OP
エンジンを組んでいる時の現実逃避で書き上げました。正直に言うとギャランには一切詳しくありません。ずぶの素人です。ですが、カッコいいですね。カッコいいだけで十分ですよね。ね?
OP
つまらない人生だったな。
夕空を見上げて、僕は自嘲した。32歳、独身、酒もタバコもやらず、女遊びもせず、趣味もない人生を送ってきた。朝から晩まで働き、テレビのひとつも見て、寝て、起きて、また仕事。端から見ていて、なんとつまらない人生だろう。安定感と引き換えの日々の退屈というものは、どうしてこうも心をすり減った気にさせるのか。そのすり減った心では変革も望めず、ああ、ぼくの人生はずっとこうなんだな、そう思えば、無性にどうも泣けてきた。目の前を通りすぎるトラックの荷台に、錆びたオンボロの車が載っている。知識のない僕にも、一目で旧いとわかる形状の車体だ。オレンジ色の車体には錆が浮き、塗装が盛り上がって、なんともみすぼらしい。ああ、そうか。安定感ばかり気にして動かないままでいると、錆び付いて何もできなくなるんだな。
そんな当たり前の事を意識すれば、微かにあの車に同情心が芽生えた気がした。
と、不意にそのトラックがガクンと震え、急ブレーキで路肩に停まった。どこかから煙が上がっている。どこか故障したのだろうか。運転手が気だるげに降りて、車体の回りをあちこち覗きながらぐるぐると周り、仕舞いには天を仰ぎながら、携帯電話を取り出した。風に乗り、レッカーの手配を......などと聞こえてくる。
『助けてくれ!!』
不意に、どこからか現れた老人が叫んだ。痩身で小柄で、腰の曲がった枯れ木のような老人だ。ぎょろりと目玉だけがやけに輝き、僕を睨み付けている。もう何本も残っていない歯を見せつけるように叫ぶ。
『助けてくれ!!あの車はまだ走る!!潰さないでくれ!!』
運転手は路上でタバコに火を着け、縁石に座り込んで空を見上げている。レッカー待ちだろう。
『今ならまだ間に合う』
老人が指差す。
不意に、居てもたっても要られなくなる衝動が湧いた。もう何年も味わってなかった、腹の底から熱くなる感覚。
足は勝手に動いていた。最初の一歩を踏み出したら、二歩、三歩。
自分自身がやけにトロくさい気がして、やがて小走りに、全力疾走に。
いきなり走りよってきた中年に怪訝な表情を浮かべる運転手。久方ぶりの全力疾走に息を切らして言葉を紡げない僕。なるほど、心が錆び付くと、どうやら体力も錆び付くらしい。やはり当たり前の事をボンヤリ思って、それから、言葉を......あれ?何て言うんだ?何をする気でいるんだ僕は?
「あの、えっと、車......」
「はい?」
「その、車......車がですね......ええと、」
言葉につまり続ける僕の腕を、老人がキュッと握る。
ああ、そうか。
「その車、売ってくれませんか?」
その言葉は、すんなりと喉から出すことができた。