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とある夜の捕り物とノームの会話


 ***とある夜の捕り物***


 真夜中ということもあり、日中より寒い森の中を少人数で固まって走る。

 こんな真夜中に活動している俺達は、とある方に雇われた盗賊だ。依頼内容は今話題のバーナード士爵領へ向かい、そこに住むドライアドを攫うことだ。

 ドライアドの作る薬草を欲する者は多いし、見た目が良いのを攫えば別の意味でも使えるだろうという、雇い主から受けた裏の極秘任務だ。それと、たかが士爵家が目立っているのが気に入らないから、ついでに女を犯すなり金品や食料を奪うなり火を点けるなり、好きに暴れてもいいと言われている。

 正直あまり気乗りする類の仕事じゃないが、そういうことなら話は別だ。

 危ない橋を渡る以上、ちゃんと契約書も交わしたから金も女も好きにさせてもらうぜ。


「もう少しか?」

「ああ、そのはずだ」


 バーナード士爵領は国の東の果てにある辺境だけあって、さすがに距離が遠い。

 そこまで向かう金と手間も掛けた分、貰える物はきっちり貰わないとな。

 領民は亜人が多いって話だが、たまにはそういうのを犯すもいいし、領主とその娘は結構な美人らしいから楽しみだぜ。

 気づかれないよう、ここにいるとは別の仲間達がそれぞれ少数に分かれて動いているが、あいつらに先を越されないようにしないと。


「おっ、明かりが見えてきたぜ」

「もう少しだ。一旦止まれ、突入前に作戦を再確認する」


 俺の指示で仲間達が止まる。

 やることは荒事だが、仕事まで荒くやったらすぐに足がつく。そうならないよう、慎重に事を運ばなくちゃな。

 仲間達と向き合い、事前に手に入れておいた地図を広げて作戦を確認する。

 注意すべきは開拓支援のため派遣されている、レトリバー辺境伯家の兵士とコーギー侯爵家の兵士だ。こいつらに注意すれば、今回の仕事はそう難しくない。

 大事なのはこいつらの気を引く陽動だ。そこを上手くやれるかが、この仕事の要と言ってもいい。


「よし、行くぞ」

『おう』


 作戦の確認を終え、いざ仕事に取り掛かろうと意気揚々に駆け出す。

 ところが、そのすぐ後……。


『うおぉぉぉっ! 待てえぇぇぇっ!』


 俺は仲間達と共に森の中を逃げ回っていた。

 後ろからは松明を手に追いかけて来る、兵士達とモグラの獣人達がいる。


「どういうことだ、何故待ち伏せされていた!?」

「どこから情報が漏れた!?」

「裏切ったのはどいつだ!」

「そんなことより、今はとにかく走れ!」


 もうすぐ村へ辿り着くというところだったのに、待ち伏せされていたように俺達は迎撃され、負傷した仲間二人が捕まって俺達も全力で追手から逃げている。

 今はとにかく走れと言ったものの、本当にどうして気づかれたんだ。


「しかしあいつら、なんでこうも正確に追ってこられるんだ」

「こんな暗闇で、俺達の服装も真っ黒だってのに」


 確かに不思議だが、今はそれどころじゃない。


「こうなったらバラバラに逃げるぞ」

「ああ、捕まるんじゃねぇぞ!」


 そうして全員がバラバラに逃げたのだが……俺はすぐに捕まってしまった。

 逃げ足には自信があったのに、まるで行き先が分かっているかのように回り込まれて、挙句にモグラの獣人共が待ち伏せていたのに気づかず、そこへ突っ込んでしまって袋叩きにされて気づいたら縛られて運ばれていた。

 しかも連れて行かれた先には、バラバラに逃げたはずの仲間達や別働隊の連中が全員捕まっていた。


「どうして……こうなった……」

「落ち込んでる暇はないぞ。お前達は誰の手の者で、どんな目的で来た」


 くぅ……。こんな黒装束じゃ冒険者だとも言えないし、逃げた時点で怪しいと思われているようなものだから、言い訳が思いつかない。

 こうなったらだんまりを決め込むしかない。仲間達の方を見ると、揃って頷いている。さすが、分かってるじゃないか。


「おい、聞いてるのか」


 無言だ、無言を貫け。貝だ、俺は口を閉じた貝なんだ。


「だんまりですね」

「なら口を割らせるまでだ」


 尋問か? 拷問か? 俺達はプロだ、そんなことで口は割らん。


「今日の担当ドライアドはどなただ?」

「バイオさんです。呼んできますね」


 モグラの獣人が走って行く。どうしてそこでドライアドなんだ?


「呼んできました。バイオ先生、入ります」

「ヒャッハー! こいつらが今日の獲物共か、オーイエー!」


 なんだこの緑の長髪を振り回しながら現れた、褐色肌のイカれた感じの奴は!?

 まさか、これがドライアドだというのか。聞いていたのと、雰囲気が全然違うじゃないか!


「そうです先生。こいつらの口を割らせたいのです」

「任せておけよブラザー! 今日の俺は婿殿が手入れした土に寝転がってきたばっかでテンションマックスだから、初っ端からフルスロットルでいくぜ、ヒャッハー!」


 くっ、だが俺達はプロ、何をされようと口は割らん。


「さあお前ら、これがラストチャンスだぜ。喋って楽になっちまえよ」


 誰が喋るか。何と言われようとも、だんまりを決め込んでやる。


「オーケイ、忠告はしたぜ。そんじゃあ、エキセントリックにテメェの口を割らせてやるぜ。ヒャッハー!」


 やれるもんならやってみやがれ。


「んじゃまっ、手始めにドライアド特性の塗った箇所が痺れて感覚が無くなる軟膏を塗って、そこを刃物で深く切ったら、傷口には血止めとは逆の効果がある薬液をぶっかけておくか」


 ……なんだって?

 感覚を無くした箇所を刃物で深く切るだって?

 しかも傷口には血止めとは逆の効果がある薬を掛ける!?


「痺れはしばらく取れねぇが、その間は痛みも無い傷口から血が流れ出るってわけだぜ。しかも血が固まるのを促して止血する薬とは逆の効果がある薬液を傷口へぶっかけるから、そう簡単に出血は止まらねぇぜ」

「なるほど、痛みが無い状態で止まらない出血が続くわけですか」

「その通りだぜ、ヒャッハー!」


 ヒャッハー! じゃねぇ! 冗談じゃねぇぞ、そんな目に遭ってたまるか!

 痛みの無い傷から出血が続くとか、いつ血を失って死ぬか分からなくて怖いわ!


「しかし、最初からそれはやり過ぎでは?」


 そうだそこの兵士、もっと言ってやれ!


「ああ? じゃあこっちの、塗った個所が乾燥して滅茶苦茶痒くなる薬にするか? 薬の効果が無くなれば痒みが消えるんじゃなくて、肌の乾燥をどうにかしねぇ限り痒みが延々と続くぜ」


 それもそれで嫌だわ!

 痒みの出る薬に耐える訓練はしていたが、そういったことは訓練していない。

 肌が乾燥した時の痒みは子供の頃に何度か経験しているが、あれが延々と続くのは辛い。


「それとも目に入れたら焼けるような痛みに襲われる、こっちの目薬を使うか?」


 やめろ、そんな目に害を与える薬は目薬じゃない!


「いや、いっそ鼻から注入して鼻腔と喉と胃に焼けるような激痛を与える、この薬にするか」


 いい加減にしろ! いくら情報を引き出すためとはいえ、さっきから物騒な薬ばかりじゃないか! 鼻から注入する薬なんて、聞いたことが無いぞ!

 本当にこいつは、争いを好まないというドライアドなのか!? それともドライアドは戦いを好まないだけで、こういう嗜虐的趣味がある種族なのか!?


「えぇい面倒だ、いっそ全部使ってやるぜ! ヒャッハー!」


 やめろおぉぉぉっ! なんでも喋るからやめてくれえぇぇぇぇっ!

 その後、俺達は薬を使われたくない一心で洗いざらい全て吐いた。

 雇い主はとある地の領主をしている男爵で、我々を派遣した目的はドライアドの誘拐。さらにバーナード領内での放火や略奪や強姦を楽しんできていいと言われたことも含め、なにもかも話した。


「証拠もあります。雇い主が報酬の約束を違えないよう、交わした契約書があります。おい」

「はい。自分が空間魔法で保管しているであります!」


 後ろ暗いことをするんだ、こういう保険は用意するに限る。

 約束したのは自分じゃないと言われないよう、指印を押させたから十分な証拠になるだろう。

 取り出したそれを兵士が確認すると、部下へ命じてどこかへ走らせた。おそらくは責任者か、領主のバーナード士爵の下へでも行ったんだろう。

 他にもいくつか質問をされ、兵士の背後でわくわくしながら薬を準備しているドライアドに怯えつつ、俺達はそれに正直に答えた。

 その翌日に近くの騎士団の下へ連行され、全員牢屋へぶち込まれた。

 幸いにも未遂だったから、死罪や鉱山送りにはならずに済みそうだ。これを機にまっとうな道を行こう、でないとあのドライアドが夢に出そうだ。

 怖い、ドライアド怖いよぅ……。



 *****



 夜中に不審者を多数捕まえたという報告が届いた。

 そいつらは盗賊で目的はドライアドの誘拐。そのついでに、領内で略奪や放火や強姦までしようとしていたなんてね。

 だけどそのドライアドが周辺の植物から情報を得て、すぐに開拓支援団の兵士や自警団へ伝えて対応してもらったから、村や集落へ辿り着く前に追い返して森の中で捕まえたとのこと。

 既に聴き取りも終えていて、首謀者はワンキル男爵だと判明している。

 聞いたことが無いけど、報告に来てくれたユリーカは傭兵時代にその人の領地へ行ったことがあるようで、その時のことを教えてくれたわ。


「せっかく良い土地持ってんのに、お世辞にも統治が良いとは言えなかったぜ」


 男爵の領地は肥沃な土壌と豊富な水量がある土地なのに、肝心のワンキル男爵一族がボンクラらしいわ。

 領民のことは良い金づる程度にしか思っておらず、税は高いし何かにつけて徴収をするしで、領民は豊作になっても食べていけるギリギリの状態だったとか。


「聴き取りとは別にそこいらの事情も聴いたけど、変わってないっぽいな。領民のほとんどは生かさず殺さず状態で、潤ってるのは領主とその周りだけって話だ」

「それで? うちが目立っているのが気に入らないから、ドライアドを攫った上に領内を滅茶苦茶にしてやろうと考えたわけ?」


 盗賊と繋がっている点も含めて、同じ領主として情けないわ。

 それでいて目的のドライアドによって発見されて、追跡にも協力されて捕まったんだから世話ないわね。


「しっかしドライアドはスゲーな。植物の声を聴きとれるから、不審者がどこから何にで来るか丸分かりだし、背負って連れて行けば追跡にも役立つんだからな」


 周辺に木々が無い荒野や砂漠でない限り、ドライアドの警戒網を突破するのは不可能よね。おまけに追跡に連れていければ、逃走経路も丸分かりよ。

 彼らのお陰で、どれだけ獣害や盗賊に対応できたことか。本当に頭が上がらないわね。


「モグラの獣人達も夜目が効くから、明かり無しでの待ち伏せに向いてるしな」


 そうそう、今回の捕り物ではモグラの獣人達も活躍したのよね。

 ユリーカの言う通り、夜目が利く彼らは明かりが無くとも相手が見えるから、相手を追跡したり待ち伏せしたりできる。ドライアドからの情報で行き先を誘導できれば、待ち伏せなんてやり放題だしね。

 実際、サクヤはそれで結構な人数を捕まえたみたいね。


「んで? 捕まえた連中は近くの騎士団の基地へ連行でいいか?」

「それでお願い。男爵には国を通して私の方から抗議文を送っておくわ」


 直接送ったら事実無根と惚けられるでしょうけど、国を通されたら向こうも無視できないでしょう。

 せっかく土地に恵まれているんだから、これを機にワンキル男爵領の領地運営がまともになることを願うわ。

 それから一ヶ月後、フミャー商会と打ち合わせをしている時に担当者から、私の抗議文を切っ掛けにワンキル男爵家に国の調査が入り、数々の不正と盗賊との深い繋がりが発覚して罰金と準男爵への降格、さらに杜撰な領地運営を指摘されて三年間の厳重観察処分になったって聞かされたわ。

 なんか、思ってたより大事なってないかしら?



 ~~少し前の王城~~



「あなた! ワンキル準男爵への処分はもっと重くすべきです! あんなに素晴らしい紅茶を生み出す地を嫉妬で襲おうとするとは、不届き千万!」

「お母様の言う通りです、お父様! あんなに可愛いドライアドさんを誘拐しようとしたんですよ、絶対に許せません!」

「お、落ち着けお前達。これはワンキル準男爵家を調査して、その結果を法に照らし合わせた上で最も重い処分なのだ。未遂という点を踏まえると、これが限界なのだ」

「そこをなんとかするのが、王であるお父様のお仕事ではないですか!」

「いや娘よ、それは職権乱用だからなっ!?」

「この子の言う通りですよ、あなた!」

「いやお前も、王妃なら王族が法を順守する大事さが分かるだろう!?」



 ***ノーム達の会話***



 あっうっ! あうあううっ!

 うあうっあうっ!

 あうっあうっあうっ!


 *意味不明なので翻訳します*


 オッスッ! オイラはノーム!

 名前はサラノムっ!

 大地の精霊なんだぜ!


「なんでいきなり自己紹介?」


 こいつは同じノームのボサノム。俺達は精霊界にいた頃からのダチだぜ。


「いや、なんかやらなきゃいけない気がしたから」

「なにそれ?」


 なにそれと言われてもな。精霊的にこう、頭にキュピーンときたというか、なんかそんな感じだ。


「まあいいや。ところでさ、この前は主が喜んでくれて良かったね」

「だな」


 オイラ達が精霊界からこっちへ来るためには、豊富な魔力を含んだ良質な土がなきゃならない。

 偶然が重ならなきゃそんな土は滅多にできないが、人工的にそれをやってのけちまったのがシオンって人間だ。だからこそ、その土を通じてこっちへ来たオイラ達はあいつを主って呼ぶ。

 なんかよく分からない魔力が含まれていたけど、そのお陰でオイラ達の力が強化されたから文句は無いぜ。

 その力を主や、その連れの奴らも喜んでたしな。


「しっかし、こっちは思ったよりも楽しいな」

「だね」


 主は良い奴だし、その周りにいるのも良い奴ばかりだ。

 特にミィカっていう虎の女の子はいい。一緒に遊んでくれるし村のダチを紹介してくれるから、こっちでのダチがたくさんできた。

 ユリスっていうのが連れてるロイとマルコも懐いてくれてるし、本当にこっちへ来て正解だったぜ。

 あっ、それとトウカって鬼の女も、オイラ達にナイスな名前を付けてくれたから感謝してるぜ。


「向こうの友達も、こっちへ来られればいいのにね」

「無茶言うなよ。普通ならそう簡単に来れるもんじゃないんだぜ」


 そんだけ主は普通じゃないってことだ!

 うん? これって褒めてないのか?


「でもさ、あそこなら来られそうじゃない?」

「どこだよ」

「お風呂」

「ああ、そういえばそうだな」


 言われてみればそうかも。

 主が住んでる屋敷のお風呂は、いつも主が調理魔法とやらで水を注ぎ、温めてお湯にしている。

 オイラ達の力を強化させた、なんかよく分からない魔力は含まれていないとはいえ、主の膨大な魔力と繊細な魔力の制御と操作で生み出した水と熱を何度も注がれたから、火と水の魔力溜まりができて徐々に大きくなってた。

 それを見るための魔法を使わないと人には見えないけど、精霊のオイラ達には一目で分かる。


「あの調子なら、いずれサラマンダーとウンディーネは来られそうじゃない?」

「同感。つうかオイラ達がこっち来たから、あいつらが来そうじゃね?」

「あいつら?」

「オイラの相棒とお前の……ダチのウンディーネ」

「ああ、あの子か。そうかもね」


 そうかもねって、気楽なもんだな。オイラの場合は相棒のサラマンダーが来るだろうが、お前の場合はそうじゃないだろ。

 ボサノムにとってはダチでも、向こうはお前に惚れ込んでんだからよ。なのにお前が気付かないから日々アピールが増してたじゃねぇか。

 というか、それでもあいつの気持ちに気づかないお前が別の意味で凄いよ。


「まあ、まだ先の話だろうがな」

「そうだね。毎日お湯を抜いてるせいで魔力溜まりはそうそう大きくならないから、あの調子ならずっと先だろうね」


 それこそ一日に何度もお湯を入れ替えたり、主が浴槽に入って調理魔法とやらで水を出しっぱなしにしながら掃除でもしない限りな。


「ボサくーん、サラくーん、遊びに行くよー!」


 おっ、ミィカが呼んでる。もうそんな時間か。


「うっしゃっ、行こうぜ」

「うん。今日は何して遊ぶんだろうね」


 なんだっていいさ、楽しけりゃな。


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