表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
64/64

また妾が増えた


 フィッシャー諸島との交易が樹立できたのは良い。

 でもどうして、サモン殿の妹のサディンって子がうちへ嫁ぐなんて話が出るんだ。

 あと、恭順しないならフィッシャー諸島の人達は平民扱いだから妻になるのは無理。

 国土化すれば領主がどうなるのか次第ではチャンスがあったけど、しないのなら無理だ。

 というか、なんでそんな話が上がった。


「マーデン殿、それはどういうことでしょうか?」


 報告を聞いていた義母上も疑問に思ったのか、マーデン殿へ尋ねた。


「実は向こうで色々とありましてな」


 マーデン殿によると、フィッシャー諸島へ着いた時にサモン殿の父親が治める村では問題が起きていたらしい。

 というのも、跡を継ぐべきサモン殿が漁に出て行方不明になったものだから、彼の妹と結婚して村長の座を狙おうとする人が何人か出たのに加えて、別の村の長が実質的支配権を得ようと、自分の息子や村民の男を紹介するものだから結構な騒ぎになっていたそうだ。

 おまけにサモン殿や一緒に行方不明になった男達を死んだと決めつけ、残された奥さん達を狙う輩まで現れる始末。

 そこへサモン殿とその仲間達が生還したから大騒ぎ。

 諦めて大人しく身を引いた人達はともかく、サモン殿達を救ったこっちを逆恨みして、仲間を引き連れて襲い掛かってきたとか。

 無論、護衛として同行していた国の兵士達によって、あっさり叩きのめされたようだけど。


「大変でしたね」

「ええ。一瞬肝を冷やしましたよ」


 そういった経緯とサモン殿の尽力もあり、恭順こそ断られたものの、交易と技術提供の交換留学には応じてもらえたそうだ。

 これでめでたしめでたし、なら良かったんだけどそうはいかない。

 跡取り息子と大勢の男達の命を救ったお礼と、交易の拠点となるバーナード領とより親密な関係を築きたいことを兼ねて、サディンがバーナード家へ嫁入りする話が浮上。

 移住希望者や交換留学生のため、立場がある人物の関係者がこっちにいた方がいいということもあり、話はとんとん拍子に纏まってうちへの嫁入りがほぼ確定したそうだ。


「本人のあずかり知らぬところで……」

「貴族というのはそういうものだと、シオン殿もご存知でしょう?」

「ええ、そうですね」


 まあこれも、フィッシャー諸島との友好のためか。


「しかし、さすがに嫁というのは」

「無論、相手側にはちゃんと説明しています。向こうも良好な関係を築けるのなら、嫁でも妾でも構わないと納得しています」


 はいもう確定、三人目のお妾さんがやって来ます。

 この場にいるユリスとトウカはともかく、後でセリカには説明しておかないと。


「というわけです、バーナード卿」

「承知しました。サディン嬢はうちでお預かりします」

「よろしくお願いします」


 これにて妾入り決定。

 マ―デン殿との話し合いが終わったらすぐにセリカの下へ向かい、笑顔で駆け寄って来たボサノムを膝の上に乗せ、サディンって子が新しく妾入りするのを説明。

 仕方ありませんねと納得はしてくれたけど、感情は別のようでめっちゃ密着されて、存在感抜群の胸をぎゅうぎゅうに押し付けられながら鼻息荒く匂いを嗅がれた。

 お陰で色々と滾ってしまった欲望は、今夜の相手のトウカとの情事で発散した。

 また例の、白目を向いて舌を力無くだらりと出しながら両手の指を二本立てた状態にしちゃったけど、後悔はしていない。


「さて、また忙しくなるぞ」


 それからはまた忙しい日々が始まった。

 開拓と開発の方はほぼ終わったものの、今度は港を建造するための予定地を開拓しなくちゃならない。

 開拓支援団がそのまま作業に入ってくれるとはいえ、こちらも人や金や資材を準備し、交易が開始できるように船を受け入れる態勢だけでも早急に整える必要がある。

 最悪、周辺施設は一旦掘立小屋でまかなって後からしっかりしたのを作るとしても、船を受け入れる体制だけは作らないと話にならない。

 越冬祭の方は重要な判断以外はブレイドさん達と村長達に任せ、義母上はこっちの仕事が中心になった。

 なにせ国益に関わる仕事だ。領地運営の大半を俺とセリカとユリスに任せるくらい、忙しくしている。


「うぅ……。領地が賑わって潤うのは嬉しいけど、こんなに忙しいのは初めてよ……。癒しが、癒しが欲しいわ」


 こんな要望が義母上から上がったため、癒し要員としてユリスからロイとマルコを借りてきたものの……。


「一緒に遊びに行くから、返して!」

「「あうー!」」

「プル」


 ミィカとボサノムとサラノムとウェネの返還要求により、ちょっとしか癒されなかった義母上の手で泣く泣く返したそうだ。

 ところがこの数日後、新たな癒し要員がやって来た。


「子狼のオルクとエーテです」


 紹介したユリスの隣で可愛らしい鳴き声を上げた二匹は、村の子供が親の死体の傍で鳴いていたのを保護したものの、自分の親に飼うのを反対されてしまったらしい。

 それでもこっそり隠れて面倒を見ていたそうだけど、ついに親に見つかってしまい、山へ捨てられそうだったところに買い物中だったユリスが遭遇。

 成長後に問題を起こさないよう、従属魔法で従えるのを条件に里親として引き取ったそうだ。

 この二匹が早速新たな癒し要員として投入され、ここのところ眉間に皺が刻まれだしていた義母上の表情に、明るさが戻って眉間のしわが消えた。


「小動物って、いいわね」


 じゃれ合う二匹に義母上が呟く。

 同感だ。仕事の邪魔さえしなければ、小動物の存在は良い癒しになる。

 さて、義母上の機嫌が良くなったから俺も頑張って仕事しますか。


「撹拌」


 港の建造予定地で、木々を伐採した後の大地を「撹拌」で混ぜて堅い地面を柔らかくしつつ、残った切り株を巻き込んで砕きながら地面に混ぜ込んでいく。

 これを可能な限り広範囲で行ってるんだけど、周りにいる作業員達が口をあんぐりと開けたまま、その場に立ち尽くして固まってる。

 一緒に調理魔法で作業をしようとしていた人達も同様で、信じられないものを見ているような表情で作業している俺を見ている。


「どうした。お前達も作業しろよ」

「いや待ってください、若様。以前よりも作業する範囲が遥かに広がっていませんか?」

「速度も遥かに早くなっているのに、作業自体は正確ですし」


 そりゃね、ボサノムの能力を誤魔化すために農耕地で作業をしていたし屋敷の菜園での作業もしていたから、魔力の量とか制御とか操作とかがさらに向上している自覚はある。

 だから以前より、作業できる範囲や速度や正確性が向上していても不思議じゃない。

 あっ、ひょっとしてそれで作業位置がズレたから、やろうとしていた作業ができないのか?


「悪い。やる範囲が広すぎたか?」

「いいえ、それは調整するので構いません。ただちょっと、驚いているだけですので」


 なんだ、そうだったのか。だったらこのまま作業を続けよう。

 移動しながら「撹拌」での作業を続けて、予定の範囲が済んだら平らに均す。


「伸ばし」


 かき混ぜて柔らかくなった地面を「伸ばし」で平らにしたら、次の場所を「撹拌」で柔らかくしていく。


「いやー、ご主人様は作業に参加する度に凄くなるッスね。はっはっはっ」


 護衛のトウカが呆れた様子で笑ってる。


「おい、予定を前倒しだ!」

「かなり早めに整地が終わる想定をしていたが、それも早めるんだ!」

「こっちにいる調理魔法の使い手の七割は向こうの作業へ回そう。こっちはシオン様がいればなんとかなる」


 指示役や文官の人達が慌ただしく動きだす。

 内容を聞く限り、俺の作業範囲の広さと速さが想定を越えていたようだ。

 作業が早まるのはいいことだけど、忙しくなってごめんな。

 でも自分の領地の発展のため、作業に手を抜くことはできない。

 だから次から次へ「撹拌」で大地をかき混ぜ、「伸ばし」で均していく。

 そして少しだけ掘ってもらった地面を「くり抜き」で掘っていき、水を掘り当てて井戸作りにも取り掛かって水を掘り当てた。


「水が……こんなにあっさり?」


 地面からじわじわ染み出す水を前に、担当者が呆然としている。


「あっさりってほどじゃないだろ。ここで三ヶ所目だし」


 先に掘った二ヶ所は水が出ずに断念して、ここでようやく掘り当てた。

 途中に硬い岩盤もあったけど、そこは力任せならぬ魔力任せでくり抜いて突破した。


「いやいや、こんなに早く三ヶ所も掘るのがとんでもないんッスよ」


 普通は井戸を掘るのだけでも大変だからな。

 石材で固めてない、ただ穴を掘っただけの井戸だけど、この先は作業員の人達に任せよう。

 さすがにこの先の作業は調理魔法じゃ無理だ。


「次の作業はなんだ?」

「切り出した木材の加工ッスね」

「分かった」


 というわけで木材として利用するため、事前に切り倒した木々の表皮を「桂むき」でシュルンと剥いて、水気を抜くために「乾燥」で乾かしたら切り分け担当の作業員達へ渡していく。


「若様、ストップです! あまりにも早すぎて切り分け作業が追いつきません!」


 ありゃ、ちょっと早すぎたか。

 こんな感じなもんだから、作業を手伝う日々はあっという間に終わった。

 後のことは現場の作業員達に任せ、また屋敷で事務仕事に打ち込みだして数日後、フィッシャー諸島から移住希望者十三名と、妾入りのためにサディンって子がバーナード領へやって来た。


「フィッシャー諸島はオクタ村の村長の娘、サディンと申します。この度は兄及び村民達の命をお救いいただいたこと、並びに私と移住希望者を受け入れて下さったことを、心よりお礼申し上げます」


 屋敷の前で対面した俺達へ、ここでは女性が代表者になってもいいということもあってサディンが挨拶をする。

 緊張交じりの地味ながら整った顔立ち、肩まである波打った青い髪、魚人族特有の水かきやエラのような耳はともかく、貫頭衣を内側から押し上げて存在感を主張しているセリカより一回りは大きそうな胸が凄い。

 頭を下げた拍子にブルルンと揺れて、襟元からは服の中へ押し込まれた感のある胸の谷間が、むぎゅんって感じで覗いている。

 確か俺と同じ十三歳だったよな。これで?


「バーナード領の領主、バーナード士爵家の当主代理を務めるリーチェ・バーナードよ。頭を上げなさい」

「はい」


 顔を上げた時でも、圧巻の存在感を誇る胸がたゆゆんと揺れた。


「くっ」

「あれは勝負にならないッス」


 斜め後ろにいるユリスとトウカから、悔しそうな声が漏れた。


「むむむっ」


 安心しろセリカ。いくら胸が負けてても、俺にとって一番魅力的なのは出会った瞬間から常にセリカだ。

 悔しそうな表情もかわいとおしいけど、それ以上にかわいとおしい笑顔を見せてもらいたいから、そっと手を握ってこっちを見たセリカへ微笑む。

 するとセリカも微笑んでくれた。うん、やっぱりセリカの笑顔は最高で最強にかわいとおしい。


「こちらがあなたの主人になるシオン、それと私の娘で正妻のセリカよ」

「はい。こちらの常識に疎い新参の余所者ですが、どうぞよろしくお願いします」


 俺とセリカへ向けて頭を下げると、再びだっぷんと揺れてむぎゅんな谷間が見える。

 しかし異国と言っていい場所からやってきたとはいえ、自分で余所者とか言うか?

 フィッシャー諸島は女性の立場が弱いから、そのせいかな。


「シオンだ」

「セリカです」


 頭を上げたサディンへ名前だけ伝えたら、義母上によって同じ妾のユリスとトウカが紹介され、二人が名乗って会釈する。

 対面はこれだけで終わり、後ろにいる移住者希望者達は案内のために来ていたバハードと、護衛の依頼を受けてくれたラッセルさん達に先導されて竜人族の集落へ向かう。

 一人残ったサディンは屋敷へ入ってもらい、バーナード家の新たな一員を歓迎するためにリビングへ通す。


「ここからはもう、堅苦しいことは抜きよ。力を抜いて頂戴」

「は、はひ」


 抜けてない抜けてない、全然力が抜けてなくて椅子に座る動作も座った姿勢もガッチガチだぞ。


「飲み物をどうぞ」

「あ、ありがとうございます」


 硬い表情と言葉でお礼を言ったサディンは、サラさんが淹れてくれた紅茶を前に首を傾げる。


「あの、この赤茶色の水はなんでしょう?」

「紅茶っていうのよ。まずはそのまま飲んでみて、その後で好みに合わせて味を調整してね」

「は、はぁ……」

「私がお教えしましょう」


 紅茶を知らない様子のサディンに、控えていたユリスが隣に立つ。

 最初は香りにこそ表情を和らげていたけど、一口飲んだら首を傾げ、ユリスの助言でハチミツや砂糖を少しずつ加えながら味を調え、やがて納得できる味になったようで表情をほころばせた。


「美味しいです」

「それは良かったわ。さっ、お菓子も食べて」

「はい、いただきます」


 まだちょっと緊張気味だけど、おいおい慣れてもらおう。

 それから話を聞いてみたところ、魚人族だからといって近くに水場が無くとも問題は無いそうだ。

 塩作りと漁のために海の傍に村を作ってたものの、必ずしも水場が近くなくちゃ駄目ということではないらしい。


「だったら、ここでの生活も平気かしら」

「ええ、特に影響はありません。ただ……」

「どうかした?」

「先に申しました通り、こちらの常識には疎いので、まずはそちらをお教えいただければと思いまして」


 照れながらおずおずと切り出す様子は可愛らしい。

 思わずほんわかしてしまう雰囲気に、セリカも義母上もユリスもトウカも表情が緩んでいる。


「勿論よ。あなたはもううちの一員だもの、遠慮なく頼ってちょうだい」

「はい。ありがとうございます」

「じゃあまずは、着替えね」

「はい?」

「三番目とはいえ、仮にも貴族の妾が貫頭衣なのは体裁が悪いのよね」


 義母上の言う通りだ。

 どんな経済状態であろうと嫁や妾が貧しい服装をしていたら、それだけで他家から侮られるし、評判の低下に繋がる。

 現在昇り調子のバーナード家としては、それは避けたいんだろう。

 幸い経済的にも潤ってきたし、サディンの服を新調するくらいはなんてことはない。


「というわけでサディン、後で体型を測らせてね」

「わ、分かりました」


 見える、見えるぞ。どんな服が似合うのか議論になった挙句、着せ替え人形のようにされてしまうサディンの少し先の未来が。

 そしてそれは予想通り数日後に現実となって、屋敷にサディンの疲労しきった悲鳴が響くのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] すぐに大きくなるけどね、狼 最終的には50kg台になったりも 生まれてくる子供の良い遊び相手になりそう
[一言] 木っ端貴族にしちゃ夫人が多すぎるのでそれはそれで国から何かありそうな感じ……放置するとは思えないですねぇ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ