第16話 ゲロも吐けますが?
噴き出す髪の毛(ハゲの怨念)は『頼ろう会』本部をも吹き飛ばし市井に流れ出した。
危うくハゲの濁流に呑み込まれかけた僕は彼岸神楽師範により九死に一生を得、天高く跳び上がった師範の腕の中で街中まで流れ出す黒髪のような怨念の塊に固唾を呑む……
全てを呑み込む人の手を離れた災害--
もう何が起きてるのか脳の処理が追いつかない怒涛のスピード感で進むカルト宗教『頼ろう会』との対決。
小鳥遊夢を呑み込んだその怨念は全てを怨嗟で塗り潰し世界に災厄をもたらす…
今、雨宮小春と『頼ろう会』との最終決戦が始まった。
…………始まってしまった。
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夏休みを謳歌する世間に平穏とはいかに脆いものかを思い知らせる怨念と対峙するのは僕、雨宮小春。役者志望小学3年生。
我が芸能養成所の同期小鳥遊夢を行方不明にしていた『頼ろう会』の正体は教祖骨原の虐げられた頭の怨念の具現だった。
そしてその骨原を下したかと思えば……
「何事!?これは!!」
「姉さん帰ろう。絶対ろくな事じゃねー」
街中に溢れ出す地獄から連れてきたハゲ達の怨念の塊を前に何もしてないと評判の双子探偵、浅野詩音さんと美夜さんが現れた。
僕と神楽師範は安全圏で地面に着地。
世界の終わりみたいな光景を前に僕らはどうしたらいいのか分からなくて呆然とするしか無かった。
一応断っておくけれど、この物語は僕が芸能界を目指して日比谷真紀奈への初恋を叶える物語である。
「おい神楽説明しろ。あれなんだ?」
「美夜先輩……申し訳ありません。この私が着いていながら……こんなことに……しかし嘆いている暇はありません。早くあのハゲの塊を止めなければ……」
「「ハゲの塊?」」
「あれは地獄から蘇った亡者達のハゲの怨念なんです。骨原はアレの力を借りて髪の毛を復活させてたんです」
「坊主、日本語喋れ」
「美夜!大変!!街がっ!!」
詩音さんの悲鳴じみた声。弾かれるようにそちらを向けばその先はパニック映画の中の世界だ。
黒い濁流と化した毛髪状の怨念が大洪水のように街を呑み込んでいる。巻き込まれた人達は悲鳴と共に髪の毛に絡め取られ漆黒に沈んでいく。
背景、輝くあなたへ☆はバトルモノになってしまったようだ。
「……おいおい、一体何が起こってんだ…止めるってこれ…」
「美夜……このままじゃ街が……っ!」
「おい神楽。これは全部『頼ろう会』の仕業って事でいいんだな!?」
「はい……彼岸神楽…彼岸神楽流総師範としてこのハゲの塊、斬り捨てさせていただきます…」
「ハゲ?」
「髪の毛に見えるんだけど……神楽さん…」
師範が身構えたその時!
あらかた近くの人々を呑み込んだ毛の塊はその体積を球状にして凝縮。そのまま謎の力で宙に浮き出したではないか!
漆黒の毛ボール……
もじゃもじゃと気味の悪いそれはやがて球状から解け……その醜悪な怨念の本性をさらけ出す。
『ふはははははっ!!ひれ伏せ!!全ての毛根よ!!』
巨大な毛玉が割れて中からぬるっ!と這い出したのは骨原の上半身。
不定形でもじゃもじゃ触手みたいにうねる黒髪の塊が骨原の上半身から生えてるような異様な光景だった。
そしてなぜか毛の合間にたくさんの目玉が付いていた……
「こっ!骨原……っ!!」
「骨原先輩っ!!あなた……なんのつもりですか!?いつの間に人間辞めたんですか!?」
『……これは…憎き浅野姉妹……愚かな…何をしに来たんだ今更……』
本当にそうですよ。
『我々は今至高の領域に達した……これが……ハゲの力っ!!』
骨原の頭が光る!!
それは恐ろしく速いビームのように一直線に地面へ向かい、着弾地点に大爆発を引き起こす。
神楽師範が僕らを突き飛ばさなきゃ死んでた……
あんなにハゲてるのを嫌がってたのに今やハゲの力とか言い出したイカレカリスマがすっかりクリーチャーと化した自らを見て恍惚とした表情を浮かべる。
『我々は許さぬ……我々の受けたこの屈辱…今こそ思い知るがいい……無くして初めて気づく、親と髪の毛の大切さ!今こそ全世界に思い知らせてやる!!』
「--調子に乗るな」
その時、神楽師範の体が燃えた--
死に際の集中力を手に入れた僕の動体視力ですら捉えられない超加速と共に神楽師範の体が発火しながら天高く跳躍する。
骨原がぎょっ!とするその刹那、師範は天空に浮かぶ毛玉に豪火を纏う斬撃を叩き込んでいた。
「--彼岸神楽流奥義!毛根死滅剣、炎!!」
燃える毛玉。
眩しそうに見つめる僕ら……
目の前の光景はもはや現実とは思えませんでした。ええ……
彼岸神楽流の奥義が炸裂。この技を前にあらゆる毛根は生き残れない……が。
『……愚か者めが』
「なにっ!?」
なんだか急に喋り方が仰々しい骨原の体から伸びる黒髪が鞭のようにしなり空中の神楽師範を地面に叩きつけた。
「師範!?」
「なんだと…!?神楽の剣が効かない!?」
「神楽さんっ!!」
『我々はハゲの怒り……毛根などとうに死滅しているわっ!!』
なんとクリーチャー骨原、よく分からない理屈で彼岸神楽流の奥義を破ってみせた!!
「……くっ!なんてことだ……」
ほんとになんてことでしょう……
『知るがいい!!我らハゲの怒り!!』
地上へ向けて一斉射出される髪の毛の束。その一本いっぽんが鋼鉄の如き強度で地面を砕いていく。
はっきり言って滅茶苦茶強い。
「……っ!」
何とか回避が間に合うけど教官とのレッスンと神楽師範との特訓がなければとうに串刺しだった。
「くそぅ……どうしたら倒せるんだ…こんなことなら剛田に頼れば良かった…」
「えいっ!」
双子探偵が消火器をぶん投げるが上空の化け物には届きもしない。
師範の剣すら無力化する怪物……
『ふははははっ!!憎き『校内保守警備同好会』よっ!!貴様らの毛根も呑み込んで我々の糧にしてやる!!その後は世界中の髪の毛をむしり取ってやる!!つんつるてんの世界が今!訪れる!!』
もう何を言ってるのかさっぱりだが、コイツをこのままにはしておけない。
日比谷真紀奈がつんつるてんになってしまったら、僕は何を目指して芸能界へ邁進すればいいんだっ!!
--倒す。この怪物をっ!!
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日比谷教教祖、雨宮!世界の毛根の為、あと小鳥遊夢の為モンスターに挑む!
『目障りな髪の毛達...そして忌々しい『校内保守警備同好会』......消えるがいい!!』
「うるせぇ!!髪の毛の塊みたいな成りの癖に目障りな髪の毛とか言うな!!」
『喰らえッ!!』
美夜さんの悪態に対して骨原の頭が光る。返礼は太陽光をこれでもかと反射するハゲからの光線攻撃!
しかも枝分かれしたビームが回避行動に移る僕らを追尾してくる…っ!
「うわぁっ!!」
被弾。
体の芯を貫く一撃、燃えるような光の凶弾に僕の軽い体が紙切れのように吹き飛ぶ。まるで熱した火箸を体内に直接入れられたみたいだ。
地面を転がる僕を師範が抱き留めてくれる。
「…小春、あなたは避難するのです…」
「神楽師範……」
「私らもいいかな?」「美夜!こんな時に空気読まない発言は辞めて!!」
「でも…師範……小鳥遊さんがまだあの中に…」
「もうアレは骨原でも小鳥遊でもない……地獄から蘇ったハゲの怨念……」
『馬鹿めが……1人も逃がさんっ!!』
「……師範っ!!」
「小春!!聞き分けなさいっ!!我が彼岸神楽流の未来を継ぐ若い命をここで散らせる訳にはいかない!!」
……いや、別に継がないけど……
--確かに目の前で毛玉クリーチャーが暴れて街を呑み込んで……こんな光景を前に「よし!アイツ倒すぞ!!」ってなるのはBSAAの隊員くらいだろうけど……
でも……
--そんな理由の為に別にやりたくない事頑張る必要、ないよ。
あの日小鳥遊さんにかけた言葉と、小鳥遊さんの背中と、ゲロの匂いと…
どうしてか彼女が消える前日のあの日の記憶が僕の体に鎖のように纏わりつくんだ……
『…ふはははは!小僧!!そうか貴様…あの小娘を--』
その時頭上から面倒臭い笑い声が響いたかと思ったら毛玉が骨原の剥き出しの体を呑み込んで球状に変化していく。
同時に毛玉に飲み込まれて瓦礫の荒野と化した現場にパトカーとか装甲車が現れた。
僕には分かる…多分彼らは骨原第二形態の犠牲者……
『ふはははははははっ!!小僧!地獄を見るがいいっ!!』
「なに!?」
「姉さんもういい、帰ろう。私はさっきのビームで焦げた」
「--君達何してる!?避難するんだっ!!」
「ほら、お巡りもああ言ってる…」
再び毛玉から姿を現した時、僕と師範は絶句した。
何故なら再び剥き出しになる骨原の上半身の下から更にもうひとつ、人間的部位が顔を文字通り出てたから…
それは骨原同様に無惨な頭になった小鳥遊さん…の顔。
「なっ…」
「小鳥遊さん……」
ほとんど交流もなかった小鳥遊さんへまるでゼルダ姫を助けに来たリンク並の感情の籠った声を零した時--
『おぇぇぇぇぇっ!!げぽっ!!』
吐いた。
「うわぁぁぁっ!!」「退避っ!!退避ぃぃぃっ!!」
それは容赦なく地上の警官隊へ…しかも……
「ぎゃああああああっ!!」
「美夜!!あのお巡りさん溶けてる!助けなきゃっ!!」
「ヤバいって臭いし絶対触れたら私らも溶ける。やべぇ骨原マジ…デビル大蛇じゃん」
強酸でしょうか…ゲロで人が溶けました…
「なんてこと…ハゲビームと髪の毛攻撃にゲロ…しかも…彼女を使って……」
「骨原…小鳥遊さんのお家芸を…っ!」
『この娘も既に我々の一部よ…取り込んだ全ての者の力を集約し…そして毛根も集約する!地獄の亡者の怨念…その重さを思い知るがいいっ!!』
『げぇぇぇぇぇぇぇっ!!』
危ない…師範が抱えて回避してくれなかった小鳥遊さんのゲロで溶けてた。
「奴の言葉が本当なら奴はまだ強力な攻撃手段を持ってるはず…!小春!!やはり逃げるのです!!」
…が、同時に師範の腕の中で僕はふつふつと怒りにも似た感情を募らせる…
小鳥遊さんをあんなふうに使うなんて……
『どこへ逃げても無駄だっ!!我々に視覚はないっ!!』
「--シッ!!」
ゲロ放射とハゲビームの波状攻撃。完全に足手まといな僕は師範に抱えられたままいいように使われる小鳥遊さんを見上げていた。
攻撃を回避する合間に飛ぶ斬撃(?)的な攻撃を師範が繰り出した。それは超高速でソニックブームを発生させつつ骨原へ……
『あ痛っ!?』
「あっ、ごめん……」
しかしそれは無情にも小鳥遊さんの顔面を捉えてしまった。何してるし師範…
『ふははは…貴様らこの娘を助けに来たのではないのか?非道い奴らめ』
「くそっ!ダメージないのか……!?」
手の届かない場所からの攻撃に師範の剣すら効かない謎耐性……
こんなの……どうしたら…………
彼岸神楽流総師範の力を持ってしても絶望的なこの状況--
その中で轟いた一発の銃声が--
『あぎゃっ!?』
闇を切り裂く光明になる。
雨宮小春、負けないっ!!




