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熊は食べ物


 数日降り続けた雪がようやく止んで、今は雪かきと雪下ろしをする日々を送っている。

 雪かきの方はさほど大変じゃない。どれだけ積もっていても除雪したい場所を少し掘っておけば、以前に「くり抜き」で埋まっていた岩を除去したように、下方向へ掘っていくらでも掻き出せる。

 それに対して、雪下ろしの方は本当に大変だった。

 屋根の上で「くり抜き」を使って屋根を壊すわけにはいかないから、雪かき用のスコップを手にトウカとユリーカさんと一緒に屋根に上って、積もった雪を下へ落としていったんだけど、作業中に滑って転んで斜面を滑って落ちそうになった。

 命綱を付けていたから助かったものの、あれは本気でドキッとした。 一緒に雪下ろしをしていたトウカなんか、滑っていく俺を見ながら悲鳴上げてたしな。

 その雪下ろしも無事に終わって、今は村への道を延々と雪かきしている。

 一緒に雪かきをするユリーカさんとトウカが表面を軽く掘って、そこを「くり抜き」で雪を除去しながら道を進む。

 除去した雪は道の端に積まれていくから、雪の壁に挟まれた道を作っているようだ。


「いやー、雪が積もったのを見るのは久々だけど、今年は随分と積もったもんだ」

「自分は雪かき自体が初めてッスよ。雪下ろしもそうだったッスけど、思ったより腰にくるんッスね」


 晴れ晴れとした様子で周囲を見渡しながら額を拭うユリーカさんに対し、慣れない雪かきに四苦八苦しているトウカは腰をトントンと叩く。

 軽く掘った個所を「くり抜き」で掘る俺と違い、浅くとも雪かき用のスコップで延々と掘り続けているから、腰に負担がきているようだ。


「そればっかりは、慣れていようがいまいが同じだって。アタシもボチボチ腰が痛くなってきたよ。年かねぇ」


 スコップを雪に刺して杖代わりにして体を仰け反らせると、圧倒的存在感の胸がブルルンと揺れた。

 厚着なのにあれだけ揺れるなんて、どんだけの重量と存在感なんだ。


「言うほど年取ってないでしょう」

「三十過ぎの年増に言うねぇ、シオン。いい年したアタシを褒めたって、酒ぐらいしか出せないぞ」


 酒は出せるんかい。まあ出されたら飲むけど。


「おー、いッスね。どうせなら作業が済んだ後で、熱いの飲みたいッス!」


 熱いのってことは、コメで作った酒のアツカンかホットワインだな。個人的にはアツカンを希望したい。


「いいねいいね。仕事終わりにひとっ風呂浴びて、熱いのキュッと」

「最高じゃないッスか!」

「そうと決まれば、一気に片付けるぞ!」

「おうッス! 湧き出たやる気が満々ッスよ!」


 スコップを手にユリーカさんとトウカが燃えだした。

 酒で湧いてくるとか、現金なやる気だこと。

 とはいえ作業が捗るのはいいことだから、「くり抜き」を使うための浅く広い溝を掘りながら進んでいく二人の後に続き、「くり抜き」で雪を除去していく。

 仕事の後の一杯を目的にした二人のお陰で雪かきはガンガン進んでいき、あっという間に村まで到着した。


「ふう、いい仕事したぜ」

「あたた。終わったと思ったら腰が痛くなってきたッス」


 まだまだ余裕がありそうなユリーカさんに対し、トウカは腰を曲げて擦っている。


「大丈夫か? 帰りはおぶってやろうか?」


 体力にはあまり自信が無いけど、屋敷までの道の雪かきは済んでるから、トウカをおぶって帰るくらいはできるはず。

 ついでに背中や後頭部へ色々と押し付けてもらいたい。


「いやいや、ご主人様におぶってもらうわけにはいかないッスよ!」

「だよな。必要ならアタシがおぶってやるよ」

「そうか」


 背中や後頭部に色々と押し付けられるだけでなく、合法的に太ももや尻に触れられると思ったのに。


「おっ、村の除雪作業も進んでるじゃねぇか」


 ユリーカさんの言う通り、屋根の雪下ろしは済んでいるようだし、地面の方も人が行き交うくらいの道幅は確保されている。

 雪に慣れていない移民者達や開拓支援で来た人達へ、元々の住人達が雪かきについて教えている様子や、焚き火を囲んで暖を取る老人達や、はしゃいで声を上げながら遊ぶ子供達の姿もある。

 これだけ雪が積もって、他所から来た人達は大丈夫かと義母上が心配していたけど、元々の住人達が協力することで上手くやっているようだ。

 特に子供達なんか雪の大変さを分かっていないから、雪合戦をしたり雪玉を転がしあって大きさを競ったりして遊んでいる。


「姉貴とアタシも昔はああだったぜ。どっちが大きな雪玉を作れるか勝負したり、大人がどかした雪で作った坂を滑り降りて遊んだり」


 義母上とユリーカさんにもそういう頃があったんだな。


「雪合戦で勝負したときなんか、姉貴が前日に落とし穴掘ってやがってよ。落ちたアタシに容赦なく雪玉投げ込んできたんだぜ? 酷いと思わねぇか?」


 あの義母上がそんなことをしたのか。

 さすがは元熊殺しお嬢、妹との雪合戦に勝利するため前日から落とし穴を用意するなんて、普通は思いつかないって。


「お館様がそんなことしたんッスか!? ユリーカさんじゃなくて?」

「そうなんだよ。今でこそ大人しいけど、昔の姉貴はお転婆だったからな。ガッチガチに固めた雪玉を、木の棒でアタシへ向けて打ってきたこともあったぜ」


 危ないってそれ。下手すれば怪我どころじゃ済まないぞ。


「でもアタシだってやられっぱなしじゃなかったぜ。潜ませておいた村の仲間達の協力で四方八方から雪玉を浴びせたり、籠に雪玉をたくさん詰めて姉貴に向けて放ったりして、バッチリ仕返ししたからな」


 その後で義母上がその仕返しをして、またユリーカさんがその仕返しをして、というのを雪解けの時期まで延々と続けていたらしい。子供か。いや、当時は子供だったか。

 もしもそんな二人が、前にセリカから聞いた大雪合戦に参加したら本当にどうなることやら。

 密かに開催はされているそうだけど、もうやったのかな? それともこれから開催されるのだろうか。雪まみれの義母上もユリーカさんも見ていないから、まだ開催されていない可能性の方が高い。

 怪我人が出ている話だから、開催されないなら開催されなくていい。義母上とユリーカさんが参加して、圧倒的存在感の胸がブルンブルン揺れる光景はちょっと見てみたいけど。


「さて、ボチボチ帰るか。トウカ、おぶった方がいいか?」

「少し休んだらマシになったからいいッスよ」

「そうか? 辛くなったらいつでも」

「あっ、シオン様に団長さん! それにトウカさんも! ちょうどいいところに!」


 いざ帰ろうとしたところへ、厚着のシードが除雪した道をポテポテ駆けてきた。

 厚着しているせいで、ずんぐり体型の人形が動いているようだ。


「どうかしたのか?」

「白い毛の大きな熊さんがこっちへ近づいているって、木々が教えてくれたんです」


 白い毛の大きな熊? 大きさはともかく、白い毛ってことは普通の熊じゃない。

 そもそも普通の熊なら、今の時期は冬眠中だ。


「白い毛の熊っつーことは魔物だな。何か分かるか?」

「はい。偵察に行った自警団の方が、コキュートスグリズリーだって言ってました」

「マジッスか!? 冬の暴君って呼ばれてる、好戦的でメッチャ強い魔物じゃないッスか!」


 よく分からないけど、なんか凄そうな魔物なんだな。


「自警団の方々は、とても自分達じゃ討伐は無理だと言うので、ユリーカさんを呼びに来たんです」

「あん? 開拓支援団の兵士の中に、討伐できそうなのが何人かいただろ」

「慣れない雪かきで腰痛になって動けないそうです」


 こう言っちゃ悪いけど、使えねー!

 肝心な時に働いてくれなきゃ困るじゃないか。

 いくら慣れない雪かきを手伝ったからって、こんな時に腰痛になるなよ。


「ったく、情けないねぇの。分かったよ、すぐに行く。トウカ、アタシの剣出せ」

「了解ッス!」


 敬礼をしたトウカが空間魔法の「収納空間」に入れておいた、ユリーカさんの剣を取り出して渡す。


「んじゃ、ちょっくら行ってくっか。シード、担いでやるから案内しな」

「分かりました」

「あの、大丈夫なんですか? 必要なら、冒険者ギルドへ応援を要請しますよ」


 強い魔物みたいだし、討伐できそうな人達が腰痛で動けないなら応援を要請すべきだろう。

 ところがユリーカさんは受け取った剣を手に持ち、シードを肩に担いでニヤリと笑った。


「んなもんいらねぇよ。白熊程度なら一人で何体も倒したからな、心配いらねぇから任せとけ」


 えっ? 一人で何体も倒した?


「いざとなりゃ姉貴がなんとかするさ。ガキの頃は冬の雪山で、アタシとよく狩ってたからな。んじゃ、行ってくるぜ」


 ユリーカさんはそう言い残し、圧倒的存在感の胸をブルンブルン揺らしながら駆けて行った。

 担がれたシードの悲鳴が聞こえるけど、そっちよりもさっきの発言の方が気になる。

 一人で何体も倒したっていうのは傭兵時代の話かと思ったけど、子供の頃に義母上と競うように狩っていたって言うからには、少なくとも家出する前の話だろう。

 というか義母上も倒してたの? 冬の暴君とか呼ばれてた魔物を。昔呼ばれていた熊殺しお嬢って、その熊も含まれてたのか?


「……とりあえず、今のうちに屋敷へ避難するッスよ」

「……そうだな。義母上に報告してないとな」


 ついポカーンとしちゃったけど、強い魔物が迫っているのは事実だから報告しておかないと。

 急いで屋敷に戻り、セリカとブレイドさん達、そして文官達と打ち合わせ中だった義母上へ報告したら文官達は大慌てだったけど、義母上とセリカとブレイドさん達は落ち着いていた。


「領主様、すぐに対策を立てましょう」

「いくらユリーカ様でも、コキュートスグリズリーは危険です。急ぎ冒険者ギルドへ応援を」

「それよりも腰を痛めた兵士達の治療をした方が」


 すぐに対策を取ろうとする文官達に対し、義母上達は一切慌てることなく落ち着いている。


「皆、落ち着きなさい。大丈夫よ、コキュートスグリズリーならユリーカがいれば十分よ」

「しかし領主様!」

「だって子供の頃、私とユリーカで何体も狩っていたもの」

『……えっ?』


 騒いでいた文官達がピタリと停止した。やっぱりその話、本当だったんだ。


「懐かしいわね。どっちが先にしとめるか、どっちが大きいのを狩れるかで競争したわ」

「あの、お館様?」

「弓魔法で眉間を一撃で撃ち抜けた時は気持ち良かったわね。ユリーカもコキュートスグリズリーの首を、剣の一閃で切り落としてたし」


 わぁ……。二人で協力して狩っていたじゃなくて、それぞれ一人で狩っていたのか。さすがは元熊殺しお嬢とその妹。

 というか義母上、一般家庭に生まれていたら冒険者になって名を挙げていたかもな。


「よく言いますね、お母様。去年も一昨年もその前も、毎年のように狩ってるじゃないですか」


 毎年!?


「コキュートスグリズリーが出たら領主様が狩りに来て、近くにある村や集落の人達で持ち帰るのは冬の恒例ですからね」


 えっ、えぇ……。


「冬の間の貴重な食料だし、皮は防寒着として最適だから助かりましたよ」


 強い魔物を食料と防寒着扱いって。


「今年は狩りに行く必要が無いと思ってましたが、向こうから来ましたか。飛んで火にいるなんとやら、ね」


 ……セリカとブレイドさん達が落ち着いているのは、そういう理由か。

 義母上のコキュートスグリズリー狩りは、毎年の恒例と化していたんだな。

 昔は熊殺しお嬢なんて呼ばれていたそうだけど、熊狩りの腕は未だに現役なんだな。熊殺し領主、なんか強そうで敵対したくない。敵対するつもりなんて、これっぽっちも無いけれど。


「ま、まあ、そういう訳だから心配しなくていいわよ。ユリーカなら問題無く狩れるし、いざとなったら私が狩ってくるわ」

「はあ……」


 釈然としない様子の文官達。気持ちは分かるぞ。


「まあ一応注意はしておきましょう。念のため、私の弓を用意しておくわ」


 慌てる様子なんか一切無く、落ち着いた様子で弓を用意しに行く義母上を見送る。

 そこで冒険者ギルドへ行くじゃなくて、自分の弓を用意する辺りが元熊殺しお嬢で現熊殺し領主なんだろう。


「あのセリカ様? 先ほどのお話は」

「本当ですよ。ですから慌てなくて大丈夫です」


 本当だろうかと半信半疑でいることしばらく。

 首を切り落とされた白い巨熊が自警団員達によって運ばれてきて、それをやったと思われる雪まみれのユリーカさんが、返り血を浴びた顔でにこやかに笑いながら帰ってきた。


「ハッハッハッ。どんなもんよ、アタシに掛かればこの通りよ」

「腕は落ちてないようね、ユリーカ」


 屋敷の外で義母上達と一緒に出迎えたものの、首を切り落とされたコキュートスグリズリーの大きさに言葉を失う。

 明らかにユリーカさんより大きな体と、それを支える短いながらも太い手足。当然首も太いけど、見事なまでにスッパリ切断されている。

 その光景にトウカだけでなく、一緒に様子を見に来たユリスとサミーとウェネですら、口を半開きにしてポカンと突っ立ったままだ。


「さすが団長です」

「昔と変わらぬ首断ちの一閃、見事でした」


 称賛している団員達によると、時間稼ぎに作った「くり抜き」を利用した落とし穴の上を跳び越え、迫るコキュートスグリズリーの首を一閃で切断したらしい。

 その後で倒した満足感から、油断して時間稼ぎ用の落とし穴に落ちたそうだけど。


「それが無ければ完璧だったのに」

「うっせぇっ!」


 なるほど、それでユリーカさんが雪まみれなのか。

 しかし本当にデカいな。手足も首も太いし、生えている爪や牙も鋭くて危なそうだ。

 これを義母上も狩れるんだよな。しかも弓矢で。

 ……うん、やっぱり義母上は怒らせないように努めよう。


「凄かったですよ。到着して私を下ろすやいなや、ダーッと走っていって団員の方々の指摘で落とし穴を飛び越えて、剣を抜きながら勢いそのままに熊さんを首ちょんぱでしたから」


 一緒に戻って来たシードの話を聞くに、本当に一閃で倒したようだ。

 だとしたら、そんなユリーカさんが死にかけたキマイラって魔物はどれだけ強いんだよ。


「それでユリーカ叔母様、このコキュートスグリズリーはどうするのですか?」

「アタシが倒したんだ、当然アタシが貰った。というわけでシオン、解体頼むわ」

「えっ? あっ、はい」


 いけないいけない、つい余計なことを考えてた。食えるみたいだし、さっさと解体するか。


「サミー、手伝ってくれ」

「うん、任せて」


 まずは「血抜き」で体内から血を全て外へ出す。

 一緒に運ばれてきた頭部も同様だ。なんでもこいつの頬の肉は美味いらしい。

 そしたら次はモフモフしてそうな体毛が生えている皮を、「皮はぎ」でスポーンとはぎ取る。

 続いて「内臓摘出」。腹部に切れ目が生じて、そこから贓物がゴゾッと出てきた。


「こいつの内臓は食えるから腸と心臓と肝、それと胃も残しておいてくれ」

「分かりました」


 内臓を回収するサミーにユリーカさんが指摘する。食えるんだ、こいつの内臓。

 まあいい、作業を続けよう。

 魚なら次は「三枚おろし」だけど、こいつは肉だから部位ごとに切り取る「切り分け」で肉を取っていく。

 それをサミーが部位ごとに分けて回収していき、内臓と一緒に一旦「冷蔵庫」へ入れておく。


「骨はどうします?」

「武器や防具の加工に使えるけど、良い出汁が出るのよね」

「じゃあこれも回収ですね」


 残った部位は売り物になる皮と牙と爪を残し、全て処分することに。


「コキュートスグリズリーは扱ったことがないんですが、どうやって食べるんですか?」

「肉も内臓も焼くか煮込むかして食べるわね。焼くなら歯応えが強くなるから薄切りに、時間を掛けて煮込めば柔らかくなるけど灰汁がたくさん出るから、そこに注意してね」

「分かりました。夕食に出せるように準備しますね」


 どうやら今夜は熊料理のようだ。でもこいつ、美味いのかな?


「一年ぶりのコキュートスグリズリー、楽しみです」

「美味しいのですか?」

「ええ、とても美味しいですよ。冬のごちそうです」


 楽しみにしているセリカの笑顔がかわいとおしいし、ごちそうと言い切るコキュートスグリズリーの味が気になる。


「ほうほう、それは楽しみッスね」

「プル」


 そう聞いたら期待しないわけにはいかない。早くも夕食が楽しみになってきた。

 ところが、そう簡単にはいかなかった。


「シオン、助けて!」


 仕事中にサミーが駆け込んできて、調理の手伝いを求められた。

 なんでも内臓を煮込んでる間に肉を薄切りにしようとしたら、肉が硬くて切るのに手こずってしまう上に、煮込んでいる間に出た灰汁の量が思った以上に多く、他の調理が進まないらしい。

 今日は家の雪かきの関係でサラさんもトルシェさんは休み、そのため屋敷のことはウェネへの指導をしながらユリスが回しているため、他に手伝える人がいないのだという。


「分かった。義母上に話を通したら、すぐに行く」

「お願いね!」


 というわけで話を通した後、急遽厨房の助っ人に参加。

 溢れそうなほど出てくる灰汁をサミーが取っている間に「薄切り」で肉を切り、それが済んだらサミーが他の食材の準備をするため交代し、「灰汁取り」で灰汁を取り除いていく。


「思った以上に出るんだな」


 取っても取ってもすぐにまた溢れ出そうなほど灰汁が出てくる。


「そうなんだよ。でも、その灰汁の下のスープを見てみなよ。内臓を煮込んでるのに、綺麗に澄んでいるんだよ」


 ほう? どれどれ?

 おお、本当に綺麗に澄んでいる。まるで出来の良いコンソメスープみたいだ。

 とても内臓を煮込んでいるとは思えない。


「臭み消しはしておくか?」

「いや、しなくていいよ。それも含めて味付けするから」

「分かった」


 こうしていると調理魔法を授かったばかりの頃を思い出すな。

 魔法の使い勝手を試すため、トーマスやサミーと色々やったっけ。

 そんな思い出に浸りつつ、サミーの指示でこしらえた夕食の熊料理は確かに美味い。

 焼いた薄切り肉も煮込んだ内臓も絶品で、臭み消しに使った品質向上した香辛料にも負けない強い味をしていて、セリカが冬のごちそうだと言っていた理由がよく分かった。

 そのセリカは妊娠により、肉は大丈夫だけど内臓だが駄目になっていたようで少しガッカリしていたから、頭を撫でて慰めておく。


「ママ、このお肉凄く美味しいね!」


 あまりの美味さにミィカも大騒ぎだ。


「「あう……」」

「ププル……」


 食事をする必要の無いボサノムとサラノム、それとウェネも興味深そうに料理を眺めている。

 しかし本当に美味い。ユリーカさん提供の酒を温めたアツカンともよく合うじゃないか。


「だろ? ママが狩ってきたんだぜ」

「ママ凄い! 私も大きくなったら、ママみたいに狩ってくる!」


 キラキラした眼差しでとんでもないことを言ったよ、この幼女。

 もしかしたらミィカが二代目熊殺しになるのか? ははっ、いくら義母上の姪でユリーカさんの娘でもまさかな。

 ところがこの十年後、母親と同等の強さを得たミィカが二代目熊殺しと呼ばれるようになることを、この時の俺はまだ知らなかった。


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