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仲を深める場所といえば


 婿入りのためバーナード士爵家を訪れて数日が経過した。

 その間に教会で結婚式の段取りを確認したり、衣装の確認をしたり、結婚したら同じ部屋で過ごすことになるセリカと家具の配置を相談して模様替えしたり、村へ出向いて住人達と交流したり、「撹拌」で土をかき混ぜたように調理魔法の新たな使い道を模索したり、セリカと庭園の手入れをしたり、ギルドや組合から式で出す料理の食材を運んだりして過ごした。

 今日は義母上から領内のことを学んでいて、村や集落の位置と住人の種族や人数を教わっている。


「うちの領内に住んでいる住人は、約千二百人よ」


 屋敷があるこの村には人間を中心とした約五百人が住んでいて、別の村二つには鬼族とドワーフを中心とした約三百人と、獣人と魔族を中心とした約二百五十人がそれぞれ暮らしている。

 残る三つの集落にはそれぞれ、様々な種族のエルフを中心とした約五十人、蜥蜴人族を中心とした約七十人、竜人族を中心とした約二十人が暮らす。

 勿論、その村や集落にだけその種族が住んでいるというわけではなく、別の村や集落へ移り住んでいる人もいる。

 この村にも獣人やドワーフ、それに数人ずつだけどエルフと鬼族と竜人族が暮らしているらしい。


「そうやって多種多様な種族が集まると、習慣の違いによる軋轢とか諍いは起きないんですか?」

「昔はよく起きたらしいわ」


 あっ、やっぱり起きてたんだ。


「だからこそ、当時は村や集落の間での交流も少ない状態で暮らしていたらしいけど、一緒に開拓をしている間に互いを理解して友好が生まれて、徐々に村や集落の間での交流が多くなっていったそうよ」


 苦しい時期を一緒に乗り越えたからこその友好か。

 他所の村や集落へ移り住んだ人の中には、他所の生活習慣や文化が気に入った人もいるようで、さらにはそこで相手を見つけて結婚することもあるらしい。


「たまにだけど、そういう噂を聞いた人達が身を寄せに来たこともあるらしいわ」

「行き場を失って、ですか?」

「ええ。故郷を失っただとか、訳有って故郷を追い出されたとかね。勿論、こっちは受け入れたわよ。住人が増えるのは良い事だもの」


 それが人道的な意味なのか、領地運営のためなのか、はたまた別の考えあってなのか。

 どれが理由なのかは分からないけど、悪い意味ではないだろうから気にしないでおこう。


「明日にはそういった方々の代表が、式に参列するんですね」

「そうよ。ああ、いよいよ明日なのね」


 そう、諸々の準備を終えて明日が結婚式当日だ。 

 料理の材料や酒も揃い、厨房ではトルシェさんとサラさんに加え、手伝いに来た村の女性達によって料理の下ごしらえが進められ、男性達によって会場設営の準備が進められている。

 ちなみに手伝ってくれている村人達には、些少ながら報酬が出ることになっている。

 彼らは最初こそ断っていたけど、普段の仕事を放って手伝ってくれているんだから、報酬を支払うのは当然だと義母上が説得して受け取らせていた。


「あのセリカが結婚だなんて、時が経つのは早いわね」


 頬杖をついた義母上が複雑な笑みを浮かべている。

 セリカが生まれてから今日までの日々を、思い出しているのだろうか。


「シオン君、明日はしっかりね。セリカの婿、バーナード士爵家の次期当主、そしてバーナード士爵領の次期領主としての最初の大仕事よ」

「はい!」

「初っ端からこけないようにね」

「分かっています」


 とはいえ、明日は緊張しているだろうか、落ち着いて段取り通りにできるかな。


「ちなみに死んだ夫は緊張して、歩く時に同じ方の手足が同時に出ていたわ」


 うわっ、それ俺もやっちゃいそう。

 やっちゃったらご愛敬ってことで許してください。


「さて、明日に備えて今日はここまでにしましょうか」

「分かりました。ありがとうございます」


 今日は風呂に入って夕食を食べたら、早めに寝ておくかな。

 というか、緊張で寝られるかな。


「さあ、お風呂にでも入ってらっしゃい」

「いいんですか?」


 風呂に入る順番は、家主を優先するのが普通だ。

 この家の場合、義母上が最初に入るべきだ。


「構わないわ。お風呂の準備はシオン君がするんだし、そのまま入った方が効率が良いでしょ?」


 そりゃまあそうだけど、本当にいいのかな?

 だけどあんまりしつこく断るのも悪いし、ここはお言葉に甘えさせてもらおう。


「分かりました。お先に失礼します」


 一礼して退室したら入浴の準備をして風呂場へ。

 扉に吊るされている札をひっくり返して入浴中にして、脱衣所で服を脱いだら昨日お湯を抜いてそのままにしてある空の浴槽の前に立って、「注水」で水を注いで「加熱」で温めていく。

 既に「加熱」の感覚も掴んでいて、注いだ水はあっという間にちょうどいいお湯になった。

 この後でセリカと義母上が入浴するから浴槽のお湯を汚さないよう、先に体を洗うため桶でお湯を掬い、体拭き用の布を洗って石鹸を泡立てていると脱衣所に繋がる戸が開いた。


「へっ? なっ!?」


 そこにいたのは耳まで真っ赤になっている、髪を頭上に纏め上げた半透明な湯浴み着姿のセリカだった。


「し、ししし、しちゅれい、しまちゅ!」


 入るのと声を掛けるの、順番が逆!

 というかそれどころじゃない。

 素早く手拭いを腰に巻き、隠すべき箇所を隠す。


「どうした、入浴中があっだろ!?」


 だから間違えてはいることは無いはずだ。

 というか、見えそうで見えない半透明な湯浴み着姿のセリカが目の前にいる!

 服を着ていてもとんでもない存在感を主張していた胸は、肌着一枚になることでより破壊力を増して、緊張による震えでプルプルと震え、ふわふわの髪を纏め上げたのは残念かと思いきや覗くうなじから妙な色気が醸し出され、服に隠れて見えていなかった腹部とか尻とか太ももは肉付きがよく、太っているというよりムッチリとした肉付きが色気を発しているように見える。

 長々と心の語りを綴ったが、一言に纏めると最高の眼福!

 まさか目に見えていなかった体つきまで、俺の好みドストライクだとは思わなかった。


「お背中を、流しに来ました!」


 なんでっ!?

 いや嬉しいよ、正直言ってメッチャ嬉しいよ。

 セリカの新たな魅力を見られた上に、背中まで流してもらえるなんて、幸福以外の何物でもない。

 しかも力説したから、その拍子にぶるんと揺れたのも眼福だ。

 だけど恥ずかしがりで照れ屋なセリカが、急にこんな行動を取った理由は追求しておきたい。


「えっと、どうしたんだ急に?」

「お母様に、シオン様の背中を流してくるよう言われて、恥ずかしくて断ったんですが、色々言われていくうちに頭がグルグル回って来て、気づいたら脱衣所でこの恰好をしていたので、もう女は度胸と腹を括って来ました!」


 何やってんの義母上、良い仕事過ぎる。

 そしてセリカも恥ずかしがりつつ、ナイス度胸。

 なんかドヤ顔した義母上が、親指を立てている姿が浮かぶ。


「というわけで、よろしいでしょうか!?」

「じゃあ、せっかくだからお願いしようかな」


 ここで断ったら男が廃る。

 今のセリカの姿をもっと見たい気持ちを抑えつけ、背中を向けて木製の椅子に座る。


「し、失礼します」


 さっき泡立てた布が背中に当てられ、ゆっくりと拭かれていく。

 辺境で手に入るような石鹸は安物で泡立ちはよくないけど、力加減がいい感じで気持ちいい。


「痛くない、ですか?」

「ああ、ちょうどいい」

「良かったです」


 今俺は、全力で後ろを振り返りたい。

 だけど背中を流してもらっている今の状況を堪能したくもあるから、振り返らずに大人しく背中を流されていよう。

 そしてその間に、自分で頭を洗っておこう。


「あの、前は、どうします?」

「そっちはいい!」


 さすがに結婚前でそっちは拙い。

 丁重にお断りして背中だけに留めてもらったものの、ちょっぴり残念な気もする。

 かといって今さらお願いするのもなと葛藤しているうちに、背中流しは終わってしまった。

 終わった以上は潔く諦めるしかない。

 そう自分に言い聞かせて頭の泡を流したら、前側は布を受け取って自分で拭いておく。


「で、では、私の背中を、流してくれませんか?」


 ……今なんて言った?


「駄目、でしょうか?」

「そんなことはない。やってもらった以上は、ちゃんとお返ししないとな」


 考えるより先に口が動いて肯定してしまった。

 でもやっちゃったって気はしないし、後悔も無い。

 だってセリカの背中を流したいもの。


「でしたら、お願い、します」


 恥ずかしがりながらも背を向けたセリカは、立ち上がった俺と入れ替わりで木製の椅子に座ると、緊張で震える手で湯浴み着の背中側を捲り上げた。

 なんて素晴らしい光景だ。

 半透明な湯浴み着越しでも分かっていた体型を、背中とはいえ直に見れるなんて。

 背中側からでも分かる色気のあるムッチリ感と、背中側だからこそ丸見えのうなじ、そして微かに見える尻と背中越しに見える胸の端の方!

 我ながらナイス判断だけど、またも永久保存したい光景が増えてしまったじゃないか。

 おっと、いつまでも見とれてないで背中を流す準備をしないと。

 セリカが使っていた布を取って桶のお湯で洗い、石鹸で泡立てる。


「じゃあ、いくぞ」

「あ、あの、優しく、してくださいね」


 赤い顔でそういう言い方をすると、別のことを連想しそうだからやめてくれ。

 うっかり思い浮かべそうになったのを振り払い、分かったと返して背中を流す。

 力を入れすぎないよう気をつけて、壊れ物を扱うように優しくだ。


「力加減はどうだ?」

「もう少し強くても、大丈夫です」


 ちょっとだけ力を加えて再度確認すると、ちょうどいいと返された。

 そこからは互いに無言。

 思わず別の箇所へ触れたくなる気持ちを抑え、ただ黙々とセリカの背中を流す。

 俺の背を流した時同様に、前はどうするかと聞かれたけど、一瞬迷ってから涙を呑んで断った。

 だってそんなことをしたら、婚前交渉に走ってしまいかねないもの。

 さすがにそれは悪いし、さっきは断って今度は了承するのは筋違いだ。


「わ、分かりました……」


 断りを入れたらセリカも心なしか、ホッとしていた。

 さすがにそこまでは覚悟できず、度胸で乗り越えられる自信が無かったんだろう。

 またも互いに無言になって背中を流し、桶のお湯で泡を洗い流す。

 これでようやく、情欲を抑える試練が終わった。

 そう思いながらセリカが背中を向けているうちに腰に巻いた手拭いを外し、お湯に浸かる。

 するとセリカは再度こっちへ背を向けた状態で、俺に見えないように前側を拭いだした。

 つい向こう側の想像をしてしまいつつ背中を眺めていたら、ふと思った。

 セリカ、この後どうするんだろう?

 そんなことを考えている間に、前の方だけでなく髪も洗い終えたセリカがこっちを向いて、数回深呼吸をしたと思ったら頬を数回叩いた。

 急に何!?


「ふぅ……失礼します!」


 やけに決意めいた表情をしたと思ったら、セリカも浴槽へ入ってきた。

 ただし正面を向き合ってじゃなくて、こっちに背を向けて腰を下ろし、背中を預けてきた。

 本当になんなんだ今日は!?

 あっ、まさか!?


「ひょっとして、これも義母上から?」


 セリカが自主的にするとは考えにくいし、だからといって他に心当たりがいない。


「は、はひ。はだ、裸の、付き合い、というもの、らしいです」


 うん、それを風呂でするのは同性前提だと思う。

 いや、夫婦や恋人なら異性前提でも間違っていないか?

 ということは、結婚前夜の男女が風呂で裸の付き合いをするのも間違いでは……なんだろう、俺まで義母上に上手いこと乗せられている気がする。

 セリカなんて入浴早々にのぼせそうなほど、今にも頭が沸騰しそうなくらい真っ赤になってるし。

 それと裸の付き合いと言う以上は湯浴み着は、湯浴み着は不要なんじゃないかな!


「なんか、義母上の掌の上で遊ばされている気分だ」

「今さらながら、私も、そんな気がしてきました」


 本当に今さらだ。遅いよ、気づくのが。

 せめて脱衣所で気づいて欲しかったけど、それはそれでセリカの新たな魅力に気づけなかったし、この美味しい状況を堪能できなかったから、気づかなかった方が良かったのか?

 そう考えると、この状況は義母上のお陰とも言えるから遊ばされていてもいいかなと思えてくる。

 遊ばされているのはちょっと悔しい。

 でもそれ以上に、こんな嬉しくて眼福で幸福な状況をお膳立てしてくれたことに対し、心からお礼申し上げます。


「へうぅ。お母様ってば、嫁入り前の娘に恥ずかしい思いさせるなんて……」

「相手が翌日に結婚する相手なら、これくらいは構わないんじゃないか?」

「……そうでしょうか?」

「どうせ明日の夜には、その湯浴み着の下まで見るんだから」


 だって新婚初夜だもの。


「へ、へうぅっ!?」


 あっ、限界越えちゃったか。

 特徴的な変な声を出したと思ったら、目を回して脱力。

 湯船に沈みそうになったのを咄嗟に支えた。

 その際に腹部と胸を触っちゃったけど、緊急事態だから許してほしい。

 しかし、なんだこれは。

 プニッとした柔らかい腹部の感触だけでも良いのに、指と手がむにゅんと沈み込むなんとも言えないこの胸の感触は、どう今の気持ちを表現すればいいのか分からないくらい最高だ。

 これで湯浴み着越しなんだから、直に触れたらどうなるんだろうか……。

 待て待て待て、セリカは気絶中なんだから変なことは考えるな。

 どうせ明日の夜には直に触れられるんだし、今は我慢だ我慢。

 暴走しそうな気持ちを抑え、浴槽から連れ出したセリカを脱衣所の隅に座らせ、急いで着替えて誰かを呼びに行った。

 廊下に出たらちょうどサラさんがいたから声を掛け、状況を簡潔に説明して対応をお願いした。

 さすがに着替えさせるのはね、無理だ。



 *****



「あっはっはっはっはっはっはっはっ!」


 夕食の席で風呂での出来事を聞いた義母上、大爆笑。


「う~」


 恥ずかしがって俯く復活したセリカ、可愛い。

 俺、報告を終えて苦笑中。

 米、美味い。


「お母様、笑うなんて酷いです!」

「ご、ごめんなさいね。でもおかしくて、あっはっはっはっはっ!」


 何が義母上の笑いのツボをそこまで刺激したんだろうか。

 いつもなら、「うふふ」とか「あらあら」とか余裕のある笑みを浮かべる義母上が、あんなに大笑いするなんて。

 セリカが気絶したのが、そこまで面白かっただろうか。


「そもそも、どうしてセリカにあんなことを?」

「あわよくば婚前交渉の流れに持って行こうと思って」

「お、お母様!」


 笑いが収まったタイミングで尋ね、笑いすぎで出た涙を拭う義母上の返事に、セリカは恥ずかしがりながら怒った。

 怒った拍子に揺れたよ、ぶるんって。


「新婚初夜に緊張で失敗しないよう、事前に経験させてあげようっていう私なりのお節介よ」


 自分でお節介って言っちゃうんだ。

 というかそれ、ありそう。

 特にセリカなんて、緊張しすぎで目を回しかねない。


「余計なお世話です!」

「あらあら、お母さんなりの思いやりをそんな風に言うなんて悲しいわ」


 俺としてはその思いやりでありお節介により、事に至らなかったのが少し残念だ。

 そっちが目的なら事前に伝えてください!

 サプライズを狙ったのかもしれないけど、教えてくれてさえいれば、余計な気を回したり遠慮したりせず事に至れたかもしれないのに!

 惜しい、実に惜しかった……。


「もう、お母様ったら」

「ごめんなさいね。でも悪いものじゃなかったでしょ?」

「それは……はい」


 否定しないんだ。


「シオン君は?」

「最高の時間でした」


 まあ、俺も否定しないけど。

 だって義母上の計画は失敗に終わったとはいえ、とても良いものを見させてもらったし、とても良い体験をさせてもらったから。


「へ、へうぅ……」

「それはなによりね。ちなみに結婚後は湯浴み着なんて着させないから、期待していてね」

「分かりました!」


 そんなことを言われて、期待しないはずがない。


「へうぅっ!?」


 あっ、またセリカが限界超えちゃって目を回した。

 そして義母上はまたツボに入ったのか、大爆笑。

 きっかけは寄親同士による貴族的政略で、辺境の裕福でない小領だとしても、こんなに明るい雰囲気の家と、あんなに魅力的な結婚相手がいる。

 その一員に加われることを嬉しく思うし、新しく発見した調理魔法の活用方法でここのために働きたい。

 まだ短い間しか過ごしていないけど、そう思えるほどこっちでの日々は充実していて、王都で送ってきた日々なんかよりずっと楽しい。

 それを改めて実感すると、早く明日の結婚式を迎えたくなってきた。

 ああ、早く明日にならないかな。


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