんな所で一体なにを?」
「いや見て分かれ。「子供の声が聞こえる」ってコイツが発狂してるから今から縛るんだよ…てか、彼岸神楽、お前こそ何してる?その坊主はお前の知り合いなのか?」
「……小春は私の弟子ですが」
そういえばこの魔人、北桜路市が出身だって言ってた…
「あなたこそ、小春と知り合いですか?」
「コイツ、うちのアイドルの髪の毛毛根ごと消滅させたから500万の慰謝料払わせるんだよ」
その瞬間、目の前で子供の声に発狂するハゲより怖い師範の殺気がぶつかってきた。
「小春……使いましたね?彼岸神楽流奥義77、毛根死滅剣を……」
「いや、これは事故で……」
「おーっほっほっ!!やめてくださいましーーっ!?声が……声がっ!!苦しいですことよーーっ!?」
「事故で済むか。おい、今日はなんだ?500万用意したのか?」
「それよりこれは何が起きてるんだ!?まさか城ヶ崎麗子にまで……!?ああっ!この撮影はおしまいだっ!!」
「監督少し黙ってください…」
「黙るのはあなたです小春。あなたは彼岸神楽流をなんと心得ますか?私は弱者を斬る為にあなたに剣を教えたわけではありません」
「……てか、師匠ならお前が責任持てや、神楽」
「おーーっほっほっほっほっほっ!!おほっ!?おーーーーっほっほっほっ!!」
「「「ちょっと静かにしてくれる?」」」
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--剣の師として弟子のやらかした事には責任を持たなければならない。
小春と処氏を一旦帰し私、彼岸神楽はかつて共に死線を超えた戦友と向き合う。
「おーーっほっほっ!!首が…首が締まりますわーーっ!!」
うるさい。
「うるせぇ、締まってねーよ…おい、こいつはどうしたんだ一体」
「私に訊かれても知りません。霊障らしいです」
「んな事よりだ。おい神楽、コイツの毛根代500万、お前が立て替えろよ。あいつまだ小学生だろ?」
「……小学生だろうとオタマジャクシだろうと小春は男…そして剣士。自らの不細工の始末は自分でつけさせます」
「調子いいこと言って責任逃れしてんじゃねー」
「私は小春の保護者ではありません。師匠です」
「保護者だろ。あいつの師匠なら責任取れ」
話が平行線だ…まさかこんな形で佐伯達也の師匠と邂逅するとは…
--関西煉獄会との戦い。九尾の狐戦。
懐かしい戦いの日々が昨日のように蘇る…
佐伯達也は元気にしてるだろうか?本田千夜とは上手くいってるだろうか?
あの日…九尾の狐と一緒に戦った皆は……
我が兄彼岸三途、剛田剛、莉子せんせー、橋本圭介、妻百合花蓮……我が校の強者達だ。
あとそれと……
「おい何勝手に過去回想始めようとしてんだ?」
あの日に思いを馳せてついでにどさくさで逃げようとしてたその時--
何者かが不躾に、ノックも無しに病室の中へ侵入してきた気配。
「何奴!?」
私は刀に手をかけてた。
「……おいおい待て」
抜きかけた刀を相変わらず強力な神通力で触れもせずに止めたのは宇佐川結愛。
背後を取られたら反射的に斬り捨てにかかる「ゴルゴ症候群」の治療の成果は芳しくないが、そんな事に嘆くのも瞬きの間だ。
なぜなら懐かしい先輩の顔がそこにはあったんだから……
その人は刀を手にした私を見て我が同好会の名前を大層驚きながら呟いてた。
その驚きようったら、もう卒業したというのに我が校の『校内保守警備同好会』の名を咄嗟に口にする程だ。我が同好会の恐ろしさが骨身に染みてるあたり生粋の我が高校の卒業生…
彼女はその美貌を驚きの形に変形させながら部屋の中の3人を満遍なく見つめていた。
「……『ハニープロダクション』の…日比谷真紀奈か」
宇佐川結愛がちょっと嫌そうな顔で、その先輩の名前を口にした。
「おほっ!?おーーっほっほっほっ!!」




