第193話 このスケコマシ野郎
「そ、そうだったのか…!『“黒”鉄荘』じゃなくて『“国”鉄荘』だったんだ…っ!!」
「きゃああっ!!!!」
……皆さんお分かり頂けただろうか?
宇宙きらり編から続くドラマ『黒鉄荘』--しかしその『黒鉄荘』、ちょくちょく『国鉄荘』と誤植してあった事に…
これは伏線。『黒鉄荘』の真の名前は『国鉄荘』だったのだ。そういう事にしておこう。
その事実にとうとうたどり着いた主人公達の間に悲鳴が広がる……
まだまだ蒸す10月。
あれから月日は流れ雨宮小春はフリーになった。なってしまった。
予定より早く退院した雨宮小春は中断されていた『黒鉄荘』撮影に復帰し、再び表舞台に姿を現す。そして既にフェードアウト目前だ。
正式にKKプロダクションから契約解消された。『黒鉄荘』に関しては業務委託という形になり、これが終わればKKプロは他人のばあちゃんになる。
そして大手の看板に胡座をかいていた雨宮小春はフリーになり、これからは自分で営業をかけて自分で仕事を取ってこないといけなくなった。
母にマネジメントを依頼したら「一昨日来やがれ。ところであなたどなたですか?」と一蹴。
悲嘆に昏れる中自称天才役者、雨宮小春のセカンドラウンドが始まる。
「まさか『黒鉄荘』が『国鉄荘』だったなんて…」「うん…私らもびっくりよね…」「中断してる間に大幅に脚本を変えたって話しよ」
今ではすっかりマブダチな『黒鉄荘』メンバー、朝日奈ゆう、三嶋舞奈、高坂佳苗、目黒イチヤがワイワイ話している。
その少し外れた所で仲間になりたそうなスライムのモノマネをしている僕にぬっ!と近づく影が現れた。
「俺のせいだな……」
ヤッテ・ランネー・プロダクション所属兼彼岸神楽流初段、自己破産系俳優新郷レオパルドだ。
突然現れた彼はぬるっ!と僕の隣に座り差し入れの幕の内弁当をむしゃむしゃしている。
「驚いた、まさかお前がKKプロをクビになるなんて……」
「君のせいじゃないさ…」
「そうなのか?なら良かった…」
違うだろ。そこは「でも……」って罪悪感拭えぬ言い方しろや。
「雨宮」
いや、この男には確かに罪悪感がある。宇宙きらりの件は元々彼が発端。彼の深い瞳の色が僕を見つめた。
「ヤッテ・ランネーに来ないか?お前を受け入れる準備がある」
「嘘だね。そんな準備はない」
「…………」
嘘なんかい。
僕は芸能界の便利屋--業界のお偉いさんにとってはありがたい存在かもしれないけど自分の事務所に抱え込むのはリスキー。そう考えてる事務所は多いだろう。特にヤッテ・ランネーなんて僕とはずっぽりだったんだ。
その上大手KKプロを追い出されている男だ。僕の名前にはべっしょり泥が塗りたくられている。
「俺が交渉する」
「いいよレオパルド君…君はそれより彼岸神楽流の稽古に邁進しなさい」
「自分の仕事を頑張れとかじゃないんだな…」
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いい人と他人に評される人というのはあてにならない。
真に付き合うべき人間とは「いい人」ではなく自分にとって「都合のいい人」だ。
進撃〇巨人で学んだ。
というわけで雨宮小春のいい人探しの旅。
本日やって来たのはこちら……
「初めまして。プロデューサーの門前仲です」
「フリー俳優のマーマミヤ・ハーコルです」
「不倫廃油?」
「違います」
ついでに名前も違った。ついいつもの癖で偽名を使ってしまったけど今回ばかりは本名で売り込まないと仕事にならない。
プリンHeyYouになってしまった僕はこれから自分の力のみで仕事を取らなければならない。
今は『黒鉄荘』があるが…KKプロから斡旋された他の仕事は軒並み消えてしまった。
そこで今回目を付けたのがこの男……日の丸テレビプロデューサー、門前仲であった。
なぜこの男が僕にとってのアニ・レ〇ンハートなのかと言うとそれは彼の地位と素行にある。
この男は日曜6時の看板番組『ブロッコリー散歩』や『恋のドキドキ!』を手がける敏腕プロデューサーなのである。
彼とのコネクションを築いておけば今後僕は沢山美味しいお仕事を貰えるはずなのだ。
そしてフリーハイソンである僕がこんな彼とお近付きになる方法……
それは必殺、双子探偵に調べてもらった(119,800円)彼の汚い部分にある。
この男めちゃくちゃ手癖が悪いんだ。
妻子持ちでありながらしょっちゅう仕事で知り合った女性とイチャコライチャコラ……
この男、こんなスカした顔をしてはいるが現在愛する妻と離婚を巡って戦闘中なのだ。
……雨宮小春、こういうのは得意です。
この男の懐に上手いこと入り込めばこの男の弱み、ついでにこの男と関係を持った大物女性タレント達のスキャンダルを握る事が出来るのだ。
フリーになり今後厳しくなる僕の芸能活動の後ろ盾になってもらうべく僕は今回このスケコマシ野郎とコンタクトを取ったのだ。
「マーマミヤ・ハーコルさん…お噂はかねがね…芸能界の便利屋、その評判は聞いていますよ。みの虫もん吉郎のもみあげむしゃむしゃ事件を解決したとか…」
「それ、僕じゃないですね」
どうやら僕の名前は噂が一人歩きして悪い意味で有名になってるようだ…
「KKプロと契約を解除したとお聞きしました。それで今回、うちの番組に是非出演したいとお伺いしてます」
「いかにもたこにも」
「まさか…酢だこにも…?」
「門前仲さんの手がける看板番組『ブロッコリー散歩』に是非出演者させて頂きたいのです。しかも、レギュラーで」
「レギュラーで……あの番組はほのぼのバラエティ番組ですよ?俳優であるあなたが毎週収録の『ブロッコリー散歩』にレギュラー出演となるとハードなスケジュールになるのでは?」
「どうせ暇なので…それに今後はより多くの仕事に手を広げていこうかと…」
「なるほど……」
門前仲氏の目の奥に鈍い輝きが光る。
初っ端から便利屋としての評価を出てきたこの男、間違いなく僕の力を欲している。
ケツに火がついたこの男との交渉を上手いこと進める為に僕はあえて自分から切ってでる。
望んで手に入れた訳ではない称号を最大限活用する崖っぷち高校生がここに居た。
「……もちろん、突然こんな無理難題をお願いするにあたってこちらも手土産を用意するつもりです」
「通り〇んですか?」
「僕は福岡出身ですが違います…分かるはずです。この業界も長い門前仲さんです」
「ふふ……」と渋谷あたりをフラフラしてそうな爽やかおじさんは笑った。
「……奥さんとの離婚話、拗れているんですって?噂じゃ相当な慰謝料を請求されてるとか」
「……僕はノースカロライナに家など持ってないというのに……」
「今回の離婚の原因はそちらの不倫…慰謝料はごっそり絞り取られるでしょうね。それこそ、果汁100パーセントのみかんジュースのようにね……」
「例えがよく分からないが、誤解ないように言っておくけど、僕は不倫などしていないですよ?その上、私に無理矢理関係を迫られたと訴えると言い出す娘まで出てくる始末…」
「分かってますよ?不倫と男女の交友関係は=ではありません」
「困ってるんですよ。マーマミヤさん」
……やはりこの男も業界人。
「…ちょうど僕の知り合いにその手の話に強い人が居るんですが……」
「……ふふ、マーマミヤ・ハーコルさん」
「すみませんボク雨み「話の分かる人は嫌いじゃない……」
悪い顔をした男が二人……ガラステーブルの上に書類が滑る。
『ブロッコリー散歩』の出演契約書……
こんなに簡単に出てくるなんて……
「お互い持ちつ持たれずで……」
「これからもよしなに……」




