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第251話 9回目に転んだだるまって起き上がれるんですか?

 悪魔の子、小鳥遊らいむは実に恐ろしい計画を立てた。

 それは門前仲氏のスキャンダル暴露に消極的な僕にとって、誰も傷付けずにそして、日比谷神のスキャンダルを無かった事に(端からそんな事実は無かった。失礼な!)する為の名案だった。


 ……が、それは同時に我が身を犠牲にする諸刃の剣でもあったのだ。



「身を呈して愛する女を護る…究極にカッコイイじゃないか。良かったな」


 悪魔の女小鳥遊らいむはそう言った。

 彼女との会話の席に座った時点で既に僕は彼女の掌の上だったという事か……


「……らいむ」

「てか、そんなに嫌がる事ないだろ失礼な。お前は私にどれだけ酷いことを言ったのか理解してるのか?」

「それとこれとは話が違う。これは君にもダメージが行く計画なんだよ」

「考えてみろよ小春……」


 らいむはねっとりと切り取ったバターの欠片を何故か僕に見せつけながらねっとりと僕を見つめる。バターナイフにバターをこびり付かせるのがカッコイイと思っているお年頃らしい。



「--別に私とお前が熱愛報道されたって、ダメージなんてないだろ?お互い綺麗な身だ」



 都内某喫茶店--

 僕と日比谷神の未来を破壊するついでに既成事実を構築しようとする魔性の女がそこに居た--





 日比谷教教祖、雨宮小春。

 超高校生級俳優にして芸能界の便利屋。そんな僕が今立っていたのはいつぞや訪れたY〇uTube界のクソッタレ、地雷亜氏の事務所だ。

 アポは取ってある--




「随分早かったですね、雨宮さん」

「貴様……」


 メラメラと込み上げる怒りを腹の底に沈めながらなんとか平静を保つ僕は気取ったアラサーY〇uTuberを睨みつけながらとりあえず座る。


「お茶を貰いましょう」

「その前に、聞かせて頂きましょうか…雨宮さん、あなたの持ってきた日比谷真紀奈不倫騒動に匹敵するスキャンダルというやつを…」

「お茶が先です……」

「いやだから、まず--」

「お茶を出さんかァッッ!!!!」


 雨宮小春の究極の覇気に地雷亜氏びっくり。流石に修羅場を潜ってきたハイエナ野郎もお茶を出さざるを得なかった……


「粗茶ですが……」

「ふん」


 ズズズッ


 うっ……美味いっ!?

 この緑茶、芳醇な茶葉の香りの中に舌をほろ苦く包む風味……温度管理も完璧だっ!この茶葉のポテンシャルを120%引き出しているっ!!


「…………こ、この茶を淹れたバリスタはどなたか?」

「そろそろいいですかね?」


 くっ…美味い茶を出した程度で勢いを取り戻しおって…地雷亜ァ!!


「こっちは動画の編集を待ってるんですよ。これでつまらないネタだったらあなた、日比谷さんがどうなっても知りませんからね?清純なイメージのある女性程、この手のダメージはデカイですからね……」

「……あなたが大好きそうなとっておきのネタを仕入れてきた」

「ほう……」


 芸能界の便利屋、雨宮小春の言葉だ。地雷亜氏身を乗り出して目を見開く。



 …………本当にいいのか?


 これは我が身を滅ぼす諸刃の剣。しかも、結局第三者を巻き込む事になる……

 それでも、このネタが爆発しても被爆するのは恐らく僕だけだろう……


 日比谷真紀奈の為に……


「……その前に地雷亜氏、日比谷真紀奈のネタは勘違いの可能性大です。それでもあなたは強行すると言うのですね…?」

「真実かどうかは問題ではない」


 地雷亜氏はここで偽りの皮を破り捨て本性を曝け出す。

 ならば……


「明日、ある俳優が女性と密会する」

「……はぁ」

「あなたはその場に張り込んで現場を抑えてくれればいい……」

「詳細は?」

「行けば分かる……きっと特大の爆弾になるはずです」


 タダでは死なんぞ、らいむ--


 ********************


「本気なのかい?」


 香坂社長の声響くハニープロダクション本社、社長執務室にて。


 ガタガタ震えるのは岡地真澄。化粧ノリが悪い45歳。この間のドラマで初共演した。

 そして対面に座るのは最早化粧が必要ない女、いや女神--日比谷真紀奈。


 私は可愛い。

 マキナックスという単位がある。言うまでもないけど、女性の美しさ、可愛さを示す単位。

 一般的なマキナックスが15と言われてる。そんな中、究極の美的生命体、日比谷真紀奈のマキナックスはと言うと……

 なんと10京である。もはや天文学的な数字だ。

 ちなみにこの日比谷の美しさを糖度、すなわちブリックスに換算すると実に208億兆になる。つまり、このハニープロダクション、いや世界で一番甘くて美しいのはこの日比谷真紀奈に間違いない。粉バナナである。は?


 そんな私に睨まれてるんだから、岡地もカチカチなのである。

 しかし私は私の敵に容赦しない。これもこの世界で長く辛辣を舐めた結果身につけた私なりの覚悟である。


「エックスで私の悪口書いたでしょ?」

「ガタガタガタガタ……」

「私の不倫疑惑の出元はあなたでしょ?」

「ガタガタガタガタ……」

「…答えなさい」

「(ビクッ)」


 社長の声にビクッとした岡地。いい歳した岡地は私より社長が怖いらしい。流石に芸能界の妖怪である。


「……ハイィ」

「認めたね。訴えるんだからこの日比谷」

「いや!私は事実を答えたまでよ!?そもそも訊いてきたのはあのY〇uTuberだし…」

「私は栗亜さんの家で稽古つけて貰ってただけ。あれは不倫してますよとかどーせ言ったんでしょ?訴えてやる。この日比谷の知名度をフル活用して大騒ぎにしてやる!月9降ろしてやる!!」

「お願い許して…………」


 後がない中年女優懇親の懇願。しかし神とは実に無慈悲でかつ、人心では測れない存在なのである。

 つまり美の女神、日比谷真紀奈の事である。


「本気なのかい?」


 香坂社長が再び私に問いかける。社長は本気なのかい?botになっちゃった。


「その件なら雨宮に頼んである。真紀奈、お前が動かなくてもリスクなく--」

「雨宮君のリスクはどうなるのさ、社長」

「……お黙り、あの子はお前よりよっぽど芸能人だよ」


 だからなんだってんだい。


「私は至高の美の女神、日比谷真紀奈……」

「何を言ってるんだい」

「この日比谷にとってスキャンダルの一つや二つ、なんのダメージにもならない。いやむしろ、禁断の罪を背負いし女神だなんて私の魅力をより引き立てるスパイス……」

「バカ言ってんじゃないよ」

「そこから不死鳥の如く清廉潔白を証明してこそ、この日比谷真紀奈のより一層の神格化が加速して、人類はより正しく私を理解する。違う?」

「日本語で喋りな」

「社長……雨宮君は私の後輩よ。このハニープロダクションに入ったからには……」


 雨宮小春の新作を楽しみに待ってるんだから……

 私の為に人生を燃やす彼の輝きを、私は待ってるんだから……


「私のケツは私で拭く」

「真紀奈」

「私のケツを拭くなんてご褒美、人類にはまだ早いもの」

「…………」


 もう社長は何も言わなかった。


「協力……いや、償いはしてもらうからね?岡地さん」

「…………ヒィッ」

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