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年に一度はある


 新たな国土に繋がる未知の諸島群発見ということで、また忙しくなった。

 おそらくは魚人族を送り届ける名目で現地へ向かってから、住民達と交渉をすることになるだろうというのが義母上の見解だ。

 だけどそれは外務省の仕事であって、うちの仕事じゃない。

 今うちがすべきことは、保護した魚人族達が帰路へ着くまでの間、しっかり面倒を見ることだ。


「必要な物資はなんとか集まったわね」

「冬も終盤だから大丈夫かと思ったが、どうにかなるもんだな」


 準備した物資の目録や予算の見積もりに目を通した義母上が一安心して表情を緩め、物資調達に動いていたユリーカさんも肩の荷が下りたのか、やれやれといった様子で肩を回す。


「運搬担当はどうしますか?」

「私が行くわ。領主として魚人族の人達と話さなきゃならないことがあるし、外交担当の人が来るまでに確認したいこともあるからね。というわけで、明日は留守を頼むわね。それと護衛としてトウカを借りるわよ」

「分かりました」


 留守中は俺とセリカで対応か。

 最近は開発も落ち着いて、領主対応案件が減ってきているから、よほどのことがない限りなんとかなるだろう。

 そういうわけで、翌日に義母上とトウカは物資の運搬をする自警団員達と一緒に集落へ出発。

 事務仕事はユリスに補佐してもらいながら、俺とセリカで回した。


「「あうー!」」

「プルプル、ププル!」

「ボサちゃんもサラちゃんも、お兄ちゃんとお姉ちゃんはお仕事してるんだから、邪魔しちゃ駄目だよ」


 途中、遊んでもらいに来たボサノムとサラノムによるあうあうという訴えが扉の向こうから聞こえたけど、ウェネとミィカがなんとかしてくれたようだ。

 直後に入室したユーナによると、ボサノムは幸せそうなウェネに抱え上げられ、サラノムはプリプリ怒ったミィカに襟首を掴まれて引きずられていったらしい。

 ミィカ、意外とやることワイルド。

 そしてボサノムとサラノム、こっちの事情も少しは考えてくれ。

 正直、外で楽しそうに走り回っているロイとマルコの方が、ずっと聞き分けがいいぞ。


「二人とも、まだ甘えたい盛りなんですかね?」

「ボサノムはともかく、サラノムはもう少し大人だと思っていたんだけどな」


 時折しっかりしていそうな様子はあるのに、甘える時は徹底的に甘えてくる。

 そんな緩急の差が大きいのがサラノムだ。


「あの二人はウェネとミィカちゃんに任せておけばいいでしょう。それより、次はこちらの書類をお願いします」


 はいよ。さっ、雑談はほどほどにして仕事だ仕事。

 そうして今日の仕事を終えたらボサノムとサラノムと風呂に入って構ってやって、リビングに戻ってセリカとユリスとウェネとミィカが入れ替わりで風呂へ向かうのを見送り、それから少ししたら義母上とトウカが帰ってきた。


「ただいま」

「お疲れ様です」

「「あう!」」

「おーっ、ボサノムちゃんもサラノムちゃんも。出迎え感謝するッス」


 疲れた様子の義母上が、圧倒的存在感の胸をユッサッと揺らしながら椅子に座るのに対し、まだまだ余裕がありそうなトウカはボサノムとサラノムとハイタッチを交わす。

 この違いは役目の違いによるものだ、決して年齢によるものじゃない。


「どうでした? 運搬と魚人族との接触は」

「運搬は問題無かったわ。途中でゴブリンの群れと遭遇したけど、トウカと自警団員で対処できたし」

「自分の拳が唸りを上げたッスよ!」


 そう言って拳を振るう様子を見せると、あうっと言ったボサノムとサラノムが真似をする。

 うん、子供が戦いごっこをしてるようにしか見えないから、勇ましさもカッコよさも無くて逆に微笑ましい。


「だけど魚人族との対面時には、文化の違いでイザコザがあったわね」

「イザコザ、ですか?」


 なんでも魚人族がいるフィッシャー諸島の全て村では、村長を始めとした多くの仕事が男性の役目で、女性の仕事は家事を除けば畑の収穫作業や獲ってきた魚の仕分けを手伝う程度。臨時や代理であっても女性が長を務めることは、絶対に無いそうだ。

 仮に長を務める男性が死んで、子供が娘しかいない場合は婿を迎えるまでは血縁者の男性や、男性の中で最も年齢を重ねている長老が代行を務めるとのこと。

 これはサモン殿の村や島だけでなく、他の村や島々も同じらしい。


「彼らに驚かれちゃったわ。この大陸では、女が長を務めるのかって」


 まさに文化の違いだな。

 お陰で最初はなかなか話を聞いてもらえず、文化の違いを説明してようやく話になったらしい。


「集落の人達からも聞いたッスけど、他の仕事でも似たような反応をされたみたいッス」


 うちの国は女性でも普通に働くことができる。

 武官にも文官にも研究者にもなれるし、冒険者や傭兵にだってなれる。

 貴族の当主に就くことは未だにできないけど、義母上のように代理を務めることはできるし、町長や村長や集落の長を務める女性は割といる。春には村になる予定の蜥蜴人族の集落の長だって、女性のマダーが就任してるし。

 だけどそういう文化が無い魚人族の人達は、女性が漁をしたり塩作りをしたり畑仕事をしたりしている光景が信じられず、開拓支援団の女性兵士や女性文官にすら驚いていたそうだ。


「だから保護したのが男性ばかりだったんですね」

「ええ、そうよ。彼らにとって船は海の男が乗る神聖な物で、女性は絶対に乗せないそうよ」


 こう言っちゃなんだけど、随分と前時代的な文化を残してるんだな。

 大昔はこの国に限らず、多くの国が似たような感じだったらしいけど、今ではすっかり働く女性が増えた。

 結婚や出産を終えた後も普通に働いてるし、義母上やサラさんやユリーカさんのように、子供を育てながら働いている女性だっていくらでもいる。

 そういう中で育ってきた身としては、フィッシャー諸島はまだまだ前時代的な考えなんだと思ってしまう。


「もしかしたら、そこが交渉の際のポイントになるかもしれないわね」

「文化の違いは些細なようで、結構大きいですからね」


 しかも周辺の島々以外との交流が無いから、他の文化に対する理解が未知数だ。


「まあ、そこの辺りは国の外交担当者が対応することね。私達はこの件を報告すれば、そこまでよ」


 国外の地との交渉は、うちの仕事じゃないからな。

 隣領ならともかく、まだ国の領地ですらないし。


「なんにしても国への報告が山のようにあるわ。今からもう、疲れたわ」

「ご苦労、察します」


 圧倒的存在感の胸をテーブルへ押し付け、さらに疲れてテーブルへ倒れ込むようにしたから体重を掛けて押さえ込まれたことによって、ぐんにゅうぅぅと変形している。勿論、谷間はバッチリ見えている。

 ついそこへ視線が固定されてしまい、ノーム達が膝の上に座ろうとするまでそこへ集中してしまった。


「お館様、気をしっかり持つッス。やることやったら外交担当の人に丸投げなんッスから、気合い入れて一気に片付けちゃうッスよ」


 膝の上であうあう言って可愛いノーム達の頭を撫でながら、拳を握ってむんと気合いを入れているトウカに、それでいいのかと思う。


「そうね。気合い入れて一気に片付けちゃいましょう」


 いいんだ。それでいいんだ。

 まあ貴族の当主で領主だからって、なんでもかんでも力入れてたら疲れるもんな、力を抜いて仕事をしたい時もあるよな。

 膝に座るノーム達を撫でつつそう思っていたら、テーブルにもたれかかっていた義母上が勢いよく立ち上がりながら起き上がって、その反動で圧倒的存在感の胸がバルゥンと跳ねてダップンプルルンと揺れてユサユサ余韻を残す。

 この揺れのパターンは初見だ、そして実に凄すぎて記憶に永久保存したい。

 今ほど記憶が忘れてしまうものであることを悔やんだことはない。


「よし! 気合いを入れるためシオン、あなたを愛でさせなさい!」

「何故に!?」


 思わず叫んでしまった。

 だってそうだろう? 普通愛でるなら俺よりも、俺の膝の上にいるノーム達だろ。

 そもそも娘婿を愛でる義母ってどうなんだ。

 僅か三秒の間にそうした考えが頭を過る。


「ちょっとお館様。目の前で人のご主人様を奪うような真似はしないでほしいッス。それに後でセリカ様に怒られるッスよ?」


 よく言ったトウカ。さすがは俺の妾、今夜は一緒に励む予定だけどお礼に張り切って全力を尽くそうじゃないか。

 初めての夜の時みたいに、白目を向いて舌を力無くだらりと出しながら両手の指を二本立てていた姿を晒させてやる!


「うぅぅ。だって一番愛でたい娘は身重の身、下手に愛でる訳にはいかないもの」


 どんな愛で方するつもりなんですか、義母上。


「ならノームちゃん達で我慢してもらいたいッス」

「「あう?」」


 この場にいるのに話を聞いてない様子のノーム達が、不思議そうに首を傾げた。


「ノームちゃん達は、普段から愛でてるからいいわ。普段、愛でてない、シオンを愛でたいの!」


 何が義母上をそうまで炊きつけるんだろうか。

 というか普段の義母上らしくなくて、ちょっと恐怖心を感じる。


「旦那様、戻りました」


 おおっ、かわいとおしい極愛の妻セリカが戻ってきた。

 風呂上がりのしっとりした姿が実に良い。

 後ろにいるユリスのしっとり姿も良いけど、セリカには及ばないな。

 さらにその後ろにいるミィカとウェネは可愛らしい。ただそれだけだ。


「あっ、お母様。おかえりなさいませ」

「セリカ、シオンを愛でさせて!」

「いきなりなんですか!?」


 だよな、そういう反応するよな。

 ところが何故そんなことをするのか話を聞いたセリカは、複雑そうな表情で頷いた。

 なお、その間にボサノムがウェネに連れて行かれてあうーって叫び、やれやれって仕草をしたサラノムは話を聞いてなかったくせに、空気は読んだのか膝から降りた。


「旦那様、お母様は仕事で溜まった精神的な疲労がピークに達するとこうなるので、愛でられてくれませんか?」


 えっ、これってそういうことなの?


「いいのか?」

「妻としては複雑ですが、お母様なので許します。それに放っておくと、お母様が情緒不安定になるんです」


 なんでも当主代理に就いて間もない頃、慣れない仕事の忙しさにそうなってしまい、泣かれたり微妙に幼児退行したりしたらしい。

 その時はセリカが愛でられて事無きを得たものの、それ以降は年に一回ぐらいのペースでこうなってしまうようになり、その度にセリカが愛でられて落ち着かせているそうだ。


「だけどさっきも言ったように、セリカは妊娠中だから愛でられないの。だからシオン、愛でさせて!」


 だからどんな激しい愛で方をするつもりなんですか。

 セリカによると、力強く抱きしめて頬ずりしながら頭を撫でまくった後、抱き上げられてグルグル回されるそうだ。

 うん、確かに妊娠中のセリカをそんな目に遭わせるわけにはいかないな。強く抱きしめる時点で危ないし、グルグル回るのなんて論外でしかない。


「お母様、どうしても旦那様でないと駄目なんですか?」

「セリカ以外だと、いつも愛でてるノームちゃん達やウェネちゃんじゃなくて、シオンの気分なのよ!」


 どういう気分なんだ。


「お館様。私かトウカでは駄目ですか?」

「だから! 今はシオンを愛でたい気分なの!」


 体を揺らして駄々をこねるように主張するから、圧倒的存在感の胸がダップンブルルンと上下左右に揺れる。

 そっちも気になるけど、若干情緒不安定になりかけているのも気になる。

 しかも喋り方にも幾分か幼児退行が見受けられる。

 なるほど、放置したらこれがより酷くなるのか。


「旦那様。お母様の精神安定のためにも、どうかご協力願います」

「分かったよ。義母上、どうぞ」


 かわいとおしい極愛の妻からお願いなんてされたら、承諾して協力するの一択しか存在しない。

 すると義母上の表情がパァッと明るくなって抱きつかれた。

 圧倒的存在感の胸が押し付けられ、その間に挟まれるんじゃないかって思ったのも束の間、摩擦で熱いほど頬ずりされながらわしゃわしゃと頭を撫でられる。


「うきゃああぁぁぁぁぁっ!」

「痛い熱い痛い熱い!」


 暴走してるんじゃないかってくらい、強く抱きしめられての頬ずりと頭撫でをする義母上が、こっちの声なんかちっとも聞かずに楽しそうな声を上げる。

 これ、もうちょっと頭撫での勢いが強ければ頭が振り回されてクラクラしそうだ。

 柔らかさ以上に熱いのと地味に痛いのが襲ってきて、幸せな気分に浸っている場合じゃない。

 でも、これは序章にすぎなかった。


「あぁぁぁぁぁぁっ!」


 やっと頬ずりと頭撫でが終わったと思いきや、両腕で抱えられてグルグル回るように振り回される。

 駄目だ、どっちにしろこれで頭がクラクラしてきたし、目がグルグル回って思考が止まりそうだ。

 もうなるようになれと義母上に身を任せ、いつ終わるか分からない中で聞こえるのはユリスの慌てる声と、楽しそうなノーム達とミィカの声、そして義母上の奇声に近い楽しそうな声だった。

 やがて解放された頃には、視界がグルグル回って頭はクラクラして足元はフラフラと覚束なくて、それでもどうにか部屋の隅まで行ったら崩れ落ち、気分が滅茶苦茶悪くて必死に吐き気を抑えるので精一杯になっていた。


「ふぅ、スッキリしたわ。シオン、ありがとね」


 清々しい笑顔で額の汗を拭う義母上に対し、こっちは滅茶苦茶気分が悪い。


「旦那様、しっかりしてください。お顔が真っ青です」


 セリカが優しく背中を擦ってくれる。

 さすがはかわいとおしい我が極愛の妻、その優しさがとてもありがたい。


「これは下手に動かせませんね。トウカさん、念のため桶を持ってきてください」

「了解ッス!」


 うん、それ必要。

 今は何とか堪えているけど、セリカの優しさで気合いが入っても結構危ない。

 ユリスの気遣いとすぐに動いたトウカの思いを無駄にしないよう、せめて桶が届くまでは堪えてみせよう。


「あーう! あーう!」

「あううあう!」

「おばちゃん、ミィカにもさっきのやって!」


 ノーム達とミィカがさっきのをやってもらいたがっている。

 やめろお前達、今の俺の惨状を見ていないのか。

 圧倒的存在感の胸を押しつけられて幸せな柔らかさに包まれるのは一瞬、激しく頭を撫でられながら熱くて痛い頬ずりをされた後、グルグルのクラクラでフラフラになってリバースしそうなほど振り回されるんだぞ。


「セリカ、これが年に一度?」

「はい。体験した通りの激しさのため、毎年大変なんです」

「そうか、頑張ってたんだな」

「ええ……」


 背中を擦るセリカが遠い目をしている。

 うん、今年はこれをされないで良かったな。

 ある意味でセリカを守ったことになったんだな、うん。


「それー!」

「わあぁぁぁぁぁぁぁいっ」


 わー、義母上が要望に応えたから、ミィカが同じ目に遭ってグルグル振り回されてるのに喜んでる。

 続けて振り回されるノーム達も、あうあう言いながら喜んでるし、なんで大丈夫なんだ?


「プルル……」


 巻き込まれたくないウェネが、こっそり部屋の隅へ避難してる。


「桶、持ってきたっスよ」

「ありがとうございます。ついでに窓を開けておいてください。さあご主人様、いざという時はこれをお使いください」

「ああ……」


 やっと届いた桶を受け取り、いつリバースしてもいいように備える。

 それとさりげなく換気の準備をしたのはナイスだユリス。これで仕事以外の時、舌を噛んだり転んで額を打ったりしなければ完璧なのに。

 まあ、あれはあれでユリスの魅力の一つか。

 そして冷静になってきた頭でよくよく考えてみれば、なんで義母上も平然としているんだ。

 俺とミィカとノーム達、合わせて四回はグルグル回っているはずなのに。


「ふぅ、疲れたわ。もう年ね」


 その割には、四回もグルグル回った影響も無くスッキリした表情ですね、義母上。

 勢いよく座った拍子に圧倒的存在感の胸がブルンと揺れたけど、今はそっちよりもあれだけ回って何ともないほうに対する疑問が強いのと、ミィカとノーム達が回されていたのを見ていたらまた気分が悪くなってきたから、それどころじゃない。

 でも大丈夫、大丈夫。セリカが背中を擦ってくれているから、辛うじて持ち堪えられる。


「皆さん、夕食の準備ができましたよ。今日は脂がたっぷり乗ったオーク肉が手に入ったので、それを厚切りステーキにしました!」


 親友うぅぅぅぅっ!

 この状況を知らないから仕方ないとはいえ、今の俺の状態でそれは辛すぎるぞぉぉぉっ!

 結局、今の状態で脂たっぷりの厚切りステーキ肉なんて食えるはずもなく、サラダとスープとパンの食事になった。

 ……どうして同じことをされたミィカと、四回も同じことをした義母上は平然としてるんだ?

 うぷっ、匂いだけでまた気分が……。


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[一言] 流石熊殺し 成人男性振り回すとか
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